東京と地方は共に成長できるのか――広域連携による新しい地域経済モデル

税理士
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東京と地方の税収格差を巡る議論では、東京都に集中する税収を地方へ再配分することが大きな論点となっています。

東京都には企業、人口、金融機関、大学、研究機関などが集中し、豊富な税収を確保できる経済基盤があります。

一方、地方では人口減少や高齢化が進み、企業の人材確保や自治体の財源確保が難しくなっています。

こうした状況に対して、東京都の小池百合子知事は、税収を分け合うだけではなく、東京と地方がそれぞれの強みを生かして成長することが重要だと主張しています。

その具体例として挙げられるのが、東京都と山梨県による水素関連分野での連携や、東京都と長野県によるスタートアップ支援などです。

東京が持つ資金、人材、市場と、地方が持つ技術、産業基盤、自然資源を組み合わせることで、新しい経済活動を生み出す考え方です。

人口減少時代の日本では、自治体が企業や人材を奪い合うだけでなく、広域的な連携によって経済成長を実現することが重要になります。

東京と地方の対立を超える成長戦略

東京と地方の税収格差を考える際には、財源の再配分と経済成長を区別する必要があります。

税収の再配分は、自治体間の財政力格差を調整するための政策です。

一方、経済成長は、企業活動の拡大、生産性の向上、雇用創出などによって、新しい付加価値を生み出すことです。

例えば、東京都の税収100億円を地方に再配分しても、日本全体の税収が100億円増えるわけではありません。

一方、東京と地方の企業が共同で新しい製品やサービスを開発し、国内外で売上高を増やせば、日本全体の経済規模が拡大する可能性があります。

税収の偏在是正には行政サービスの公平性を確保する役割がありますが、それだけでは地域経済の成長力を高めることはできません。

そのため、地方税財政制度の見直しと並行して、地域経済の成長戦略を進める必要があります。

東京と地方が互いの強みを活用する広域連携は、その重要な選択肢となります。

東京が持つ経済集積の強み

東京都には、日本経済を支えるさまざまな機能が集積しています。

大企業の本社、金融機関、投資家、大学、研究機関、専門人材などが集中していることが特徴です。

企業にとっては、取引先や金融機関へのアクセスが容易であり、新しい事業を展開しやすい環境があります。

また、スタートアップにとっては、資金調達や専門人材の確保、大企業との連携などの機会が豊富です。

こうした集積は、新しい技術やサービスの開発を促す要因となります。

一方、東京には土地や施設の確保に多額の費用がかかるという課題があります。

住宅費や事業所の賃料が高く、人材確保のコストも増加する傾向があります。

また、大規模な生産設備や実証施設を設置するための用地を確保することが難しい場合もあります。

そのため、研究開発や資金調達は東京で行い、生産や実証実験は地方で行うなど、機能を分担することが考えられます。

東京の経済集積を地方の成長につなげることが重要です。

地方が持つ産業基盤と地域資源

地方には、東京とは異なる経済的な強みがあります。

例えば、製造業の集積、農業、林業、水産業、観光資源、再生可能エネルギー、大学や研究機関などです。

地方の中小企業には、特定分野で高い技術力を持つ企業もあります。

こうした企業が東京の大企業やスタートアップと連携すれば、新しい製品やサービスを生み出す可能性があります。

また、地方では東京と比較して、工場や研究施設などの用地を確保しやすい地域があります。

自然環境や地域資源を活用した実証実験にも適した場所があります。

ただし、地方には人材不足や交通インフラの制約などの課題もあります。

そのため、地域資源が豊富であっても、それだけで産業が成長するわけではありません。

技術開発、資金調達、販路開拓、人材育成などを組み合わせる必要があります。

東京と地方の連携では、地方の資源を単に利用するのではなく、地域企業の付加価値や雇用を増やす仕組みが重要です。

東京都と山梨県の水素関連分野での連携

