未上場株のプライマリー取引とは何か 増資と2次流通は何が違うのか編

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

スタートアップの資金調達について理解するとき、重要なのがプライマリー取引とセカンダリー取引の違いです。

どちらも投資家が未上場株式を取得する取引ですが、お金がどこへ行くのかという点で大きく異なります。

プライマリー取引では、会社が新しい株式を発行し、投資家がその株式を取得します。投資家が払い込んだお金は会社に入り、研究開発や人材採用、設備投資などに使われます。

一方、セカンダリー取引では、すでに発行されている株式を既存株主から別の投資家へ売却します。売買代金を受け取るのは会社ではなく、株式を売った既存株主です。

最近では、この二つを組み合わせる大型資金調達も見られるようになっています。

なぜスタートアップはプライマリーとセカンダリーを同時に行うのでしょうか。

プライマリー取引とは何か

プライマリーは英語で一次的という意味です。

株式市場では、会社が新しく発行した株式を投資家が取得する取引をプライマリー取引と呼びます。

例えば、あるスタートアップの企業価値が100億円だったとします。

会社が事業拡大のため20億円を必要として、新しい株式を発行します。

VCや機関投資家などがその株式を取得し、合計20億円を払い込めば、その20億円は会社の資金になります。

会社はその資金を新商品の開発、研究開発、人材採用、広告宣伝、海外進出などに使うことができます。

つまりプライマリー取引は、企業が成長資金を調達するための取引です。

新株発行による資金調達

会社が株式を使って資金を調達する代表的な方法が新株発行です。

銀行からお金を借りる場合、会社には元本を返済する義務があります。通常は利息も支払わなければなりません。

これに対して株式による資金調達では、投資家から受け取った出資金を借入金のように決められた期限までに返済する必要はありません。

特にスタートアップは、創業からしばらく赤字が続くことがあります。

創薬企業であれば新薬が実用化されるまで長期間の研究開発が必要です。

宇宙関連企業もロケットや衛星などの開発に多額の資金が必要になります。

まだ十分な利益やキャッシュフローがない企業にとって、返済義務のある借入金だけで事業を成長させることには限界があります。

そこで株式を発行して投資家から長期的な資金を集めることが重要になります。

第三者割当増資との関係

未上場スタートアップのプライマリー取引では、第三者割当増資がよく利用されます。

第三者割当増資とは、特定の投資家に新しく発行する株式を割り当てる方法です。

例えばスタートアップがVC、事業会社、CVCなどに新株を発行します。

投資家がその株式を取得するために資金を払い込めば、その資金が会社へ入ります。

スタートアップの資金調達ニュースで、第三者割当増資によって何十億円を調達したという表現を目にすることがあります。

これは典型的なプライマリー取引です。

会社が新しい株式を発行し、それを投資家が購入することで会社自身が成長資金を手に入れるからです。

増資すると発行済株式数が増える

プライマリー取引では、新しい株式を発行するため発行済株式数が増える場合があります。

ここがセカンダリー取引との重要な違いです。

例えば会社の発行済株式数が100万株で、創業者が60万株を持っていたとします。

創業者の持ち株比率は60パーセントです。

会社が新たに25万株を投資家へ発行すると、発行済株式数は125万株になります。

創業者が持つ60万株は変わりません。

しかし持ち株比率は48パーセントになります。

これが株式の希薄化です。

会社は新しい資金を得られる一方、既存株主の持ち株比率は低下する可能性があります。

したがってスタートアップの資金調達では、いくら調達するのかだけでなく、何株をどの価格で発行するのかも重要になります。

セカンダリー取引では既存株を売る

これに対してセカンダリー取引では新株を発行しません。

例えば先ほどの会社で、VCが20万株を保有していたとします。

その20万株を別の機関投資家へ売却しても、会社の発行済株式数は100万株のままです。

株主がVCから機関投資家へ変わるだけです。

売買代金も会社には入りません。

新しい投資家から株式を売却したVCへ支払われます。

したがってプライマリーとセカンダリーは、同じ未上場株への投資でも目的が違います。

プライマリーは会社へ成長資金を供給する取引です。

セカンダリーは既存株主へ換金の機会を提供し、株主を入れ替える取引です。

100億円の取引でも意味が違う

数字で考えると違いが分かりやすくなります。

あるスタートアップについて100億円規模の株式取引が行われたとします。

100億円すべてがプライマリーであれば、原則として会社に100億円が入ります。

その資金を研究開発や設備投資などに利用できます。

一方、100億円すべてがセカンダリーであれば、会社には原則としてその100億円は入りません。

既存株主が保有株を売却し、その対価として100億円を受け取ります。

同じ100億円という数字でも、企業の資金調達額と株式の取引額は必ずしも同じではないのです。

スタートアップの資金調達ニュースを見るときには、この違いを確認する必要があります。

