札幌、仙台、広島、福岡は、地方の中核都市として地価上昇をけん引してきました。
ところが2026年の基準地価では、この地方4市の上昇率に変化が表れています。
全用途平均の上昇率は4.1%でした。
地価そのものは上昇していますが、2025年の5.3%から上昇率は縮小しています。
地方4市の地価上昇率は2023年をピークに鈍化しています。
大きな要因となっているのが建築費の高騰です。
土地に需要があっても、その上に建物を建てて採算を取れなければ、不動産会社は土地を高値で購入できません。
建築費の上昇が、地価にもブレーキをかけ始めています。
地方4市は4.1%上昇
2026年の札幌、仙台、広島、福岡の地方4市の全用途平均は前年比4.1%上昇しました。
全国平均の1.5%と比較すれば、依然として高い上昇率です。
地方4市には人口や企業、商業施設などが集まりやすく、地方圏の中では住宅やオフィスへの需要が強いという特徴があります。
しかし重要なのは、上昇率の変化です。
2025年には5.3%上昇していました。
2026年は4.1%です。
地価は上昇していても、上昇する勢いは弱くなっています。
地価上昇率は2023年をピークに鈍化
地方4市の地価上昇率は2023年をピークとして縮小しています。
ここで注意したいのは、地価上昇率が鈍化することと地価が下落することは違うという点です。
例えば前年に5%上昇し、今年4%上昇した場合でも、土地価格そのものは前年より高くなっています。
ただし価格上昇の勢いは弱くなっています。
この変化が続けば、いずれ地価が横ばいになる可能性もあります。
そのため地価を見る場合には、上昇しているか下落しているかだけでなく、上昇率が加速しているのか鈍化しているのかを見る必要があります。
建築費高騰が地方都市を直撃する
地方4市の地価上昇を鈍らせている大きな要因が建築費です。
マンションやオフィス、ホテル、商業施設を開発するには、土地代だけでなく建物を建てる費用が必要です。
建築資材の価格や人件費などが上昇すれば、建築費も高くなります。
仮に土地価格が変わらなくても、建築費が大幅に上昇すれば不動産開発全体の事業費は増えます。
不動産会社にとって重要なのは、土地を取得できるかどうかだけではありません。
土地代と建築費を含めた投資額を、完成後の販売価格や賃料によって回収できるかどうかです。
東京と地方では賃料上昇力が違う
建築費高騰は東京でも地方でも起こります。
それでも影響の大きさが違う理由の1つが賃料です。
東京ではオフィス空室率が低下し、賃料が大きく上昇しています。
建築費が上昇しても、完成したオフィスから高い賃料を得られれば、そのコストをある程度吸収できます。
地方都市では事情が異なります。
東京と同じように建築費が上昇しても、オフィスや住宅の賃料を同じペースで引き上げられるとは限りません。
建築費は上がる。
しかし賃料はそれほど上げられない。
この差が不動産開発の採算を悪化させます。
住宅では買い控えが起きる
建築費が上昇すれば、新築マンションや戸建て住宅の販売価格にも影響します。
不動産会社が高くなった建築費を回収するには、住宅価格を引き上げる必要があるからです。
しかし住宅購入者の所得が住宅価格と同じ速度で増えるとは限りません。
さらに住宅ローン金利が上昇すれば、毎月の返済負担も増えます。
住宅価格が高くなり過ぎれば、購入を延期する人が増えます。
中古住宅へ移る人もいるでしょう。
より安い郊外へ住宅を探す人も出てきます。
こうした買い控えが新築住宅需要を弱めれば、住宅用地に対する需要にも影響します。
商業地では再開発の延期が起きる
建築費高騰の影響は住宅だけではありません。
オフィスやホテル、商業施設などの再開発にも影響します。
大規模な再開発では、建築費が少し上昇するだけでも総事業費が大幅に増えることがあります。
当初1000億円で計画していた事業が、建築費高騰によってさらに数百億円必要になるようなことが起きれば、事業計画そのものを見直さなければなりません。
完成後に得られる賃料や売却収入で増加した建築費を回収できないのであれば、延期や規模縮小という判断になります。
場合によっては計画そのものが中止されます。
再開発が止まると土地需要も弱くなる
再開発と地価には密接な関係があります。
再開発をする企業は、まず土地を取得する必要があります。
将来高い賃料を得られると考えれば、高い価格を支払ってでも土地を購入できます。
ところが建築費高騰によって開発事業の採算が悪化すれば、土地に使える予算も減ります。
土地を買いたい企業が減れば、地価への上昇圧力も弱くなります。
つまり建築費は建物の価格だけに影響するものではありません。
土地にいくらまで支払えるのかを通じて、地価にも影響するのです。
博多と札幌では実際に計画見直しが起きている
建築費高騰の影響は、すでに具体的な再開発計画にも表れています。
JR九州は2028年末の完成を目指していた博多駅の複合ビルの建設計画を中止しました。
建築費が当初想定の約2倍に膨らんだことが背景にあります。
JR北海道も札幌駅直結の再開発計画を見直しました。
完成時期は2028年度から2034年度へ変更されています。
大都市の駅前という非常に需要の強い場所でも、建築費が大幅に上昇すれば開発計画が成立しなくなることがあります。
地価が高いこと自体が開発を難しくすることもある
地価上昇が続くと、不動産会社が支払う土地取得費も高くなります。
そこへ建築費高騰が重なると、事業費はさらに膨らみます。
土地代も高い。
建築費も高い。
金利も上昇する。
それでも完成後の賃料や販売価格を大幅に引き上げられなければ、事業として成立しません。
地価上昇が続いてきた地域ほど、ある時点から高い土地価格そのものが新しい開発を難しくする可能性があります。
地価上昇が次の地価上昇を抑える要因になることもあるのです。
地方都市では賃料を見ることが重要
今後の地方4市の地価を見るうえで重要なのは、建築費だけではありません。
完成した建物からどれだけの収益を得られるのかを見る必要があります。
オフィス賃料は上昇しているのか。
マンション価格は家計が購入できる範囲なのか。
ホテルの宿泊料金は上昇しているのか。
店舗賃料を引き上げられるのか。
建築費が上昇しても、それ以上に収益が増えれば開発は成立します。
逆に収益が増えなければ、土地に支払える金額は小さくなります。
建築費と賃料のどちらが速く上昇するのかが、今後の地方都市の地価を左右する重要なポイントになります。
結論
2026年の札幌、仙台、広島、福岡の地方4市の全用途平均は前年比4.1%上昇しました。
全国平均と比べれば依然として高い伸びですが、2025年の5.3%から上昇率は縮小しています。
地価上昇率は2023年をピークに鈍化しています。
その大きな要因が建築費の高騰です。
不動産会社が土地を購入する目的は、土地を持つことだけではありません。
その土地にマンションやオフィス、ホテルなどを建て、販売価格や賃料によって投資資金を回収することです。
建築費が上昇しても賃料や販売価格を十分に引き上げられる地域なら開発を続けられます。
しかし地方都市では、東京ほど賃料を上げることが難しい場合があります。
建築費は全国的に上昇する一方、完成後に得られる収益には地域差があります。
この建築費と収益の差が、地方4市の地価上昇にブレーキをかけ始めています。
今後の地方都市の地価を見るうえでは、人口や再開発計画だけではなく、建築費を賃料や販売価格で吸収できるのかという不動産事業の採算を見ることが重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月16日 朝刊 基準地価、5年連続上昇 建築費高騰