振込の作成権限と承認権限とは何か ネットバンキングを一人で操作できないようにする理由編

経営

会社がインターネットバンキングを利用すると、銀行の窓口へ行かなくても取引先への支払いや給与振込ができます。

非常に便利な仕組みですが、経理担当者一人にすべての操作権限を与えると、大きなリスクが生じます。

例えば経理担当者が自分で振込先と金額を入力し、その振込を自分で承認できれば、会社のお金を一人で動かせるからです。

そこで重要になるのが、振込データを作成する権限と、実際の振込を承認する権限を分けることです。

紙の振込依頼書からインターネットバンキングへ変わっても、内部統制の基本は変わりません。

振込データの作成とは何か

会社が銀行振込を行う場合、まず振込に必要な情報を登録します。

例えば、

振込先の銀行

支店

口座番号

受取人名

振込金額

振込日

などです。

給与振込なら、従業員ごとの銀行口座と給与額を登録します。

こうした情報をインターネットバンキングに入力し、振込データを準備する作業が振込データの作成です。

通常は経理担当者が行うことが多いでしょう。

問題は、この人がそのまま振込まで実行できる場合です。

承認権限とは何か

承認権限とは、作成された振込データを確認し、銀行に実際の振込処理を行わせるための権限です。

例えば経理担当者が100万円の振込データを作成したとします。

しかし、この段階ではまだ振込は確定しません。

社長など別の人がインターネットバンキングへログインします。

振込先と金額を確認し、問題がなければ承認します。

そこで初めて銀行への振込指示が確定する仕組みにします。

つまり、

作る人

決める人

を分けるわけです。

なぜ一人で両方できると危険なのか

例えば経理担当者に振込データの作成権限と承認権限の両方があるとします。

この担当者が自分の銀行口座へ100万円振り込もうと思えば、

自分の口座を登録する

100万円の振込データを作る

自分で承認する

という操作が一人でできてしまう可能性があります。

もちろん会計帳簿や銀行口座を別の人が確認すれば、後から発覚することはあります。

しかし、すでに会社のお金は外へ出ています。

不正が起きた後に発見するより、不正な振込そのものを実行できなくする方が効果的です。

二段階承認とは何か

そこで使われるのが二段階の承認です。

例えば経理担当者を作成者として登録します。

経理担当者は振込データを入力できますが、自分では振込を確定できません。

次に社長を承認者として登録します。

社長は経理担当者が作成した振込内容を確認し、問題がなければ承認します。

このように、

経理担当者が作成

社長が承認

という二段階にすることで、一人で会社のお金を動かせなくします。

会社の規模によっては、さらに担当者、課長、部長など複数段階の承認を設定する方法もあります。

社長が最後に承認する意味

社員数の少ない中小企業では、経理部門に複数の社員を置けないことがあります。

その場合でも、社長や役員を承認者にすることはできます。

例えば経理担当者が毎月20件の振込データを作成したとします。

社長が一から振込データを作る必要はありません。

経理担当者が準備した内容について、

この取引先へ支払う理由はあるか

金額は請求書と一致しているか

見覚えのない振込先がないか

前月と比べて異常に大きな支払いがないか

といった点を確認します。

経営者がすべての経理業務を行うのではなく、お金が会社の外へ出る最後の段階を押さえるわけです。

給与振込では個人別金額を見る

給与振込では、振込総額だけを確認しないことも重要です。

例えば従業員20人の給与総額が600万円だったとします。

前月も約600万円なら、一見すると問題はなさそうです。

しかし、一人の給与を50万円水増しし、別の社員の退職などによる減少と相殺されていれば、総額だけでは異常を発見できない可能性があります。

そこで従業員別の給与額を確認します。

特に、

前月より大幅に増えている社員

通常とは異なる手当が付いている社員

残業代が急増している社員

賞与などの臨時支給がある社員

を確認します。

すべての数字を一から計算し直す必要はありません。

大きく変化した数字に注目するだけでも効果があります。

承認した後に変更できたら意味がない

もう一つ重要なのが、承認後のデータ変更です。

例えば社長が100万円の振込を承認した後、経理担当者が金額を500万円へ変更でき、そのまま振り込める仕組みだったとします。

これでは承認の意味がありません。

振込先や金額など重要な項目を変更した場合には、承認をいったん無効にし、もう一度承認者の確認を必要とする仕組みが重要です。

内部統制では、

誰が承認したか

だけでなく、

何を承認したか

まで考える必要があります。

IDとパスワードを共有してはいけない

せっかく作成権限と承認権限を分けても、IDやパスワードを共有すれば意味がなくなります。

例えば社長の承認用IDとパスワードを経理担当者が知っていれば、経理担当者自身が社長としてログインできてしまう可能性があります。

形式上は二人で承認する仕組みでも、実質的には一人で操作できます。

そのため、利用者ごとにIDを分け、認証手段も適切に管理することが重要です。

デジタル化した経理では、銀行印や通帳を管理するのと同じように、IDや認証情報を管理する必要があります。

操作履歴を残す意味

インターネットバンキングでは、誰がどの操作をしたのか確認できる仕組みを活用することも重要です。

振込データを誰が作ったのか。

誰が変更したのか。

誰が承認したのか。

こうした記録が残れば、問題が起きたときに経緯を確認できます。

さらに担当者から見れば、自分が勝手に振込をしたのではないことを示す記録にもなります。

操作履歴は会社だけでなく、経理担当者を守るためにも役立ちます。

紙からデジタルになっても問題の本質は同じ

参考記事で紹介された大阪市の人材派遣会社では、経理担当者が振込依頼書を利用して給与を水増ししていました。

社長の決裁後、自分の給与を水増しした依頼書を銀行へ送るという方法です。

インターネットバンキングなら同じ不正は起きないと思うかもしれません。

しかし、経理担当者一人にデータ作成から承認までの権限を与えれば、問題の構造は変わりません。

紙を改ざんする代わりに、システム上の数字を書き換えるだけだからです。

重要なのは紙かデジタルかではありません。

一人で取引を完結できるかどうかです。

結論

振込の作成権限とは、振込先や金額などのデータを準備する権限です。

承認権限とは、その内容を確認して実際の振込を確定させる権限です。

この二つを同じ人に与えると、一人で会社のお金を動かせる状態になる可能性があります。

中小企業で経理担当者が一人しかいなくても、

経理担当者が振込データを作る

社長が内容を確認する

社長自身のIDで最終承認する

重要な変更があれば再承認する

という仕組みは作れます。

さらにIDや認証情報を共有しないことも重要です。

経理のデジタル化によって紙の改ざんリスクは減らせます。

しかし、デジタル化だけで不正がなくなるわけではありません。

一人で作って、一人で承認して、一人で振り込める状態を作らない。

それがインターネットバンキング時代の内部統制の基本なのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月3日朝刊 中小企業リーガル処方箋 給料水増し5000万円 「お一人様」経理、振込依頼操作

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