金利上昇によって、教育費や住宅購入資金など、将来の使い道が決まっている資金の運用方法にも変化が生じています。
長く続いた超低金利時代には、銀行預金で資金を管理しても、ほとんど利息を期待できませんでした。しかし、日本銀行の金融政策の正常化によって預金や個人向け国債の金利が上昇し、元本の安全性を重視しながら一定の利息を確保しやすくなっています。
2026年10月募集分の個人向け国債では、固定3年、固定5年、変動10年のいずれも表面利率が年2%を超える水準となりました。
教育費や住宅購入資金は、老後資金などと異なり、必要になる時期や金額を比較的具体的に見積もることができます。
そのため、資産を大きく増やすことよりも、必要な時期に必要な金額を確実に確保することが重要です。
人生100年時代の家計管理では、資金の使用時期から逆算し、預金や個人向け国債などの安全資産を組み合わせることが、将来の生活設計を支える基本になります。
教育費は支払い時期が決まっている資金
教育費の特徴は、子どもの進学に伴って支出が発生する時期をある程度予測できることです。
例えば、現在高校1年生の子どもがいる場合、大学進学まで約3年あります。
大学受験では、受験料、交通費、宿泊費、入学金、授業料など、短期間にまとまった支出が発生する可能性があります。
また、自宅外から大学に通う場合には、住居の初期費用や生活費も必要になります。
これらの資金は、支払時期が近づいた段階で株式市場が下落していても、原則として支払いを延期できません。
そのため、数年以内に必要となる教育費については、価格変動の大きい金融商品よりも、元本の安全性を重視することが合理的です。
特に大学入学前後に必要となる資金は、使用時期に合わせて現金化できる状態を確保する必要があります。
3年後に必要な教育費200万円の運用
例えば、3年後に大学進学費用として200万円が必要になる世帯を考えます。
この200万円を普通預金に置く方法もありますが、使用時期が明確であれば、定期預金や個人向け国債を活用することも考えられます。
仮に200万円を年2%の固定3年の個人向け国債で運用した場合、年間の税引き前利子は4万円です。
税引き後の年間利子は約3万1,874円となり、3年間では約9万5,622円になります。
ただし、これは年2%の利率で満期まで保有した場合の概算です。
実際には、国債の発行日と教育費の支払日を確認する必要があります。
例えば、大学の入学金が国債の満期より前に必要になる場合には、満期を待たずに中途換金するか、別の資金を用意しなければなりません。
個人向け国債は発行後1年間、原則として中途換金できないため、資金の使用時期との整合性が重要です。
1年以内に必要な資金は流動性を優先する
大学受験費用や入学金など、1年以内に必要になる資金については、普通預金や短期定期預金などが適しています。
例えば、受験料や入学金として50万円が必要になる場合、金利の高さを優先して長期の金融商品に預け入れることは適切ではありません。
また、受験校の数や進学先によって、必要な金額が変わる可能性があります。
そのため、一定の余裕を持った資金を確保する必要があります。
短期定期預金を利用する場合にも、満期日が支払予定日より前になるよう設定することが重要です。
MRFを利用する方法もありますが、MRFは投資信託であり、元本保証がありません。
教育費のように支払額を確実に確保する必要がある資金については、元本保証のある預金を中心に管理することが基本です。
5年後に必要な資金は固定金利を活用する
5年後に必要となる教育費や住宅購入資金については、固定5年の個人向け国債などが選択肢になります。
例えば、5年後に300万円が必要になる場合、年2%の固定5年で運用すれば、年間の税引き前利子は6万円です。
税引き後の年間利子は約4万7,811円となり、5年間では約23万9,055円になります。
固定金利型の利点は、購入時点で将来の受取利子を見通しやすいことです。
一方、購入後に金利がさらに上昇した場合には、新たに発行される個人向け国債より低い利率で保有を続ける可能性があります。
そのため、資金の全額を一度に固定金利商品へ振り向けるのではなく、複数回に分けて購入する方法も考えられます。
ただし、購入時期を分散すると満期日も異なるため、資金の使用時期との調整が必要です。
8年後の資金は満期を組み合わせる
8年後に必要となる資金については、複数の個人向け国債を組み合わせる方法があります。
例えば、固定5年の個人向け国債を購入し、満期を迎えた後に固定3年へ再投資する方法です。
この場合、当初の5年間は固定金利を確保し、残り3年間は満期時点の金利環境に応じて運用できます。
ただし、5年後の固定3年の利率は、現時点では分かりません。
金利が低下していれば、再投資時の利回りも低くなる可能性があります。
一方、変動10年の個人向け国債を購入し、8年後に中途換金する方法もあります。
変動10年は半年ごとに利率が見直されるため、金利上昇の恩恵を受けられる可能性があります。
ただし、中途換金時には直前2回分の利子相当額を基に計算した調整額が差し引かれます。
固定5年と固定3年の組み合わせが常に有利とは限らず、将来の金利動向や換金条件を踏まえて判断する必要があります。
住宅購入資金は購入時期の変動に注意する
住宅購入資金は、教育費と同じく大きな金額が必要になる資金ですが、使用時期が変動しやすいという特徴があります。
例えば、5年後に住宅を購入する予定であっても、希望する物件が早く見つかれば、購入時期が前倒しになる可能性があります。
反対に、不動産価格や住宅ローン金利の状況によって、購入を延期する場合もあります。
