正社員と非正規社員では仕事内容や責任が違う。
そのため基本給にも差がある。
ここまでは理解しやすいでしょう。
しかし、
基本給に差をつける理由があるのだから、住宅手当や家族手当、休暇などにも差をつけてよい
とは限りません。
同一労働同一賃金では、正社員と非正規社員の待遇差が不合理かどうかについて、原則として一つ一つの待遇ごとに判断します。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
基本給には基本給の目的があります。
住宅手当には住宅手当の目的があります。
家族手当には家族手当の目的があります。
休暇にも休暇の目的があります。
したがって、ある待遇の違いに合理的な理由があったとしても、その理由をそのまま別の待遇にも使えるとは限りません。
これが、同一労働同一賃金を考えるうえで非常に重要な原則です。
待遇ごとに判断する原則とは何か
正社員と非正規社員の待遇を比較するとき、
正社員の年収は500万円
契約社員の年収は350万円
というように、年間の賃金総額だけを比べればよいように思えるかもしれません。
しかし、同一労働同一賃金では基本的にこのような判断をしません。
基本給に違いがある。
賞与に違いがある。
退職金に違いがある。
住宅手当に違いがある。
家族手当に違いがある。
休暇に違いがある。
このような場合、それぞれについて待遇差が不合理ではないかを検討します。
参考資料でも、不合理性については個々の待遇ごとに判断するのが原則であることが説明されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
会社全体として何となくバランスが取れているかを見るのではなく、待遇を分解して考えるわけです。
基本給と手当は目的が違う
なぜ一項目ずつ判断する必要があるのでしょうか。
大きな理由は、待遇によって性質や目的が違うからです。
たとえば基本給について考えてみます。
会社によって制度は異なりますが、基本給には職務内容や能力、責任、経験などが反映されることがあります。
正社員のほうが責任の重い仕事を担当し、幅広い配置転換があり、非正規社員より高度な職務を担っているのであれば、基本給に差が生じることには一定の理由が考えられます。
しかし家族手当はどうでしょうか。
家族手当が扶養家族のいる従業員の生活を支援し、継続勤務を促す目的で設けられているのであれば、仕事の難しさとは別の問題です。
住宅手当も同様です。
住宅費や生活費を補助する目的であれば、
正社員の仕事のほうが難しい
という事実だけでは、非正規社員に住宅手当を支給しない理由を十分に説明できない場合があります。
待遇によって目的が違うからこそ、一つずつ判断する必要があるのです。
基本給に差があっても手当まで同じ結論にはならない
たとえば正社員の基本給が月30万円、契約社員が月25万円だったとします。
正社員には管理責任があり、転勤や配置転換もあります。
契約社員は担当業務と勤務地が限定されています。
このような事情から基本給の5万円の差について一定の説明ができたとします。
しかし、ここから、
だから家族手当も契約社員には支給しなくてよい
という結論が自動的に導かれるわけではありません。
家族手当については、
何のために支給しているのか
を改めて確認する必要があります。
同じことは住宅手当や休暇、福利厚生施設などについてもいえます。
正社員と非正規社員の仕事に違いがあることと、その違いが個々の待遇の目的に関係することは別問題なのです。
仕事側と待遇側の両方を見る
参考資料では、待遇差の不合理性を考える際に、仕事側と待遇側という二つの視点が重要であることが説明されています。
仕事側では、
職務内容
責任の程度
職務内容や配置変更の範囲
その他の事情
などを確認します。
一方、待遇側では、その待遇がどのような性質を持ち、何を目的として設けられているのかを確認します。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
この二つを結び付けて考えることが重要です。
正社員と非正規社員の間に仕事上の違いがあったとしても、その違いが問題となっている待遇の性質や目的と関係していなければ、待遇差を説明する材料として十分とは限りません。
住宅手当を見ると分かりやすい
住宅手当は、待遇ごとに判断する必要性を理解しやすい例です。
前の記事で取り上げたように、同じ住宅手当という名称でも裁判例によって異なる結論が示されています。
転居を伴う配置転換によって生じる住宅費負担を補助する制度であれば、
転勤のある正社員
転勤のない非正規社員
という違いが住宅手当の目的と結び付く可能性があります。
一方、単純に住宅費や生活費を補助する制度であれば、非正規社員にも住宅費の負担があります。
参考資料でも、同じ名称の待遇であっても、会社ごとに性質や目的が異なるため、異なる結論になる場合があることが説明されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
つまり、待遇の名前だけでは判断できません。
家族手当も基本給とは別に考える
家族手当についても同じです。
正社員のほうが責任の重い仕事を担当しているとしても、扶養家族がいることによる生活上の負担が正社員だけに発生するわけではありません。
家族手当に、
扶養家族のいる従業員の生活を支える
長く勤務してもらう
という目的があるのであれば、相応に継続勤務が見込まれる非正規社員にもその目的が当てはまる可能性があります。
したがって、
基本給に差があるから家族手当にも差をつける
という考え方ではなく、
家族手当について待遇差を設ける理由は何か
を別に考える必要があります。