東京都と山梨県による水素関連分野での連携は、広域的な産業振興の一例です。

水素は、脱炭素社会の実現に向けて活用が期待されるエネルギーの一つです。

山梨県には、水素の製造や利用に関する技術開発の蓄積があります。

一方、東京都には大規模なエネルギー需要や企業、研究機関などが集積しています。

こうした双方の強みを組み合わせることで、水素関連技術の開発や利用拡大につなげることが考えられます。

例えば、地方で開発された技術を東京の企業や施設で活用すれば、実用化に向けた機会が広がります。

また、東京の企業が持つ資金や販売網を活用することで、地方企業の事業拡大につながる可能性があります。

ただし、水素関連事業には設備投資や技術開発などの費用が必要です。

経済性や安全性、エネルギー効率などの課題もあります。

広域連携の成果を評価する際には、連携協定の締結だけでなく、事業化、雇用創出、企業収益などの具体的な成果を確認する必要があります。

東京都と長野県のスタートアップ支援

東京都と長野県によるスタートアップ支援も、地域間連携の可能性を示しています。

スタートアップは、新しい技術や事業モデルによって成長を目指す企業です。

東京都には、ベンチャーキャピタル、金融機関、大企業、専門人材などが集積しています。

一方、地方には、製造技術、研究機関、実証実験の場、地域特有の課題などがあります。

こうした資源を組み合わせることで、新しい事業を生み出す可能性があります。

例えば、東京のスタートアップが地方企業と共同開発を進めれば、技術の実用化や生産体制の整備につながります。

また、地方のスタートアップが東京の投資家や企業と接点を持つことで、資金調達や販路開拓の機会が広がります。

ただし、スタートアップ支援では、企業数を増やすことだけが目的ではありません。

継続的な売上高の増加、雇用創出、技術の事業化などが重要です。

自治体間の連携によって、企業が成長するための環境を整えることが求められます。

広域連携による企業誘致の新しい形

従来の企業誘致では、自治体が補助金や税制優遇などを競い合う場合がありました。

しかし、人口減少が進む日本では、自治体間で企業を奪い合うだけでは、経済全体の成長につながらない可能性があります。

例えば、ある企業が国内の別の自治体から移転した場合、移転先では雇用や税収が増加します。

一方、移転元では雇用や税収が減少する可能性があります。

そのため、日本全体では新しい経済活動が十分に生まれていない場合があります。

広域連携による企業誘致では、複数の自治体が役割を分担する方法が考えられます。

例えば、研究開発拠点、製造拠点、物流拠点、人材育成施設などを地域間で分担する仕組みです。

また、複数の自治体が共同で企業誘致や産業振興に取り組めば、重複投資を抑えられる可能性があります。

重要なのは、企業の立地場所だけでなく、地域全体でどのような付加価値を生み出すかという視点です。

デジタル技術が広域連携を変える

デジタル技術の普及は、東京と地方の連携を進めるうえで重要な役割を果たします。

従来は、企業間の打ち合わせや共同作業のために、同じ場所に集まる必要がありました。

しかし、オンライン会議、クラウドサービス、生成AIなどの普及によって、離れた地域でも共同作業を進めやすくなっています。

例えば、東京の企業が地方の中小企業に設計や開発を委託し、オンラインで進捗管理を行うことができます。

また、地方に居住する専門人材が、東京の企業の業務に参加することも可能です。

こうした働き方が広がれば、地方に住みながら都市部の仕事に関わる機会が増加します。

一方、デジタル技術を活用するためには、通信環境や情報セキュリティ、人材育成などの課題があります。

特に、中小企業ではデジタル化に必要な人材や資金が不足している場合があります。

自治体が広域的に連携し、企業のデジタル化を支援することも重要です。

地域経済圏としての成長戦略

人口減少時代には、個々の自治体だけで経済活動や行政サービスを維持することが難しくなる場合があります。

そのため、市町村や都道府県の境界を超えた広域的な経済圏を形成することが重要です。

例えば、複数の自治体が共同で産業団地を整備し、企業誘致を進める方法があります。

