親が亡くなって相続手続きを始めたとき、意外に難しいのが「親がどこに不動産を持っていたのか」を確認することです。
実家の土地と建物だけなら分かりやすいでしょう。
しかし、親が生前に購入した土地、祖父母から相続した山林、昔住んでいた地域に残っている土地などについて、子どもがすべて把握しているとは限りません。
相続登記が2024年4月から義務化されたことで、この問題はさらに重要になりました。
相続人が不動産の存在そのものを知らなければ、相続登記をしたくてもできないからです。
そこで2026年2月2日から始まったのが、所有不動産記録証明制度です。
特定の人が登記名義人となっている不動産を検索し、一覧的に確認できるようにする新しい仕組みです。
所有不動産記録証明制度とは何か
所有不動産記録証明制度とは、特定の人や法人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を登記情報から検索し、一覧的にリスト化した証明書を交付する制度です。
2026年2月2日に施行されました。
大きな目的は、相続人が亡くなった人の不動産を把握しやすくすることです。
これまでの不動産登記は、基本的に土地や建物ごとに登記記録が作られていました。
そのため、
父親が所有していた全国の不動産を調べたい
という人物単位での検索は容易ではありませんでした。
所有不動産記録証明制度によって、この問題を解消しようとしているのです。
なぜ相続登記義務化とセットで導入されたのか
2024年4月から相続登記が義務化されました。
相続によって不動産を取得した人は、原則として一定の期限内に相続登記を申請する必要があります。
ところが、親が所有している不動産を子どもがすべて知っているとは限りません。
例えば父親が、
自宅
実家近くの畑
祖父から相続した山林
昔購入した別荘地
といった不動産を持っていたとします。
子どもが自宅しか知らなければ、残りの不動産について相続登記が行われない可能性があります。
こうした登記漏れを防ぎ、相続人の調査負担を軽減するために所有不動産記録証明制度が設けられました。
これまでは固定資産税の納税通知書を確認していた
親の不動産を調べる代表的な方法の一つが、固定資産税の納税通知書を確認することでした。
固定資産税が課税されている土地や建物であれば、納税通知書などから不動産の存在を把握できます。
しかし、問題があります。
納税通知書そのものが見つからないことがあります。
親がどこに書類を保管していたのか分からない場合もあるでしょう。
さらに、固定資産税が課税されていない一定の不動産などについては、納税通知書だけでは把握できない可能性があります。
そこで従来から利用されてきたもう一つの方法が名寄帳です。
名寄帳とは何か
名寄帳とは、市区町村が固定資産課税台帳などを基に、所有者ごとの土地や家屋をまとめたものです。
例えば父親がある市内に、
自宅の土地
自宅建物
畑
駐車場
を所有していれば、その市区町村の名寄帳を確認することで父親名義の不動産を把握できます。
相続実務では非常に重要な資料です。
ただし、名寄帳には大きな制約があります。
基本的にその市区町村が管理している固定資産について確認する仕組みだからです。
名寄帳では全国の不動産を一括確認できない
例えば東京都に住んでいた父親が、
東京都に自宅
長野県に別荘
新潟県に山林
福岡県に相続した土地
を持っていたとします。
東京都の名寄帳を調べても、長野県、新潟県、福岡県の不動産まで一括して確認できるわけではありません。
そもそも相続人が、
父親が新潟県に土地を持っている
という事実を知らなければ、その自治体に名寄帳を請求するという発想自体が生まれません。
ここに従来の不動産調査の難しさがありました。
所有不動産記録証明制度は、全国の登記情報から検索することで、この弱点を補う制度です。
名寄帳とは調べている情報が違う
所有不動産記録証明制度と名寄帳は、似ているようで情報の基礎が異なります。
名寄帳は、市区町村が固定資産課税台帳などを基に作成するものです。
一方、所有不動産記録証明制度は法務局の登記情報を基に検索します。
したがって、どちらか一方が完全に他方を置き換えるものではありません。
例えば、所有不動産記録証明制度の検索対象となるのは、所有権の登記がされている不動産です。
未登記の建物などは検索結果に出てこない可能性があります。
逆に名寄帳から未登記家屋の存在が判明することも考えられます。
相続財産を確実に調べたい場合には、それぞれの制度の特徴を理解して使い分けることが重要です。
誰が証明書を請求できるのか
所有不動産記録証明書は、誰でも自由に他人の不動産を検索できる制度ではありません。
主な請求者は、
所有権の登記名義人本人
その相続人などの一般承継人
です。
代理人による請求も可能です。
例えば父親が亡くなった場合、相続人である子どもが必要な書類を用意して、父親名義の不動産について証明書を請求することができます。
個人情報や財産情報に関わるため、単なる興味で他人の所有不動産を一覧検索できる制度ではありません。
全国の法務局で請求できる
