株式市場では、私たち個人投資家が証券会社の画面で注文を出している間にも、コンピューターは1秒間に何千、何万回という売買を繰り返しています。この取引は「高頻度取引(HFT)」と呼ばれ、現在では東京証券取引所の注文の7~8割を占めるともいわれています。
一方で、「コンピューターが市場を支配している」「個人投資家は勝てないのではないか」といった声も少なくありません。
果たして、高頻度取引は個人投資家にとって有利なのでしょうか、それとも不利なのでしょうか。市場の仕組みを理解すると、意外な事実が見えてきます。
高頻度取引とは何か
高頻度取引とは、高性能なコンピューターが市場価格のわずかな変化を瞬時に捉え、自動で売買を繰り返す取引手法です。
人間なら数秒かかる判断でも、コンピューターは1000分の1秒単位で注文を出します。
利益は一回あたりごくわずかですが、それを何百万回と積み重ねることで収益を上げています。
そのため、HFT業者は株価の方向性を予想するというよりも、市場に存在するわずかな価格差や時間差を利用して利益を積み重ねています。
個人投資家に有利な面もある
HFTには否定的な意見もありますが、市場にとって重要な役割も果たしています。
最も大きな役割は「流動性」の提供です。
市場では買いたい人と売りたい人がすぐに見つからなければ、取引は成立しません。
HFT業者は常に売り注文と買い注文を出し続けるため、投資家は希望する価格で売買しやすくなります。
また、売値と買値の価格差(スプレッド)が小さくなるため、個人投資家の取引コストも下がります。
もしHFTが存在しなければ、株式市場は現在ほどスムーズに売買できなかった可能性があります。
一方で不利になる場面もある
しかし、良い面ばかりではありません。
大きな材料が出た瞬間には、HFTが人間より何千倍も速く反応します。
決算発表や経済指標、公表ニュースなどに対して瞬時に売買を行うため、個人投資家が注文を入力する頃には株価が大きく動いてしまうことがあります。
また、市場が急変した際には、一斉に注文が取り消されることもあります。
すると流動性が急激に低下し、株価が大きく変動する原因になることもあります。
このため、急落局面では市場の混乱を拡大させるとの指摘もあります。
長期投資家にはほとんど影響がない
それでは、個人投資家はHFTを心配する必要があるのでしょうか。
結論から言えば、長期投資家への影響は極めて小さいと考えられます。
例えば10年後を見据えて企業へ投資する人にとって、1円や2円の価格差は長期的な運用成果にほとんど影響しません。
企業価値を決めるのは業績や成長力であり、高頻度取引ではありません。
むしろ長期投資家は、市場の一時的な値動きに惑わされず、優良企業へ継続して投資することのほうが重要です。
HFTが活発でも、企業の本質的な価値まで変えることはできません。
AI時代にはさらに存在感が増す
今後はAIの進化によって、高頻度取引はさらに高度化すると考えられます。
AIがニュースを読み取り、市場心理を分析し、自動で売買する時代が現実になりつつあります。
その結果、注文件数はさらに増え、東京証券取引所が処理能力を大幅に増強している背景にもなっています。
市場インフラも、それに対応できる性能が求められる時代になりました。
つまり、市場の進化と市場インフラへの投資は、今後ますます一体となって進んでいくでしょう。
個人投資家が本当に競う相手は誰なのか
個人投資家がHFTとスピードで競争しても勝ち目はありません。
しかし、そもそも競争する必要もありません。
長期投資家が競う相手は、コンピューターではなく、自分自身の感情です。
株価が急騰すると買いたくなり、急落すると売りたくなる。
こうした心理に流されることこそが、長期投資の最大のリスクです。
市場のスピード競争はプロやAIに任せ、自分は時間を味方につける投資を続けることが、個人投資家にとって最も合理的な戦略ではないでしょうか。
結論
高頻度取引は、個人投資家にとって有利な面と不利な面の両方を持っています。
市場の流動性を高め、売買コストを下げるという恩恵がある一方で、短期売買ではコンピューターとの速度競争に勝つことは困難です。
しかし、長期投資という視点に立てば、高頻度取引を過度に恐れる必要はありません。
AIやHFTがどれほど進化しても、企業の成長や経済の発展によって生まれる長期的な価値までは左右できません。
個人投資家は市場の速さを追いかけるのではなく、時間を味方につける投資を続けることが、資産形成への最も確かな道になるのです。
参考
日本経済新聞(2026年6月25日 朝刊)
東証、処理能力を倍増 「日本買い」で高速・大量注文
日本経済新聞(2026年6月25日 朝刊)
東証の取引システム 東阪に大規模サーバー きょうのことば