従業員の横領が会社の追徴課税につながるのはなぜか 会社も被害者なのに税金を追加で払う場合がある理由編

税理士

従業員が会社のお金を横領した場合、会社は被害者です。

それなのに税務調査を受けた結果、会社が追加で税金を納めなければならないことがあります。

なぜ被害を受けた会社まで税金を負担するのでしょうか。

理由の一つは、横領に伴って会社の帳簿に誤った経費が計上され、本来より法人所得が少なく計算されている場合があるからです。

税務では、会社が被害者かどうかという問題と、法人税が正しく計算されていたかという問題は分けて考える必要があります。

従業員による不正は、盗まれた金額だけでなく、税務申告にも影響する可能性があります。

横領とは何か

横領とは、自分が管理している他人の財産を不正に自分のものにする行為などをいいます。

会社の経理では、会社のお金を管理する立場を利用した不正が問題になることがあります。

例えば経理担当者が会社の預金から自分の口座へお金を振り込むケースです。

会社のお金100万円を不正に自分のものにすれば、会社には100万円の損失が生じます。

しかし、会計や税務ではここからさらに、

その100万円を帳簿でどのように処理していたのか

という問題が生じます。

横領したお金を会社の経費にするとどうなるのか

例えば経理担当者が会社から100万円を不正に取得したとします。

その100万円を帳簿へ何も記録しなければ、銀行残高と帳簿残高に差が生じる可能性があります。

そこで不正を隠すため、架空の経費100万円を帳簿に計上したとします。

帳簿上は、

会社が事業のために100万円を使った

ように見えます。

経費が100万円増えれば、その分だけ会社の利益は100万円少なくなります。

法人税は基本的に所得を基礎として計算するため、税務上認められない経費によって所得が少なく計算されていれば、法人税も本来より少なくなる可能性があります。

会社の利益が少なく見える仕組み

簡単な例で考えてみます。

本来の売上が1000万円、正当な経費が700万円だったとします。

利益は300万円です。

ところが従業員が100万円を不正に取得し、それを会社の経費として処理したとします。

帳簿上の経費は800万円になります。

すると帳簿上の利益は、

1000万円から800万円を差し引いた200万円

になります。

本来300万円だった利益が200万円になりました。

この数字を基に税務申告をすれば、所得が本来より少なく計算される可能性があります。

会社も被害者なのになぜ問題になるのか

会社から見れば、

従業員に100万円を取られたうえに税金まで払うのか

と感じるでしょう。

しかし税務署が確認するのは、まず会社の税務申告が正しかったかどうかです。

従業員による不正が原因だったとしても、本来納めるべき法人税が少なかったのであれば、その不足分について修正が必要になります。

従業員に対する損害賠償請求の問題と、国に対する納税の問題は別です。

会社が被害者であることだけを理由に、誤った税務申告がそのままになるわけではありません。

横領された金額がすべて単純に経費否認されるとは限らない

ここで注意したいのは、横領が発覚したら横領額の全額が必ずそのまま税務上の経費から外される、と単純に考えることはできない点です。

実際の税務処理では、

どのような方法で不正が行われたのか

会社がどのような会計処理をしていたのか

不正を行った従業員に対する損害賠償請求権をどう扱うのか

いつ会社が不正を認識したのか

など、具体的な事実関係によって判断が変わることがあります。

したがって実際に横領が発覚した場合には、税理士などの専門家と個別に確認することが重要です。

今回は給与の水増しだった

参考記事で紹介された大阪市の人材派遣会社では、唯一の経理担当者だった男性社員が、自分の給与を水増ししていました。

不正は2010年12月から2022年1月まで約11年間続きました。

水増し総額は5108万円でした。

多い月には水増し額が100万円を超え、本来の給与の5.4倍になったこともあったとされています。

会社の帳簿では、水増しされた部分も給与として処理されていました。

その結果、会社の給与費用が本来より多く計上され、法人所得が少なく計算されることになりました。

給与なら何でも会社の経費になるわけではない

従業員へ正当に支払う給与は、通常、会社の事業に必要な費用として扱われます。

しかし今回のように、従業員本人が会社の承認を得ず、自分の給与を勝手に水増しした部分まで通常の給与と同じように考えることはできません。

会社として正式に決めた給与ではなく、不正によって支払われたお金だからです。