この制度の便利なところは、亡くなった人の不動産所在地ごとに法務局を回る必要がないことです。
全国の法務局、地方法務局、その支局や出張所で請求できます。
書面による窓口請求だけでなく、郵送やオンラインによる請求も可能です。
例えば東京に住んでいる相続人が、九州にある実家の相続手続きをする場合でも、必ずしも九州の法務局まで出向く必要はありません。
地方の実家を都市部に住む子どもが相続するケースが増えている現在、実務上大きな意味を持つ仕組みです。
氏名だけで完全に検索できるわけではない
所有不動産記録証明制度について注意したいのは、
名前を入力すれば全国の不動産が必ず完全に出てくる
という単純な仕組みではないことです。
検索には氏名や住所などの条件が利用されます。
ところが、登記簿に記録されている住所が古い場合があります。
例えば父親が30年前に土地を購入し、その後何度も引っ越していたとします。
土地の登記簿上の住所が昔の住所のままになっていれば、現在の住所だけを検索条件にしても、その土地が検索結果に出てこない可能性があります。
そのため、亡くなった人の過去の住所などを確認しておくことが重要になります。
検索結果に出ない不動産もある
所有不動産記録証明書を取得したからといって、亡くなった人が関係する不動産を100パーセント把握できるとは限りません。
例えば、所有権の登記がされていない不動産は検索対象になりません。
登記簿がコンピューター化されていない不動産についても検索結果に抽出されない場合があります。
また、氏名や住所などの検索条件と登記記録の情報が一致しなければ、該当する不動産が抽出されない可能性があります。
この制度は非常に便利ですが、万能な財産調査制度ではありません。
相続登記ではどのように活用するのか
実際の相続では、まず被相続人が所有していた不動産を洗い出します。
所有不動産記録証明制度を利用すると、
どこに土地があるのか
どこに建物があるのか
自分たちが知らなかった不動産がないか
を確認しやすくなります。
そこで把握した不動産について登記事項証明書などを取得し、具体的な権利関係を確認します。
そのうえで遺言書の内容や遺産分割協議などに基づいて、必要な相続登記を進めます。
つまり所有不動産記録証明書そのものが相続登記を完成させてくれるのではありません。
相続登記の対象となる不動産を見つけるための入口として活用する制度です。
実家だけ登記して安心するのは危険
相続でありがちなのが、目に見える実家だけを相続財産だと思ってしまうことです。
しかし、地方では自宅の周辺に細かな土地を複数所有していることがあります。
道路に使われている土地の持分
農地
山林
離れた場所にある小さな土地
祖父母から相続した土地
などが残っていることもあります。
実家の土地と建物だけ相続登記を済ませても、別の土地が漏れていれば、その土地について所有者不明化の問題が残ります。
相続登記義務化の時代には、まず不動産を正確に洗い出すことが重要になっています。
相続が重なる前に不動産を把握する
不動産の存在を見落としたまま時間が経過すると、問題はさらに複雑になります。
父親の相続登記をしないまま子どもが亡くなれば、今度は孫の世代へ相続関係が広がる可能性があります。
さらに次の相続が起きれば、関係者はもっと増えます。
数十万円程度の価値しかない土地について、十数人の相続人が関係するという事態も起こり得ます。
だからこそ、相続が発生した最初の段階で不動産を把握する意味があります。
所有不動産記録証明制度は、相続登記のためだけでなく、こうした将来の権利関係の複雑化を防ぐための仕組みでもあります。
結論
所有不動産記録証明制度は、特定の人が所有権の登記名義人となっている不動産を検索し、一覧的に確認できる制度です。
2026年2月2日に始まりました。
背景には2024年4月から始まった相続登記の義務化があります。
相続登記を確実に行うためには、その前提として亡くなった人がどの不動産を所有していたのか把握しなければなりません。
従来は固定資産税の納税通知書や市区町村の名寄帳などから調査していました。
しかし名寄帳は基本的に市区町村単位であり、全国に散らばった不動産を一括して確認することには限界があります。
所有不動産記録証明制度によって、全国の登記情報から被相続人名義の不動産を一覧的に確認できるようになったことには大きな意味があります。
ただし、万能ではありません。
未登記の不動産は対象外となり、登記簿上の住所が古いなど検索条件が一致しなければ、不動産が検索結果に出てこないこともあります。
そのため、必要に応じて固定資産税関係資料や名寄帳などと組み合わせて確認することが重要です。
これからの相続では、
実家がどこにあるか
だけではなく、
親名義の不動産がほかに残っていないか
まで確認することが求められます。
所有不動産記録証明制度は、相続登記の対象を漏れなく把握し、次の世代に所有者不明の土地を残さないための重要な仕組みといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月 マネー相談 黄金堂パーラー 相続空き家 上 登記の手続き
法務省 2026年 所有不動産記録証明制度について