消費税は事業者が国へ納めるだけではなく、一定の場合には国から還付を受けることがあります。
輸出取引や大きな設備投資などによって、売上にかかる消費税額より仕入れなどにかかる消費税額が多くなれば、差額の還付を受けられる場合があるためです。
一方、この仕組みを悪用して、実際には存在しない取引などを利用し、不正に還付を受けようとするケースも問題になります。
青木孝徳国税庁長官は、消費税の不正還付について厳格な審査を行い、必要に応じて還付を保留したうえで、書面による問い合わせや実地調査を実施していると説明しています。
還付申告だからといって、申告すればそのまま税金が返ってくるわけではないのです。
消費税はなぜ還付されることがあるのか
消費税の基本的な仕組みを簡単に確認しておきましょう。
事業者は、売上に伴って受け取った消費税額から、仕入れや経費などに伴って支払った消費税額を差し引いて納付税額を計算するのが基本です。
この仕組みによって、仕入れなどにかかる消費税額の方が大きくなれば、一定の要件の下で還付が生じることがあります。
したがって、消費税の還付そのものが不自然なわけではありません。
正常な事業活動の結果として還付になるケースはあります。
問題になるのは、この仕組みを利用して本来受け取れない還付金を取得しようとする行為です。
なぜ不正還付が問題になるのか
通常の申告漏れでは、本来納めるべき税金が納められないことが問題になります。
不正還付の場合には、それに加えて国から資金が流出することになります。
例えば、実際には存在しない仕入れを装えば、仕入れにかかった消費税額を実態より大きく見せられる可能性があります。
その結果、本来は存在しない還付額を作り出すことにつながります。
適正に申告している納税者との公平性を守るためにも、不正な還付申告を見つけることは税務行政の重要な仕事になります。
還付申告は厳格に審査される
国税庁では、消費税の還付申告について厳格な審査を実施しています。
還付申告が提出されたからといって、機械的に還付金を支払うわけではありません。
申告内容や国税当局が保有している資料情報などを確認し、還付申告の内容に問題がないかを審査します。
ここでも重要になるのがデータです。
国税庁には申告情報だけでなく、さまざまな資料情報があります。
それらを組み合わせることで、申告内容に不自然な点がないかを確認します。
疑わしい場合には還付を保留する
審査の結果、申告内容について確認する必要があると判断された場合には、すぐに還付しないことがあります。
青木長官は、必要に応じて還付を保留すると説明しています。
これは非常に重要な仕組みです。
一度不正な還付金を支払ってしまえば、その後に回収するための事務が必要になります。
場合によっては回収そのものが難しくなる可能性もあります。
そのため、疑わしい点があれば、還付する前に内容を確認することが重要になります。
書面で確認する場合もある
確認方法の一つが、書面による問い合わせです。
還付申告の内容について追加の確認が必要な場合には、納税者に対して資料や説明を求めることがあります。
申告書の数字だけでは、その取引が実際に行われたのか、どのような内容だったのかを十分に判断できない場合があるからです。
契約や取引の実態を裏付ける資料が重要になります。
還付申告を行う事業者にとっては、申告書を作成するだけでなく、その数字の根拠を説明できる状態にしておくことが大切です。
必要なら実地調査まで行う
書面による確認だけでは十分でない場合には、実地調査が行われることもあります。
帳簿や証拠書類などを確認し、申告された取引が実際に存在するのかを調べます。
還付額が大きいから必ず調査されるという単純な仕組みではありません。
重要なのは、申告内容や資料情報などを基に、確認する必要性が高い案件を見極めることです。
国税庁が進めているAIやデータ分析の高度化も、こうした調査対象の選定と深く関係しています。
KSK2でデータ分析はさらに重要になる
2026年9月24日には、新しい基幹システムKSK2が導入されます。
KSK2では、書面処理からデータ処理への転換を進めるとともに、AIやデータを活用した税務行政の高度化が予定されています。
利用可能なデータが増えれば、申告内容とさまざまな情報を照合しやすくなります。
国税庁は予測モデルを利用して申告漏れリスクを分析していますが、今後はKSK2によって利用可能になるデータを活用し、予測精度をさらに高める方針です。
消費税の還付審査についても、データを利用して確認すべき案件を効率的に見極めることの重要性は高まっていくでしょう。
関係機関との連携も重要になる
不正還付への対応は、国税庁だけで完結するとは限りません。
青木長官は、関係機関との連携も進めながら不正還付に厳正に対応する姿勢を示しています。
取引が複雑になり、国内外にまたがるケースが増えれば、一つの情報だけで全体像を把握することが難しくなります。
複数の情報を組み合わせて取引の実態を確認することが重要になります。
税務行政のデータ化は、単に申告書を電子化するためだけではありません。
さまざまな情報を結び付け、適正な課税や還付につなげるための基盤でもあるのです。
正常な還付申告でも証拠資料が重要になる
還付申告を行う事業者にとって重要なのは、不正還付対策を過度に恐れることではありません。
正当な還付であることを説明できる資料を適切に保存しておくことです。
還付額の計算根拠となった取引について、帳簿や請求書など必要な証拠資料を整えておけば、問い合わせを受けた場合にも説明しやすくなります。
税務行政のデータ分析が高度化しても、納税者側の基本は変わりません。
取引を正確に記録し、必要な証拠を残し、その内容に基づいて適正に申告することが最も重要です。
結論
消費税の還付申告は、申告すれば自動的に還付金が支払われる仕組みではありません。
国税庁は還付申告について厳格な審査を行い、必要に応じて還付を保留します。
さらに書面による問い合わせや実地調査を行い、取引や申告内容の実態を確認します。
今後はKSK2の導入によって利用できるデータが増え、AIやデータ分析もさらに高度化していきます。
その結果、すべての還付申告を同じように調べるのではなく、確認する必要性が高い案件をより効率的に絞り込む方向が強まると考えられます。
納税者にとって大切なのは、還付を受けることだけではありません。
なぜその還付額になるのかを帳簿や証拠資料によって説明できる状態にしておくことです。
データ中心の税務行政になるほど、申告数字の裏側にある取引の実態を正確に記録しておくことが重要になるのです。
参考
税のしるべ 2026年9月21日 青木新長官にインタビュー、KSK2導入で納税者の利便性向上へ