日本全体では子どもの数が減っています。
ところが千葉県流山市では、逆に子どもの数が大きく増えました。
2026年の15歳未満人口は3万4,646人で、5年前より2,788人増えています。
増加率は8.8%で全国10位ですが、増加数では全国最多です。
なぜ流山市にはこれほど多くの子育て世帯が集まったのでしょうか。
背景には、つくばエクスプレスによる交通利便性の向上だけではなく、住宅開発と保育政策を組み合わせて子育て世帯を受け入れてきた地域戦略があります。
5年間で子どもが2,788人増えた
2026年1月1日時点で、日本の15歳未満人口は1,364万6,698人です。
5年前より10.9%減っています。
全国の1,693市区町村で子どもの数が減りました。
これに対して流山市では、15歳未満人口が5年間で2,788人増え、3万4,646人になりました。
増加率は8.8%です。
全国的な少子化の流れとは反対方向に動いています。
重要なのは、流山市だけ出生率が急激に上昇して子どもが増えたと考えないことです。
大きな要因は、子育て世帯の流入です。
つくばエクスプレスが東京との距離を縮めた
流山市の人口増加を考えるうえで大きな転機となったのが、2005年のつくばエクスプレス開業です。
流山市内には3駅があります。
つくばエクスプレスを利用すれば、東京の秋葉原方面へ移動できます。
これによって流山市は、東京から離れた郊外という位置付けから、東京都心へ通勤できる住宅地としての性格を強めました。
勤務先は東京都内でも、住宅は千葉県流山市にするという選択がしやすくなったわけです。
鉄道によって通勤可能な範囲が広がると、住宅地としての価値も変わります。
鉄道だけでは人口は増えない
ただし、鉄道を整備しただけで子育て世帯が増えるわけではありません。
駅ができても、周囲に住宅がなければ住民は増えません。
流山市では、つくばエクスプレスの開業とともに土地区画整理が進められました。
マンションや戸建て住宅が供給されました。
公園や商業施設なども整備されました。
つまり鉄道によって人を運べるようにすると同時に、その人たちが実際に暮らせる街をつくったわけです。
交通インフラと住宅開発を組み合わせたことが人口増加の土台になりました。
子育て世帯が増えれば保育所が必要になる
住宅を大量に供給して子育て世帯が入居すると、次に問題になるのが保育です。
共働き世帯の場合、保育所を利用できるかどうかは居住地選択に大きく影響します。
通勤に便利な場所でも、子どもを預けられなければ生活は成立しません。
流山市では子育て世帯の増加に合わせて、保育施設の整備を進めました。
認可保育所は2010年の17園から、2026年9月には106園まで増えています。
約6倍です。
人口が増えてから対応しただけではなく、子育て世帯を受け入れるためのインフラを大きく増やしてきたことが分かります。
大規模マンションと保育施設を結び付けた
流山市では、大規模マンションの開発事業者に保育施設の提供を求めてきました。
ここが重要です。
住宅を建設すれば、そこには新しい住民が入ります。
ファミリー向けマンションであれば、多くの子どもも入ってきます。
ところが住宅だけを建て、保育所の整備を後から行政だけで行おうとすると、人口増加の速度に施設整備が追いつかない可能性があります。
そこで住宅開発と同時に保育施設も確保する考え方が必要になります。
街づくりと子育て政策を別々に考えない仕組みです。
駅前送迎保育ステーションで通勤と保育をつないだ
流山市の特徴的な取り組みの一つが、駅前送迎保育ステーションです。
2007年に千葉県内で初めて導入しました。
保護者は子どもを駅前の施設へ預けます。
そこからバスで市内の保育所へ子どもを送迎します。
夕方は逆に、各保育所から駅前まで子どもを送ります。
保護者が勤務先へ向かう動線と、子どもが保育所へ向かう動線を結び付けた仕組みです。
単純に保育所の数を増やすだけではなく、通勤する親が利用しやすい仕組みをつくったことが特徴です。
駅から遠い保育所も利用しやすくなる
保育所には場所によって人気の差が生まれます。
駅に近い保育所には利用希望者が集中しやすくなります。
