税理士がいれば経理不正は防げるのか 税務顧問と不正監査は同じ仕事ではない理由編

経営

中小企業では、税理士と顧問契約を結んでいる会社が少なくありません。

毎月帳簿を見てもらい、決算や法人税の申告も依頼しているのであれば、経理担当者が不正をしても税理士が見つけてくれると思うかもしれません。

しかし、税理士が会社に関与しているからといって、すべての経理不正を発見できるわけではありません。

税務顧問の仕事と、不正を発見するための調査は目的が異なるからです。

会社が作成した帳簿や資料が一見整っていれば、その裏側で行われた不正まで通常業務の中で発見することが難しい場合があります。

外部専門家を利用する場合には、誰に何を確認してもらうのかを明確にすることが重要です。

税務顧問とは何か

税務顧問とは、税理士などが継続的に会社の税務を支援する契約です。

具体的な業務内容は契約によって異なりますが、

税務相談

会計処理についての助言

決算への対応

法人税や消費税などの申告

税制改正についての助言

税務調査への対応

などが考えられます。

会社が正しい税務申告を行うための支援が中心です。

税理士が毎月会社を訪問したり、会計データをオンラインで確認したりする場合もあります。

税理士は会社が作った資料を利用する

税理士が会社の決算や税務申告を行う場合、会社から提供された資料を利用します。

例えば、

会計帳簿

銀行の取引データ

売上資料

請求書

給与資料

固定資産台帳

などです。

これらを確認して税務上の処理が適切かを検討します。

しかし、会社から提供された資料そのものが操作されていたらどうでしょうか。

例えば給与台帳には30万円と記録されているのに、実際には銀行から100万円振り込まれていたとします。

税理士が給与台帳だけを確認していれば、この70万円の差には気づけない可能性があります。

帳簿が合っていても不正がないとは限らない

経理不正というと、帳簿と銀行残高が合わなくなると思うかもしれません。

しかし、不正を行った人が帳簿まで操作すれば、数字を合わせることができる場合があります。

例えば会社から50万円を不正に支払った後、その50万円を架空の経費として帳簿へ記録したとします。

銀行口座は50万円減っています。

帳簿上の預金も50万円減っています。

銀行残高と帳簿残高は一致します。

しかし、その支払い自体が正当な会社の経費とは限りません。

数字が一致することと、取引が正しいことは別の問題です。

税務顧問と不正監査は目的が違う

通常の税務顧問では、会社の税務処理や申告を適切に行うことが主な目的になります。

一方、不正監査や不正調査では、

架空の取引がないか

社員による横領がないか

振込先が不自然ではないか

給与が不正に変更されていないか

証拠書類が改ざんされていないか

など、不正の存在を意識して調べます。

目的が違えば、確認方法も変わります。

通常の税務業務では必要のない銀行振込の個人別確認などが、不正調査では重要になる場合があります。

すべての取引を確認しているとは限らない

取引件数の多い会社では、外部専門家がすべての取引について請求書から銀行振込まで一件ずつ確認することは現実的ではありません。

例えば年間1万件の取引がある会社で、すべてについて、

契約書

請求書

承認記録

銀行振込

会計仕訳

を確認すれば膨大な時間が必要になります。

通常の顧問料の範囲で、そこまでの確認を前提としていない契約もあります。

外部専門家がいるというだけで、会社内部のチェックが不要になるわけではありません。

今回の事件でも帳簿処理が問題になった

参考記事で紹介された大阪市の人材派遣会社では、唯一の経理担当者だった男性社員が約11年間にわたり自分の給与を水増ししていました。

水増し総額は5108万円でした。

この不正によって、会社の給与費用が本来より多く計上されることになりました。

その結果、税務署は会社の法人所得が少なく計算されていたと判断し、過少申告加算税などを含め1070万円を追徴しました。

会社にとっては5108万円を不正に受け取られたことだけが問題ではありません。

不適切な経理処理が税務申告にも影響したわけです。

税理士がいれば追徴課税も防げるとは限らない

税理士が税務申告を行っていたとしても、会社内部で隠された不正を必ず発見できるとは限りません。