また、大学や研究機関、企業が広域的に連携し、人材育成や技術開発を進めることも考えられます。

観光分野では、複数の地域を結ぶ観光ルートを整備することで、滞在期間や消費額を増やす可能性があります。

物流分野では、拠点や輸送網を共同で活用することで、効率化につながる場合があります。

こうした広域連携では、自治体ごとの利益配分が課題となります。

企業が立地する自治体と、従業員が居住する自治体では、税収や行政需要が異なるためです。

広域連携を持続させるためには、費用負担と成果配分について、関係自治体が合意する仕組みが必要です。

広域連携と地方税財政制度の関係

広域連携によって経済活動が拡大しても、税収が関係自治体に均等に配分されるわけではありません。

例えば、工場が立地する自治体では固定資産税の増加が期待できます。

一方、工場で働く従業員が隣接する自治体に居住していれば、個人住民税は原則として居住地の自治体に納められます。

また、法人関係税についても、事業所の所在地や従業者数などに応じた課税関係が生じます。

そのため、広域連携による経済効果と税収の帰属先が一致しない場合があります。

さらに、普通交付税の交付団体では、税収増加によって普通交付税が減少する可能性があります。

こうした制度上の特徴を踏まえると、自治体が共同で経済成長に取り組むためには、費用負担や財政効果の調整が重要です。

2027年度税制改正に向けては、税収の偏在是正だけでなく、広域的な経済成長を促す地方税財政制度のあり方も検討する必要があります。

家計と中小企業にとっての広域連携

広域連携は、家計や中小企業にも関係します。

家計にとっては、雇用機会の拡大、通勤環境の改善、教育や医療サービスの充実などにつながる可能性があります。

例えば、地方に居住しながら東京の企業で働くことができれば、住宅費を抑えながら都市部の雇用機会を活用できる場合があります。

また、複数の自治体が共同で公共交通や医療サービスを維持すれば、生活環境の改善につながる可能性があります。

中小企業にとっては、東京の企業との取引拡大、共同研究、販路開拓、資金調達などの機会が広がります。

一方、広域連携による成果を得るためには、企業自身の技術力や経営力を高めることも重要です。

自治体の支援制度を利用するだけでなく、自社の強みを明確にし、新しい取引先や市場を開拓する必要があります。

地域間連携は、企業や住民が新しい選択肢を得るための仕組みとして捉えることが重要です。

結論

東京と地方の税収格差を是正することは、全国で一定水準の行政サービスを確保するために重要です。

しかし、税収の再配分だけでは、地方経済の成長や人口減少の問題を根本的に解決することはできません。

東京都には、資金、人材、市場、研究開発機能などの強みがあります。

一方、地方には、製造技術、自然資源、産業基盤、大学や研究機関などの強みがあります。

こうした資源を組み合わせることで、新しい事業や雇用を生み出す可能性があります。

東京都と山梨県の水素関連分野での連携や、東京都と長野県のスタートアップ支援は、その方向性を示す取り組みです。

また、デジタル技術の普及によって、地域の境界を超えた企業活動や働き方も広がっています。

今後は、自治体が企業や人材を奪い合うのではなく、広域的な経済圏として成長する発想が重要になります。

東京と地方の共存共栄に必要なのは、税収を分け合う仕組みだけでなく、それぞれの強みを結びつけ、日本全体の付加価値を増やす仕組みです。

2027年度税制改正に向けては、財政力格差の調整とともに、地域間連携による持続的な経済成長を支える制度設計が求められます。

参考

日本経済新聞 2026年11月1日 朝刊「東京都と地方、共栄の税改革を 小池百合子都知事『地域の強み生かす』」

東京都「全国自治体との連携に関する取組」

東京都「水素エネルギーの普及拡大に向けた取組」

経済産業省「地域経済産業政策」

中小企業庁「中小企業白書」

総務省「地方財政の状況」

内閣官房「地方創生に関する取組」

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