事業承継税制の特例措置とは何か 一般措置より税負担が大幅に軽くなる仕組み編

税理士
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中小企業の事業承継では、先代経営者が持っている自社株を後継者へどのように引き継ぐかが大きな問題になります。

会社が成長して自社株の評価額が高くなっていると、相続や贈与によって株式を取得した後継者に多額の相続税や贈与税が発生する可能性があるからです。

この負担を軽減するのが法人版事業承継税制です。

法人版事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」があります。

特例措置は、中小企業の事業承継を集中的に進めるために設けられた時限的な制度で、一般措置よりも対象となる株式や納税猶予割合、後継者の人数などが大幅に拡充されています。

一般措置と特例措置は何が違うのか

事業承継税制そのものは、特例措置ができる以前から存在しています。

これが一般措置です。

一定の要件を満たした後継者が非上場会社の株式を相続や贈与によって取得した場合、その株式に対応する相続税や贈与税について納税猶予を受けることができます。

しかし、一般措置には対象株式数などに制限があります。

そこで2018年度の税制改正によって、10年間の時限措置として大幅に拡充された特例措置が設けられました。

特例措置では、一般措置より広い範囲について納税猶予を受けられるようになっています。

つまり、一般措置の仕組みを土台として、事業承継を一段と進めるために強力な優遇を設けたものが特例措置です。

特例措置では全株式を対象にできる

一般措置と特例措置の大きな違いの一つが、納税猶予の対象となる株式数です。

一般措置では、一定の要件のもとで総株式数の最大3分の2までが対象となります。

これに対して特例措置では、一定の要件を満たせば全株式を対象とすることができます。

この違いは、自社株の評価額が高い会社ほど大きくなります。

例えば、後継者が評価額3億円相当の株式を引き継いだとします。

対象株式に上限があれば、一部については事業承継税制による納税猶予の対象外となる可能性があります。

全株式を対象にできれば、事業承継時の税負担を大幅に抑えることができます。

会社の経営権を後継者へまとめて移しやすくなるという点でも重要です。

相続税の納税猶予割合も大きく違う

一般措置と特例措置では、相続税の納税猶予割合にも違いがあります。

一般措置では、対象となる株式に対応する相続税について納税猶予割合は80%です。

これに対して特例措置では100%です。

つまり、特例措置では一定の要件を満たす対象株式について、対応する相続税の全額を納税猶予の対象とすることができます。

ただし、ここで注意したいのは「100%納税猶予」と「100%免税」は違うことです。

特例措置の適用を受けた段階では、あくまで税金の納付を猶予されています。

一定の免除事由が発生すれば最終的に猶予税額の免除を受けられる場合がありますが、要件から外れれば納税が必要になる場合があります。

特例措置が強力な制度だからこそ、納税猶予と免除を区別して理解する必要があります。

贈与税についても100%納税猶予される

事業承継は、先代経営者が死亡したときの相続だけで行われるものではありません。

先代経営者が元気なうちに、自社株を後継者へ贈与する方法もあります。

通常、自社株を無償で後継者へ渡せば、その株式の価値に応じて贈与税が問題になります。

会社の株価が高ければ、贈与税が多額になる可能性があります。

そこで事業承継税制を利用すると、一定の要件のもとで対象株式に対応する贈与税について納税猶予を受けることができます。

特例措置では、贈与税についても納税猶予割合は100%です。

これによって、先代経営者の死亡を待たずに株式を後継者へ移すという選択肢を取りやすくなります。

最大3人の後継者へ承継できる

特例措置では、後継者の人数についても一般措置より柔軟になっています。

一般措置では、原則として1人の後継者への承継を想定しています。

これに対して特例措置では、一定の要件のもとで最大3人の後継者を対象にできます。

例えば、先代経営者に3人の子どもがいて、それぞれが会社経営に参加しているケースを考えてみます。