そのため、住宅購入資金の全額を長期の固定金利商品で運用することは慎重に考える必要があります。
特に、頭金、手付金、仲介手数料、登記費用、引っ越し費用などは、住宅購入の過程で支払時期が異なります。
住宅購入資金は、支払時期に応じて複数の資金に分けて管理することが重要です。
住宅購入資金1,000万円の管理方法
例えば、5年以内に住宅購入を予定し、1,000万円の資金を確保している世帯を考えます。
この場合、すべてを同じ金融商品で運用するのではなく、使用時期に応じて分ける方法があります。
例えば、300万円を普通預金や貯蓄預金に置き、物件購入の前倒しや手付金の支払いに備えます。
次に、300万円を1年程度の定期預金などで管理し、比較的短期間の資金需要に対応します。
残り400万円については、住宅購入時期の確実性を踏まえ、個人向け国債などを検討します。
ただし、個人向け国債は発行後1年間、原則として中途換金できません。
そのため、住宅購入時期が1年以内に前倒しになる可能性が高い場合には、個人向け国債への配分を抑える必要があります。
この配分はあくまで一例であり、住宅購入計画や家計の状況によって適切な金額は異なります。
株式投資で教育費を準備する場合の注意点
教育費や住宅購入資金を株式投資信託で運用すれば、預金や国債より高い収益を期待できる場合があります。
しかし、株式投資には価格変動リスクがあります。
例えば、300万円を株式投資信託で運用し、必要な時期に市場価格が20%下落していた場合、資産価値は240万円になります。
この場合、60万円の不足が生じます。
長期投資では価格変動を受け入れる余地がありますが、使用時期が近い資金では、損失を回復するまで待つことが難しくなります。
そのため、教育費や住宅購入資金を株式投資で準備する場合には、使用時期が近づくにつれて安全資産へ移す方法が考えられます。
ただし、売却時期を分散しても損失を完全に回避できるわけではありません。
必要な金額を確実に確保することを優先する必要があります。
NISAで運用している資金の取り扱い
NISAは、対象となる株式や投資信託の運用益が非課税になる制度です。
教育費や住宅購入資金の準備にも利用できますが、NISA自体に元本保証があるわけではありません。
例えば、10年以上先の教育費について、NISAを利用して株式投資信託で積み立てる方法は選択肢になります。
一方、3年後に必要な入学金を株式投資信託で運用する場合には、価格下落による資金不足のリスクがあります。
そのため、NISAで運用している資金についても、使用時期が近づいた段階で必要額を確保することが重要です。
また、NISA口座で売却した資金を銀行預金へ移す場合には、売却注文から現金化までの期間にも注意が必要です。
非課税という税制上のメリットと、資金の安全性は分けて考える必要があります。
金利上昇と物価上昇の両方を考える
教育費や住宅購入資金を準備する際には、金利だけでなく物価上昇にも注意が必要です。
例えば、現在300万円で購入できる商品やサービスが、年3%の物価上昇によって5年後には約348万円になる計算です。
実際の教育費や住宅価格が一般的な物価上昇率と同じように変動するとは限りませんが、将来必要になる金額が増加する可能性があります。
一方、安全資産の運用によって一定の利息を確保できれば、物価上昇による負担の一部を補うことができます。
ただし、税引き後の利回りが物価上昇率を下回る場合には、実質的な購買力が低下します。
そのため、将来必要になる金額を現在の価格だけで見積もらず、一定の余裕を持たせた資金計画を立てることが重要です。
家計全体の安全資産と区分して管理する
教育費や住宅購入資金は、生活防衛資金とは区分して管理する必要があります。
例えば、預金が1,000万円あっても、そのうち300万円が生活防衛資金、400万円が教育費、300万円が住宅購入資金であれば、自由に運用できる資金が1,000万円あるわけではありません。
資金の使い道を区分せずに運用すると、必要な時期に現金が不足する可能性があります。
そのため、家計の金融資産を生活費、生活防衛資金、ライフイベント準備資金、長期運用資金に分けて管理することが有効です。
特に教育費や住宅購入資金は、目的と使用時期が明確であるため、他の資金と混同しないことが重要です。
結論
教育費や住宅購入資金は、将来の使い道と使用時期が比較的明確な資金です。
そのため、資産を大きく増やすことよりも、必要な時期に必要な金額を確保することが優先されます。
1年以内に必要な資金は普通預金や短期定期預金、3〜5年後に必要な資金は定期預金や個人向け国債など、使用時期に応じて金融商品を選ぶことが基本です。
また、住宅購入資金については、購入時期が前倒しになる可能性も考慮する必要があります。
株式投資信託やNISAを利用する場合には、価格変動リスクを理解し、使用時期が近づくにつれて必要額を安全資産へ移すことが重要です。
さらに、金利上昇だけでなく、教育費や住宅価格の上昇も踏まえ、余裕のある資金計画を立てる必要があります。
人生100年時代の家計管理では、資産を増やすことと、将来の生活設計を確実に実現することの両立が求められます。
教育費や住宅購入資金の運用で最も重要なのは、利回りの高さではなく、必要な時期に必要な金額を確実に使える状態を維持することです。
参考
日本経済新聞 2026年10月31日 朝刊「金利上昇『安全資産』を選ぶ MRFと国債、用途で使い分け」
財務省「個人向け国債の商品概要」
金融庁「家計管理と生活設計」
金融庁「NISA制度の概要」
文部科学省「子供の学習費調査」
日本学生支援機構「学生生活調査」