企業が決算で棚卸資産を評価する際に重要となる考え方が「正味売却価額」です。
商品や製品は取得したときの原価だけで評価するのではなく、販売価格が大きく下落している場合には、その実態を決算に反映しなければなりません。その判断基準となるのが正味売却価額です。
しかし、正味売却価額は単純な販売価格ではなく、販売に必要となる費用まで考慮して算定するため、実務では正しく理解しておく必要があります。
正味売却価額とは
正味売却価額とは、棚卸資産を通常どおり販売した場合に企業が実際に回収できる金額をいいます。
会計基準では、
売価-見積追加製造原価-見積販売直接経費
によって算定します。
つまり、販売価格そのものではなく、販売するために必要なコストを差し引いた後の金額が正味売却価額になります。
この金額が帳簿価額を下回る場合には、収益性が低下していると判断され、評価損の計上を検討することになります。
売価との違い
正味売却価額と売価は似ていますが、意味は異なります。
売価とは、市場で販売する価格や契約価格を指します。
一方、正味売却価額は、その売価から販売までに必要となる追加費用を差し引いた金額です。
例えば、
- 売価 100万円
- 追加加工費 10万円
- 販売手数料 5万円
であれば、
正味売却価額は85万円になります。
つまり、企業が最終的に回収できる金額を表すのが正味売却価額なのです。
見積販売直接経費とは
見積販売直接経費とは、商品を販売するために直接必要となる費用です。
代表的なものとして、
- 販売手数料
- 運送費
- 梱包費
- 仲介手数料
などがあります。
これらは商品を売却しなければ発生しない費用であるため、正味売却価額を算定する際には売価から控除します。
一方、一般管理費など販売と直接関係のない費用は通常含まれません。
評価額はどのように算定するのか
実務では、まず市場価格や契約価格などから売価を把握します。
市場価格が明確でない場合には、
- 最近の販売実績
- 契約価格
- 客観的な市場資料
などを参考に合理的な価格を算定します。
さらに、完成までに必要な追加製造原価や販売直接経費を控除して正味売却価額を求めます。
その結果、帳簿価額より正味売却価額が低ければ、その差額について評価損を計上することになります。
税務上の時価との違い
実務では、会計上の正味売却価額と税務上の時価を混同しないことが重要です。
会計では正味売却価額を基本として収益性の低下を判断します。
一方、税務では、売却市場における市場価格や合理的に算定した価額などを基準として時価を判断します。
会計上は評価損を計上していても、税務上は損金算入が認められないケースもあるため、それぞれの基準を区別して運用する必要があります。
実務上の注意点
正味売却価額は、担当者の感覚だけで決めてよいものではありません。
市場価格や販売実績、契約書、見積書などの客観的な資料に基づいて算定し、その根拠を保存しておくことが重要です。
税務調査では、「なぜその価格で評価したのか」という説明が求められるため、価格決定の根拠となる資料や議事録などを整備しておくことが、適正な会計処理と税務対応につながります。
結論
正味売却価額は、棚卸資産の実際の回収可能額を示す重要な指標です。
単なる売価ではなく、追加製造原価や販売直接経費を控除した金額で評価することで、企業の財政状態をより適切に表すことができます。
また、会計上の正味売却価額と税務上の時価には違いがあるため、それぞれの考え方を正しく理解し、客観的な資料に基づいて評価を行うことが、信頼性の高い決算書の作成と税務リスクの低減につながるでしょう。
参考
企業実務 2026年8月号
「問題在庫を洗い出す!中間決算棚卸から始める『棚卸資産評価損』の実務」 大野貴史氏