長男だけにすべての株式を渡すのではなく、複数の後継者に株式を引き継がせるという選択肢が考えられます。

共同経営を予定している会社や、複数の親族が経営に関与している会社にとっては重要な仕組みです。

ただし、単純に3人までなら誰にでも自由に株式を渡せるわけではなく、それぞれの後継者について一定の要件を満たす必要があります。

特例措置が設けられた背景には経営者の高齢化がある

なぜこれほど大きな優遇措置が設けられたのでしょうか。

背景にあるのが、中小企業経営者の高齢化です。

経営者が高齢になっても後継者が決まらなければ、会社そのものは黒字であっても廃業を選択する可能性があります。

会社が廃業すれば、従業員の雇用だけでなく、取引先や地域経済にも影響します。

そこで税負担を理由として事業承継が進まないことを防ぐため、2018年度税制改正で特例措置が設けられました。

全株式を対象にし、相続税についても納税猶予割合を100%とすることで、税負担を大幅に軽減しました。

税制を使って中小企業の世代交代を後押しする政策です。

特例措置を利用するには特例承継計画が重要になる

特例措置は非常に強力な税制優遇ですが、誰でも無条件に利用できるわけではありません。

重要になるのが特例承継計画です。

会社は、後継者や承継時までの経営見通し、承継後の事業計画などを記載した特例承継計画を作成し、認定経営革新等支援機関による指導や助言を受けたうえで、都道府県へ提出します。

さらに実際に株式を相続や贈与で取得した際には、会社や先代経営者、後継者などについて所定の要件を満たし、必要な認定や税務申告を行う必要があります。

つまり、税負担が大幅に軽減される代わりに、事業承継について事前に準備することが求められています。

一般措置は特例措置終了後も重要になる

特例措置は時限的な制度です。

一方、一般措置は恒久的な制度として設けられています。

そのため、特例措置の対象期間を過ぎたからといって、事業承継税制そのものがなくなるという意味ではありません。

特例措置を利用できない場合でも、一定の要件を満たせば一般措置を利用できる可能性があります。

ただし、対象株式数や相続税の納税猶予割合、後継者数などには特例措置との違いがあります。

事業承継を考える経営者は、

特例措置を利用できるのか

一般措置になるのか

そもそも事業承継税制を利用する必要があるのか

を分けて考える必要があります。

新しい免税制度で特例措置がどう変わるかが注目される

経済産業省は、成長投資や賃上げに取り組む中小企業について、事業承継時の相続税や贈与税を免税とする仕組みを検討しています。

現在の特例措置は非常に大きな優遇ですが、基本的には納税猶予です。

そのため、後継者には将来の納税リスクが残ります。

新しい制度では、税負担の予見性を高めるため、一定の条件を満たした企業について免税とする方向が検討されています。

一方、税負担をさらに軽減するのであれば、賃上げや成長投資など現在とは異なる条件が加わる可能性があります。

今後の税制改正では、現在の特例措置と新しい免税制度がどのような関係になるのかも重要な論点になります。

結論

事業承継税制の特例措置とは、中小企業の円滑な世代交代を促すため、一般措置よりも大幅に優遇された時限的な仕組みです。

一般措置では対象株式が最大3分の2で、相続税の納税猶予割合は80%ですが、特例措置では一定の要件を満たせば全株式を対象とし、相続税と贈与税について100%の納税猶予を受けることができます。

また、一般措置では原則1人である後継者について、特例措置では一定の要件のもとで最大3人まで対象にできる点も大きな違いです。

ただし、100%納税猶予は100%免税という意味ではありません。

現在の制度では、納税猶予を受けた後も一定の要件を守り続ける必要があります。

今回検討されている新しい免税制度が実現すれば、この仕組みがさらに大きく変わる可能性があります。

一般措置と特例措置、そして新たに検討される免税制度の違いを理解することが、これからの事業承継を考えるうえで重要になります。

参考

日本経済新聞 2026年8月23日 朝刊 相続・贈与税、賃上げで免除 中小、事業承継しやすく 経産省要望へ

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