一方、駅から離れた保育所には空きがあるかもしれません。
駅前送迎保育ステーションを利用すれば、保護者が毎朝駅から離れた保育所まで直接送り届ける必要がありません。
駅前で子どもを預け、その後は電車で勤務先へ向かえます。
これによって駅から離れた保育所も利用しやすくなります。
既存の保育施設を効率的に活用する仕組みでもあります。
子育て支援は保育園だけではない
流山市では保育所を増やすだけでなく、子育て支援の拠点も増やしています。
2024年度から子育て支援センターを毎年増設し、現在は15カ所あります。
子育てでは、子どもを保育所へ預けることだけが課題ではありません。
乳幼児期には親が孤立することがあります。
育児について相談したいこともあります。
地域の親子と交流したいという需要もあります。
子育て世帯が長く住み続けるためには、こうした日常的な支援も重要になります。
住宅と仕事と保育が一つの生活動線になる
流山市の人口増加を考えるとき、個々の政策を別々に見るだけでは十分ではありません。
東京で働く。
つくばエクスプレスで通勤する。
駅周辺や沿線の住宅に住む。
駅前で子どもを預ける。
保育所へは送迎バスが運ぶ。
夕方に駅前で子どもを迎える。
こうして住宅、交通、仕事、保育が一つの生活動線としてつながります。
子育て世帯にとって重要なのは、制度が存在することだけではありません。
毎日の生活が無理なく回るかどうかです。
子育て世帯を呼び込むには受け皿が必要になる
人口減少に悩む自治体では、子育て世帯を呼び込みたいという政策がよく掲げられます。
しかし移住を呼び掛けるだけでは人は増えません。
住む住宅があります。
仕事へ通える交通手段があります。
子どもを預ける場所があります。
学校があります。
買い物ができます。
子育てについて相談できる場所があります。
こうした受け皿がそろって初めて、子育て世帯にとって現実的な居住候補になります。
流山市では、鉄道開業という機会に住宅と子育てインフラを組み合わせてきました。
子どもの増加は自治体に新しい課題も生む
もちろん、子どもが増えればよいことばかりではありません。
保育所だけでなく、小学校や中学校の収容能力も必要になります。
道路や公園などのインフラも必要です。
人口急増に行政サービスが追いつかなければ、住民の生活環境が悪化する可能性があります。
また同じ年代の子育て世帯が集中して流入すれば、将来は住民の高齢化が同じ時期に進む可能性もあります。
人口増加を実現した後は、その人口構成を長期的にどう維持するかという次の課題が生まれます。
流山市の特徴は政策を組み合わせたことにある
流山市の子どもの増加を、つくばエクスプレスだけで説明することはできません。
鉄道があります。
住宅があります。
保育所があります。
駅前送迎保育ステーションがあります。
子育て支援センターがあります。
これらが組み合わさっています。
一つの目玉政策で人口を増やすというより、子育て世帯の生活に必要な条件を複数そろえることが重要だと分かります。
結論
千葉県流山市の15歳未満人口は2026年に3万4,646人となり、5年前より2,788人増えました。
増加数では全国最多です。
その背景には2005年に開業したつくばエクスプレスがあります。
しかし鉄道だけで子どもが増えたわけではありません。
沿線で住宅を供給し、認可保育所を2010年の17園から2026年9月には106園まで増やしました。
さらに駅前送迎保育ステーションや子育て支援センターなど、共働きの子育て世帯が暮らしやすい仕組みを整えてきました。
重要なのは、鉄道、住宅、保育を別々の政策として考えなかったことです。
交通が便利でも住む家がなければ人は増えません。
住宅があっても子どもを預けられなければ、共働き世帯には住みにくい街になります。
人口を呼び込むには、家族の毎日の生活が成立する仕組みをつくる必要があります。
流山市の事例は、子育て世帯を増やす地域戦略とは単に子育て支援策を増やすことではなく、住宅、交通、仕事、保育を一つの生活として設計することだと示しています。
参考
日本経済新聞 2026年9月19日 朝刊 中央区、子ども増に対応 晴海の小学校、新校舎急ぐ