例えば経理担当者が給与として処理した金額について、会社側から正当な給与であるかのような資料が提供されていたとします。

外部から通常の資料を見るだけでは、その金額が本人によって勝手に水増しされたものなのか判断できない場合があります。

税務申告は、会社内部の事実関係を前提に作られます。

その前提となる情報が誤っていれば、税務申告にも影響が及びます。

だからこそ、会社内部の統制が重要になります。

外部専門家に何を依頼するのか明確にする

不正防止のために外部専門家を利用するなら、

税理士がいるから安心

で終わらせず、具体的な確認内容を決めることが重要です。

例えば、

銀行残高と帳簿残高を確認する

給与台帳と銀行振込結果を照合する

高額な支払いを抽出する

新規取引先への振込を確認する

役員や経理担当者本人への支払いを確認する

一定額以上の経費について証拠書類を見る

といった方法が考えられます。

通常の税務顧問契約とは別の業務になる場合には、内容や報酬について事前に確認する必要があります。

公認会計士などを利用する方法もある

不正リスクの確認では、公認会計士などの外部専門家へ相談する方法も考えられます。

特に、

すでに不正の疑いがある

帳簿と銀行取引が合わない

特定の社員による不自然な取引が見つかった

長期間にわたる不正の可能性がある

といった場合には、通常の税務相談とは違う対応が必要になることがあります。

必要に応じて弁護士などとの連携が必要になる場合もあります。

何が起きているのかによって適切な専門家は変わります。

外部専門家の存在自体が牽制になる

外部専門家を利用することには、不正を発見する以外の効果もあります。

経理担当者が、

毎月税理士が帳簿を見る

年に数回は銀行口座まで確認される

給与振込について抜き打ちで照合される

と知っていれば、不正を実行する心理的なハードルが上がります。

誰も見ていない状態と、外部の目が定期的に入る状態では、不正の機会が違います。

不正を見つけるだけでなく、起こりにくくする仕組みとして利用する考え方です。

経営者自身の確認はなくならない

外部専門家へ依頼したとしても、経営者の役割がなくなるわけではありません。

会社のお金を最終的に管理する責任は会社側にあります。

例えば経営者が毎月、

預金残高

大口の支払い

給与総額

経理担当者本人への給与

新しい振込先

などを見るだけでも違います。

専門的な税務判断は税理士へ相談し、会社内部の取引については経営者も把握する。

役割を分けることが重要です。

税理士を不正発見の責任者にしない

不正が発覚した後に、

税理士がなぜ気づかなかったのか

という疑問が生まれることがあります。

しかし、まず確認すべきなのは、税理士にどのような業務を依頼していたかです。

税務申告を依頼していたのか。

帳簿の確認まで依頼していたのか。

銀行取引との照合も依頼していたのか。

不正リスクを意識した確認を依頼していたのか。

契約内容によって期待される仕事は異なります。

外部専門家に何をしてもらうのかを曖昧にしないことが大切です。

結論

税理士が会社に関与しているからといって、経理不正をすべて防げるわけではありません。

税務顧問と不正監査では、仕事の目的が違います。

税務顧問では、会社が提供した帳簿や資料を基に、適切な税務処理や申告を支援することが中心になります。

一方、不正を発見するためには、

銀行取引と帳簿を照合する

給与台帳と実際の振込額を比較する

不自然な振込先を調べる

証拠書類の実在性を確認する

といった別の視点が必要になります。

約11年間で5108万円もの給与水増しが続いた事件では、不正な経理処理によって会社の税務申告にも影響が及び、追徴課税につながりました。

外部専門家がいることを内部統制の代わりにするのではなく、会社内部のチェックと組み合わせることが重要です。

そして外部専門家を利用するなら、何を確認してほしいのかを具体的に決める。

税理士がいるから安心なのではありません。

会社と外部専門家がそれぞれの役割を果たし、複数の目で会社のお金を見ることが、不正を防ぐ仕組みになるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月3日朝刊 中小企業リーガル処方箋 給料水増し5000万円 「お一人様」経理、振込依頼操作

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