休暇も一つの待遇として判断する
夏季冬季休暇や病気休職についても同じ考え方です。
正社員の基本給が高いことに合理的な理由があったとしても、
だから正社員だけ夏季休暇を取得できる
だから正社員だけ病気休職できる
という結論にはなりません。
休暇には休暇の目的があるからです。
特に長期間勤務することが見込まれる非正規社員については、休暇や病気休職の目的が正社員と同じように当てはまる場合があります。
2026年のガイドライン改正では、家族手当、住宅手当、病気休職や休暇、夏季冬季休暇などについて記載が新設または充実されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
企業は賃金だけではなく、こうした待遇まで一つずつ確認する必要があります。
他の賃金項目も考慮する場合がある
ただし、
待遇ごとに判断する
という原則にも注意点があります。
一つの待遇を完全に孤立させて判断するとは限らないからです。
参考資料では、基本的には個々の待遇ごとに判断するとしながら、関連する他の賃金項目などを考慮して判断する場合があることも説明されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
たとえば、ある手当が廃止され、その金額が基本給に組み込まれているような場合には、形式上の名称だけを比較すると実態を見誤る可能性があります。
待遇を個別に見ることと、関連する賃金制度を無視することは同じではありません。
重要なのは、実際の制度がどのように設計されているかを見ることです。
賃金総額だけでは判断できない
ここから、もう一つ重要なことが分かります。
正社員と非正規社員の賃金総額だけを比較して、
差が小さいから問題ない
と判断することはできないということです。
たとえば正社員の年収が450万円、契約社員が430万円だったとします。
年間では20万円しか違いません。
しかし内訳を見ると、
基本給
賞与
住宅手当
家族手当
各種休暇
などに複数の待遇差が存在しているかもしれません。
反対に年収差が大きくても、職務内容や責任、配置変更の範囲などに大きな違いがあり、それぞれの待遇について理由を説明できる場合もあります。
したがって、
年収差が何パーセント以内なら問題ない
という仕組みではありません。
一つ一つの待遇を見る必要があります。
待遇差を一覧にすることが出発点になる
企業が同一労働同一賃金への対応を行う場合、まず必要になるのは正社員と非正規社員の待遇を洗い出すことです。
参考資料でも、2026年改正への実務対応の出発点として、正社員と非正規社員との間に待遇差が存在するかを改めて確認することが示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
基本給だけではありません。
賞与。
退職金。
住宅手当。
家族手当。
福利厚生施設。
病気休職。
夏季冬季休暇。
このように待遇を一つずつ取り出し、違いがあるかを確認します。
そして違いがあれば、
なぜ違うのか
を検討します。
この作業をしなければ、会社自身が気付いていない待遇差を見落とす可能性があります。
待遇差の理由まで整理する
待遇差を発見したら、次にその理由を整理します。
たとえば、
基本給の差は職務内容や責任の違いによる
住宅手当の差は転居を伴う配置転換の有無による
賞与の差は正社員の人材活用や制度の目的と関係している
というように、待遇ごとに検討します。
重要なのは、
正社員と非正規社員だから違う
という説明で終わらせないことです。
2026年改正後は、非正規社員が待遇差の内容や理由について説明を求める制度の実効性がさらに意識されることになります。
会社としては、それぞれの待遇について説明できるようにしておく必要があります。
2026年改正では総点検が重要になる
2026年の同一労働同一賃金ガイドライン改正では、最高裁判例などを踏まえて複数の待遇について記載が新設、充実されました。
そのため、以前に同一労働同一賃金への対応を行った会社でも、改めて確認する必要があります。
参考資料でも、実務対応として待遇差を確認し、改正ガイドラインや裁判例を踏まえて不合理性を検討し、さらに待遇差の内容や理由を説明する資料を作成するという流れが示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
つまり、同一労働同一賃金への対応は、
正社員と非正規社員の給与を比較する
だけの作業ではありません。
待遇を細かく分解し、一つずつ理由を確認する作業なのです。
結論
同一労働同一賃金では、正社員と非正規社員の待遇差が不合理かどうかについて、原則として待遇ごとに判断します。
基本給に合理的な差があるからといって、住宅手当、家族手当、休暇などの差まで自動的に合理的になるわけではありません。
なぜなら、それぞれの待遇には異なる性質と目的があるからです。
基本給なら職務内容や責任との関係が重要になることがあります。
住宅手当なら住宅費負担や配置転換との関係が重要になる場合があります。
家族手当なら生活支援や継続勤務との関係があります。
休暇なら、その休暇を設けている目的を確認する必要があります。
そのため企業に必要なのは、
正社員のほうが待遇がよい
という大まかな比較ではありません。
基本給はなぜ違うのか。
賞与はなぜ違うのか。
手当はなぜ違うのか。
休暇はなぜ違うのか。
一項目ずつ理由を説明できる状態にすることです。
基本給の違いを説明できても、すべての待遇差を説明したことにはなりません。
この待遇ごとに考えるという原則こそ、同一労働同一賃金を実務で点検する際の重要な出発点なのです。
参考
企業実務 2026年9月号 同一労働同一賃金改正対応の総点検