企業間取引では、契約書を整備し、請求書や送金記録を残していれば税務上も問題ないと考えられがちです。しかし、税務の世界では契約書の形式だけでなく、「実際に誰が利益を得ているのか」「誰が取引を支配しているのか」という実質が重視されます。
今回紹介する国税不服審判所の公表裁決では、法人が国内で商品を仕入れて海外へ輸出する取引について、契約上は売主・買主として存在していたにもかかわらず、「実質的には取引当事者ではない」と判断されました。
この事例は、消費税法における「実質判定」の重要性を示すものであり、輸出取引だけでなくあらゆる企業間取引に共通する教訓を含んでいます。
消費税法第13条とは何か
消費税法第13条には、資産の譲渡等を行った者についての「実質判定」の規定があります。
通常、税法は契約書などの法律関係を前提として課税関係を判断します。しかし、形式上の名義人と実際に利益を受ける者が異なる場合、そのままでは適正な課税ができません。
そこで同条では、
- 名義人が単なる形式上の当事者である
- 実際の利益を受けていない
- 別の者が対価を享受している
という場合には、実際に利益を受ける者を取引当事者として消費税法を適用すると定めています。
つまり、「契約書に名前がある人」ではなく、「実際に利益を受ける人」を基準に課税する規定です。
どのような取引だったのか
本件では三者が関与していました。
- 日本国内の仕入先であるN社
- 海外の販売先であるP社
- その間に入った請求人
形式上は、
N社 → 請求人 → P社
という売買構造でした。
請求人は国内で商品を仕入れ、海外へ販売する輸出事業者として申告していました。
輸出売上については消費税が免税となるため、
- 売上は免税売上
- 国内仕入れに係る消費税は仕入税額控除
という処理を行っていました。
しかし税務署は、
「請求人は実質的に商品の売買を行っていない」
として消費税申告を否認しました。
税務署が問題視したポイント
税務署が重視したのは契約書の文言ではありませんでした。
実際の取引実態を詳細に調査した結果、
- 商品の価格や数量を決めていたのはN社とP社
- 商品の受渡しもN社とP社が主導
- 取引上のリスクもN社とP社が負担
- 代金回収リスクも請求人はほとんど負担していない
という状況が確認されました。
請求人は売買契約上は当事者でしたが、実際にはN社とP社の間に存在する「仲介的存在」に近い立場だったのです。
そのため税務署は、
「真の売主はN社」
「真の買主はP社」
であり、請求人は実質的な売買当事者ではないと判断しました。
審判所はなぜ税務署の判断を支持したのか
審判所も税務署と同様の考え方を採用しました。
裁決では、
「法律的実質的にみて、請求人は資産の譲渡等に係る対価を享受していない」
と判断しています。
ここで重要なのは、「利益があったかどうか」だけではない点です。
請求人は売買差益を受け取っていました。
しかし審判所は、
「商品の売買による対価を享受している主体」
とは認めませんでした。
つまり、
- 契約書がある
- 利益を得ている
- 請求書を発行している
だけでは不十分であり、
「実際に誰が取引を支配していたのか」
という点が決定的だったのです。
輸出取引で特に注意すべき理由
輸出取引では、
- 輸出免税
- 多額の仕入税額控除
- 消費税還付
が発生することがあります。
そのため税務当局は、
- 実際に輸出したのは誰か
- 商品を管理していたのは誰か
- 価格を決めていたのは誰か
- リスクを負担していたのは誰か
を厳しく確認します。
形式だけ整えた取引が存在すると、本来受けられない還付を受けることが可能になるためです。
近年は輸出取引や国際取引に対する調査も強化されており、実態確認はますます厳格になっています。
中小企業が学ぶべき実務上のポイント
この裁決から学べる実務上の教訓は少なくありません。
第一に、契約書だけでは安全とはいえないことです。
税務調査では契約書よりも、
- メール
- 発注記録
- 価格決定の経緯
- 会議記録
- 送金実態
などが重視される場合があります。
第二に、取引リスクを誰が負担しているかが重要です。
在庫リスクや代金未回収リスクを負わない場合、実質的な当事者性が否定される可能性があります。
第三に、消費税還付を伴う取引ほど実態の説明資料が必要になります。
輸出免税取引を行う事業者は、契約書だけでなく実際の業務フローも整理しておく必要があります。
形式より実質という税務の原則
税法には「実質課税の原則」という考え方があります。
消費税法第13条も、その考え方を具体化した規定の一つです。
企業活動が複雑化する中で、契約形態だけを見て課税関係を判断すると実態と乖離する場合があります。
そのため税務当局や裁判所、国税不服審判所は、
「誰が本当に利益を受けているのか」
「誰が本当に取引を行っているのか」
を重視します。
今回の裁決は、契約書どおりに取引を組み立てても、実態が伴わなければ税務上は認められないことを改めて示した事例といえるでしょう。
結論
今回の公表裁決では、国内仕入れと輸出販売を行っていた法人について、契約上は売買当事者であったものの、実態としては取引対価を享受していないとして消費税法第13条が適用されました。
税務は契約書の形式だけで判断されるものではありません。実際に誰が価格を決定し、誰がリスクを負い、誰が利益を享受しているのかが重要になります。
特に輸出取引や三者間取引、仲介取引などでは、契約書の整備だけでなく取引実態を説明できる証拠を残しておくことが不可欠です。
税務調査では「契約上どうなっているか」だけでなく、「実際はどうだったのか」が問われる時代になっていることを、この裁決は示しているといえるでしょう。
参考
・税のしるべ 2026年5月25日号
「【公表裁決】三者間の各取引の実質判定により資産の譲受け及び譲渡は請求人に帰属せず」
・国税不服審判所 令和7年9月8日付公表裁決
「消費税法第13条(資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定)に関する裁決事例」