帳簿に給与と書かれているだけで、税務上も自動的に正当な給与になるわけではありません。

取引の名称ではなく、実際に何が起きていたのかが重要になります。

税務署は法人所得の過少計上を指摘した

参考記事によると、税務署はこの給与水増しによって会社の法人所得が過少に計上されていたと判断しました。

会社には過少申告加算税などを含め1070万円が追徴されました。

会社はすでに5108万円もの給与水増し被害を受けています。

さらに税務上の負担まで発生したわけです。

経理不正による会社の損害は、不正に流出したお金だけではないことが分かります。

修正申告とは何か

会社が提出した税務申告について、納める税金が本来より少なかったことが後から分かった場合、修正申告が必要になることがあります。

例えば本来の所得が1000万円だったのに、誤った経費を計上したため800万円として申告していたとします。

後からその誤りが判明すれば、正しい所得に直します。

その結果、法人税などの不足額を追加で納めることになります。

不正が数年間続いていれば、複数年度の税務申告に影響する可能性もあります。

長期間の経理不正ほど、発覚後の処理が複雑になりやすい理由の一つです。

本税以外の負担が生じる場合もある

税務申告が少なかった場合、単に不足していた法人税などを払えば終わるとは限りません。

状況によっては、過少申告加算税などが課されることがあります。

さらに納税時期が遅れれば、延滞税が発生する場合もあります。

つまり会社の負担は、

不正によって失ったお金

追加で納める本税

加算税など

延滞税

不正調査にかかる費用

弁護士や税理士などへの専門家報酬

と広がる可能性があります。

一件の経理不正が会社へ与える影響は、横領額だけでは測れません。

従業員から回収できるとは限らない

会社が追徴課税を受けたとしても、

不正をした従業員から全部取り戻せばよい

と考えるかもしれません。

しかし実際には簡単ではありません。

従業員がすでにお金を使ってしまい、十分な財産を持っていなければ、裁判で会社の請求が認められても全額を回収できない場合があります。

今回の記事でも、男性は水増しした給与を生活費や遊興費に使い、妻へ毎月30万円を渡していたとされています。

会社との間で水増し額全額を返済する旨の誓約書も作成されましたが、全額が返済されたわけではないと報じられています。

発覚したら会計と税務を同時に確認する

従業員の不正が見つかった場合には、不正金額を確定するだけでなく、過去の会計処理や税務申告への影響も確認する必要があります。

例えば、

いつから不正が始まったのか

どの勘定科目で処理されていたのか

過去の法人税申告に影響しているか

消費税など他の税金への影響があるか

損害賠償請求権をどう処理するか

などを確認します。

不正調査と税務対応を別々に考えるのではなく、両方を並行して整理することが重要です。

不正を早く発見するほど税務への影響も小さくできる

不正防止の重要性は、盗まれる金額を減らすことだけではありません。

不正が1カ月で発見されれば、影響する会計期間も限定される可能性があります。

一方、10年以上続けば、多数の取引や過去の税務申告を確認しなければならなくなることがあります。

銀行振込の承認を分ける。

給与を前月と比較する。

銀行口座を経営者が確認する。

担当者を長期間一人にしない。

こうした内部統制は、税務リスクを小さくする意味でも重要です。

結論

従業員の横領や給与水増しが会社の追徴課税につながることがあるのは、不正に伴う誤った会計処理によって、会社の法人所得が本来より少なく申告される場合があるからです。

会社は不正の被害者です。

しかし、

従業員に対して損害賠償を求める問題

会社が正しい税金を納める問題

は別に考える必要があります。

参考記事の事件では、約11年間で5108万円もの給与水増しが行われ、会社には過少申告加算税などを含め1070万円が追徴されました。

経理不正による損害は、会社から流出した金額だけではありません。

税金、専門家費用、調査費用、回収不能など、二次的な負担が発生する可能性があります。

だからこそ、不正が起きてからお金を取り戻すことだけを考えるのでは不十分です。

不正を起こしにくくし、起きても早く発見できる仕組みを作る。

内部統制は会社の預金を守るだけでなく、将来の税務リスクを小さくするためにも必要なのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月3日朝刊 中小企業リーガル処方箋 給料水増し5000万円 「お一人様」経理、振込依頼操作

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