2026年10月に「106万円の壁」の賃金要件が撤廃されると、パートやアルバイトの社会保険加入では「週20時間」という基準がこれまで以上に重要になります。
ここで知っておきたい言葉が「所定労働時間」です。
社会保険の加入要件でいう週20時間は、単純にタイムカードを集計して「今週は20時間働いた」という意味ではありません。
基本となるのは、会社と従業員との間であらかじめ決められた労働時間です。
そのため、繁忙期に残業して一時的に週20時間を超えただけで、直ちに社会保険への加入が決まるわけではありません。
一方、契約では週20時間未満なのに、実際には毎週のように20時間以上働いている場合は別の問題が生じます。
今回は、今後の社会保険を理解するうえで重要になる所定労働時間について整理します。
所定労働時間とは何か
所定労働時間とは、会社と従業員との間であらかじめ働くことを決めた時間です。
一般的には、雇用契約書や労働条件通知書、就業規則などによって定められています。
たとえば、
1日4時間
週5日勤務
という契約なら、週の所定労働時間は20時間です。
一方、
1日4時間
週4日勤務
なら、週16時間になります。
社会保険の短時間労働者に関する加入要件では、この所定労働時間が重要な判断基準になります。
つまり「実際に何時間会社にいたか」だけではなく、「どのような勤務条件で雇われているのか」を見るわけです。
実労働時間とは何が違うのか
所定労働時間と区別したいのが実労働時間です。
実労働時間とは、その名の通り実際に働いた時間です。
たとえば雇用契約では週18時間勤務となっている人がいたとします。
通常は週18時間働いていますが、ある週だけ同僚が休んだため代わりに勤務し、22時間働きました。
この場合、
所定労働時間は週18時間
実労働時間はその週だけ22時間
となります。
二つの時間は一致していません。
社会保険の週20時間要件を考える際には、この違いを理解しておく必要があります。
残業で20時間を超えたらどうなるのか
パート従業員でも残業することがあります。
たとえば所定労働時間が週18時間の人が、繁忙期に2時間残業して週20時間働いたとします。
この一週間だけを見れば20時間に達しています。
しかし、所定労働時間そのものが週20時間になったわけではありません。
翌週から通常通り週18時間に戻るのであれば、一時的な勤務時間の増加にすぎません。
したがって、
今週20時間働いた
イコール
直ちに社会保険へ加入する
という単純な仕組みではありません。
106万円の壁撤廃後に週20時間という数字が注目されるほど、この点は誤解されやすくなる可能性があります。
毎週20時間を超えていたら話は変わる
一方、契約書に週18時間と書いてあれば、実際に何時間働いても関係ないというわけではありません。
たとえば、
契約上は週18時間
実際には毎週22時間程度勤務
という状態が長期間続いているとします。
これは一時的な残業とは性質が違います。
実態として週20時間以上働くことが常態化しているからです。
実際の労働時間が一定期間にわたり週20時間以上となり、その状態が今後も続くと見込まれる場合には、社会保険の適用を考える必要が生じます。
書面上の契約だけを週20時間未満にしておけばよいというものではありません。
社会保険制度では勤務実態も重要です。
契約変更で20時間以上になればどうなるのか
もっと分かりやすいのが契約そのものを変更する場合です。
たとえばこれまで、
1日4時間
週4日
週16時間勤務
だった人が、人手不足などを理由に週5日勤務へ変更したとします。
すると、
1日4時間掛ける週5日で週20時間
になります。
雇用契約上の所定労働時間そのものが20時間になったため、ほかの要件も満たせば社会保険の加入対象となります。
2026年10月以降は106万円という賃金要件がなくなるため、このような勤務時間の変更が社会保険加入に直接結びつきやすくなります。
毎週勤務時間が違う人はどう考えるのか
パートやアルバイトでは、毎週同じ時間働くとは限りません。
たとえば、
第1週は18時間
第2週は22時間
第3週は16時間
第4週は24時間
という勤務契約もあり得ます。
このように週によって所定労働時間が異なる場合には、一定期間の所定労働時間を平均して週当たりの時間を判断する考え方があります。
月単位で所定労働時間が定められている場合も、週単位に換算して判断します。
そのため「今週だけ19時間だから対象外」「来週は21時間だから対象」というように毎週社会保険の資格が変わるわけではありません。
雇用契約全体から週当たりの所定労働時間を判断することが重要です。
シフト制でも契約内容が重要になる
飲食店や小売店、介護施設などでは、勤務日や勤務時間を毎月のシフト表で決めることがあります。
こうした働き方でも、社会保険の加入判定は必要です。
シフト制だから週20時間という基準がなくなるわけではありません。
雇用契約や労働条件通知書で定められた勤務条件、実際のシフト、継続的な勤務実態などから判断することになります。
今後は企業側にも、短時間労働者の勤務時間を正確に把握することがこれまで以上に求められます。
書類だけ週19時間にすることはできない
106万円の壁撤廃後に懸念されるのが、社会保険の適用を避けるための勤務時間調整です。
企業が社会保険料負担を避けるため、
契約書には週19時間と書く
しかし実際には毎週20時間以上働いてもらう
という運用をしたとします。
これで社会保険への加入を避けられると考えるのは危険です。
社会保険の適用は、契約書の数字だけを形式的に見るものではありません。
恒常的な勤務実態がどうなっているのかも重要だからです。
106万円という金額の壁がなくなるほど、今後は労働時間の適正な管理が重要になります。
働く人も雇用契約書を確認する
これまで年収の壁を意識してきた人は、毎月の給与や年間収入を確認することが中心だったかもしれません。
しかし2026年10月以降は、それだけでは十分ではありません。
自分の雇用契約書や労働条件通知書に、
1日の勤務時間
週の勤務日数
週の所定労働時間
がどのように記載されているのかを確認することが重要になります。
さらに契約内容と実際の働き方が大きく違っていないかも確認する必要があります。
社会保険加入の判断基準が年収から労働時間へ移ることで、給与明細だけでなく労働条件そのものを見る必要性が高まるのです。
結論
所定労働時間とは、会社と従業員との間であらかじめ定められた労働時間です。
社会保険の短時間労働者に関する週20時間要件では、この所定労働時間が重要な基準になります。
そのため、所定労働時間が週18時間の人が繁忙期の残業によってある週だけ22時間働いたとしても、それだけで直ちに社会保険加入が決まるわけではありません。
一方、契約上は週20時間未満でも、実際には週20時間以上働く状態が恒常化している場合には注意が必要です。
書類上の数字だけではなく勤務実態も重要になります。
2026年10月に106万円の壁の賃金要件が撤廃されると、「年収をいくらに抑えるか」から「どのような労働条件で働いているか」へ社会保険を見るポイントが変わっていきます。
働く人にとっては、自分の給与だけでなく雇用契約を確認することが重要になります。
企業にとっては、契約内容と実際の勤務時間を一致させ、適切に労働時間を管理することがこれまで以上に求められます。
週20時間の壁を正しく理解する第一歩は、「働いた時間」と「働くことになっている時間」は必ずしも同じではないと理解することだと考えます。
参考
日本経済新聞 2026年9月4日 朝刊 「106万円の壁」撤廃、企業の負担重く