なぜ二つを同時に行うのか

最近重要になっているのが、プライマリーとセカンダリーを組み合わせた取引です。

例えば今回の参考記事では、温暖化ガス排出量算定ソフトを手掛けるアスエネが、68億円の第三者割当増資と37億円の2次流通を実施するとしています。

この二つは目的が異なります。

第三者割当増資による68億円は、会社の成長資金として利用できます。

一方、37億円の2次流通では、既存投資家などが保有する株式を新しい投資家へ売却できます。

つまり一回の取引で、会社の資金調達と既存株主の資金回収という二つの目的を実現できます。

会社の成長と投資家の出口を同時に実現する

スタートアップが成長すると、初期から投資していたVCと新しい投資家では投資目的が異なってくることがあります。

初期VCは、企業価値が十分に上昇したので投資資金を回収したいかもしれません。

一方、新しい機関投資家は、今後さらに企業価値が上昇すると考えて長期投資したいかもしれません。

会社自身も次の成長段階へ進むため、新しい資金を必要としている場合があります。

そこでプライマリーとセカンダリーを組み合わせます。

新しい投資家が新株を取得することで会社へ資金を供給します。

同時に既存株主が保有する株式も取得します。

これによって会社は成長資金を確保し、既存投資家は資金を回収し、新しい投資家は一定規模の株式を取得できます。

三者の目的を一つの取引で調整できるのです。

新しい投資家が十分な株式を取得しやすくなる

プライマリーとセカンダリーを組み合わせることには、もう一つメリットがあります。

大型の機関投資家は、少額の株式しか取得できない会社には投資しにくい場合があります。

例えば1000億円規模の資金を運用する投資家にとって、数千万円程度しか投資できない案件では運用全体への影響が小さすぎます。

しかし会社が大量の新株を発行すると、既存株主の希薄化が大きくなります。

そこで新株発行だけでなく、VCなどが保有している既存株も一緒に売却します。

例えば新株で50億円、既存株で50億円を取得すれば、新しい投資家は100億円を投資できます。

会社が発行する新株は50億円分で済むため、新株だけで100億円を調達する場合より希薄化を抑えられる可能性があります。

セカンダリー取引は、大型投資家を株主として迎えるためにも利用できるのです。

資金調達額と取引総額を区別する

未上場株市場が拡大すると、ニュースを見るときにも注意すべき点が増えます。

例えばプライマリー50億円、セカンダリー30億円の取引が行われた場合、株式の取引規模は合計80億円になります。

しかし会社自身が新たに調達した資金は50億円です。

30億円は既存株主が株式を売却した代金だからです。

投資家から動いた資金の総額と、企業が調達した資金の額は一致しません。

未上場株の2次流通が拡大するほど、この区別は重要になります。

取引金額が大きいからといって、その全額を企業が成長投資に使えるわけではないからです。

二つの市場がそろうことに意味がある

スタートアップ市場では、プライマリーとセカンダリーのどちらか一方だけが重要なのではありません。

企業が成長するためには、新しい資金を供給するプライマリー市場が必要です。

一方、投資家が途中で資金を回収できなければ、新しいスタートアップへの投資も難しくなります。

そこでセカンダリー市場が必要になります。

入口で資金を供給する市場と、途中で投資家が交代できる市場が両方存在することで、資金が循環します。

これまで日本のスタートアップ政策では、企業へどう資金を入れるかという入口に注目が集まりがちでした。

今後は、投資家がどう退出できるのかという出口も重要になります。

結論

未上場株のプライマリー取引とは、会社が新しい株式を発行し、投資家から成長資金を調達する取引です。

スタートアップでは第三者割当増資が代表的な方法で、調達した資金を研究開発、人材採用、設備投資、海外展開などに利用できます。

一方、セカンダリー取引では既存株主が保有する株式を別の投資家へ売却します。

会社には原則として売買代金が入らず、発行済株式数も増えません。

プライマリーは会社へお金を入れる取引、セカンダリーは株主を入れ替える取引と考えると分かりやすいでしょう。

さらに、この二つを同時に行えば、会社は成長資金を調達しながら、初期VCや従業員などに株式を現金化する機会を提供できます。

新しい機関投資家も、新株と既存株を組み合わせて一定規模の株式を取得できます。

スタートアップ市場を成長させるためには、企業へ資金を供給するプライマリー市場だけでは十分ではありません。

新しい資金が入り、古い投資家が退出し、次の投資家へ株式が引き継がれていく。

プライマリーとセカンダリーが両輪として機能することで、スタートアップへ投入された資金が循環する市場が形成されていくのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株、初の売買仲介 専業証券が年内に事業開始

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株式の売買 流動性乏しく小粒上場招く

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株の2次流通、買い手広がる フェアな価格形成課題

タイトルとURLをコピーしました