土地の価格と建物を建てる費用は、別々のものに見えます。
しかし不動産開発では、この2つを切り離して考えることはできません。
不動産会社が土地を購入するのは、その土地にマンションやオフィス、ホテル、商業施設などを建てて収益を得るためです。
そのため建築費が大幅に上昇すると、土地そのものに需要があっても高い価格では購入できなくなることがあります。
2026年の基準地価では全国平均の上昇が続く一方、札幌、仙台、広島、福岡などでは上昇率が鈍っています。
その背景にある重要な要因が建築費の高騰です。
不動産開発には土地代と建築費がかかる
不動産開発では、まず土地を取得します。
しかし土地を購入しただけでは、オフィス賃料やマンション販売代金などの収入は生まれません。
その土地に建物を建てる必要があります。
事業には土地代だけではなく、建築費、設計費、各種手数料、金利などさまざまな費用がかかります。
これらを合わせた総事業費と、完成した不動産から得られる収入を比較して開発するかどうかを判断します。
土地価格だけが安くても、建築費が高過ぎれば事業として成立しないことがあります。
総事業費には上限がある
例えばマンション開発によって100億円の売り上げが見込める事業を考えてみます。
もちろん100億円すべてを土地代と建築費に使えるわけではありません。
販売費用や金利などを支払い、さらに事業者の利益も確保する必要があります。
仮に土地代と建築費などに使える金額に80億円という上限があるとします。
以前は建築費が50億円だったため、土地に30億円まで支払えたとします。
ところが建築費が60億円に上昇すれば、同じ事業収入では土地に使える金額は20億円になります。
建築費が増えた分だけ、土地に支払える金額が小さくなるわけです。
建築費上昇は土地の買値を押し下げる
この仕組みが地価に影響します。
土地を買いたい不動産会社が30億円まで支払えるなら、土地所有者は高い価格で売却できる可能性があります。
しかし建築費が上昇し、不動産会社が20億円までしか支払えなくなれば状況は変わります。
土地所有者が30億円でなければ売らないと考えれば、取引そのものが成立しません。
高い価格で土地を購入する企業が減れば、地価への上昇圧力も弱くなります。
建築費高騰が地価上昇にブレーキをかける基本的な仕組みです。
賃料を上げられれば建築費を吸収できる
建築費が上昇しても、必ず開発できなくなるわけではありません。
完成した建物から得られる収入も増えればよいからです。
例えばオフィスビルの建築費が20%上昇しても、オフィス賃料が大幅に上昇し、将来の賃料収入が増えるのであれば採算を確保できる可能性があります。
マンションでも同じです。
建築費が上昇しても、完成したマンションを高い価格で販売できれば増加した費用を回収できます。
重要なのは建築費そのものではなく、建築費と完成後に得られる収入のバランスです。
東京では高い賃料が支えになる
東京では建築費が上昇する一方、オフィス賃料も大きく上昇しています。
2026年6月末時点の都心5区の大規模オフィスの平均空室率は0.8%でした。
空室が非常に少ないため、貸し手側が賃料を引き上げやすい状態です。
賃料が上昇すれば、完成したオフィスビルから得られる収益も増えます。
そのため建築費が高くなっても、土地に高い価格を支払える可能性があります。
これが建築費高騰の中でも東京の商業地が大きく上昇している理由の1つです。
地方では賃料を上げにくい
一方、地方都市では事情が異なります。
建築資材や人件費などの上昇は地方でも発生します。
ところがオフィス賃料や住宅価格を東京と同じように引き上げられるとは限りません。
例えば建築費が30%上昇しているのに、完成後の賃料を5%しか引き上げられなければ、開発事業の採算は悪化します。
増加した建築費を収入で回収できないからです。
そこで不動産会社は土地の取得価格を下げようとします。
土地所有者との価格交渉がまとまらなければ、開発そのものを見送ることになります。
採算ラインを超えると計画は止まる
不動産開発には採算ラインがあります。
どれだけ魅力的な土地でも、投資した資金を回収できなければ企業は開発できません。
建築費が上昇する。
金利も上昇する。
土地価格も高い。
それでも完成後の賃料や販売価格を十分に上げられない。
こうなると事業計画を見直す必要があります。
建物の規模を小さくする。
完成時期を遅らせる。
設計を変更する。
それでも採算が合わなければ計画を中止する。
こうした判断が行われます。
土地が欲しいことと買えることは違う
不動産市場を見るときに重要なのが、需要という言葉の意味です。
ある土地にオフィスを建てたい企業がいるとしても、その企業がどんな価格でも土地を買えるわけではありません。
事業として成立する価格には上限があります。
土地が欲しいという需要と、高い価格でも土地を買える需要は違います。
建築費が上昇すると、企業が土地に支払える価格の上限が下がります。
そのため人気のある土地でも、地価上昇が止まることがあります。
開発中止は周辺地価にも影響する
大規模な再開発が中止や延期になれば、その土地だけではなく周辺地域にも影響する可能性があります。
再開発によって新しいオフィスや商業施設ができると期待されていた地域では、人の流れや賃料の上昇を見込んで周辺の地価が上昇することがあります。
しかし再開発が中止されれば、その期待が実現しません。
周辺の店舗需要や住宅需要が想定ほど増えない可能性もあります。
建築費高騰は1つの建物の問題にとどまらず、街全体の将来価値にも影響することがあります。
地価を見るなら建築費と賃料を比べる
これからの地価を見るうえでは、土地価格だけを追いかけるのでは十分ではありません。
建築費はどれくらい上昇しているのか。
オフィス賃料はどれくらい上昇しているのか。
マンション価格をさらに引き上げられるのか。
金利はどの程度なのか。
完成後に十分な収益を得られるのか。
このバランスを見る必要があります。
建築費以上に賃料や販売価格が上昇できる地域では、土地に高い価格を支払えます。
反対に建築費だけが上昇する地域では、土地に使える金額が減ります。
この違いが地価の地域差につながります。
結論
建築費が上昇すると地価上昇にブレーキがかかるのは、不動産開発に使える総事業費には限界があるからです。
不動産会社は土地だけを購入するのではありません。
土地を取得し、その上に建物を建て、賃料や販売代金によって投資資金を回収します。
建築費が上昇すれば、同じ収入しか得られない事業では土地に使える金額が小さくなります。
つまり建築費が高くなるほど、不動産会社が土地に支払える価格の上限が下がる可能性があります。
一方、東京のようにオフィス賃料などを大きく引き上げられる地域では、高い建築費を収益で吸収できる場合があります。
建築費は全国的に上昇しても、賃料や販売価格の上昇力には地域差があります。
この違いが東京では地価上昇が続き、地方都市では地価上昇率が鈍るという差につながります。
これからの地価を見るうえでは、土地価格だけではなく、土地代と建築費を合わせた総事業費と、完成後に得られる収益とのバランスを見ることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年9月16日 朝刊 基準地価、5年連続上昇 建築費高騰