日本の老齢年金を受け取るためには、原則として10年以上の受給資格期間が必要です。
このため、日本で数年間だけ働いて母国へ帰る外国人は、日本で年金保険料を納めても年金を受け取れないように思えるかもしれません。
しかし、日本と母国との間に社会保障協定があり、その協定に年金加入期間の通算が定められていれば、母国の年金加入期間を利用して日本の年金の受給資格を判定できる場合があります。
例えば、日本で5年間、母国で20年間年金制度に加入していた人は、日本だけでは10年に届きません。それでも期間通算が利用できれば、日本の老齢年金を受け取る資格を得られる可能性があります。
国境を越えて働く人にとって重要なのが、年金加入期間の通算という仕組みです。
日本の年金には10年の受給資格期間がある
日本の老齢基礎年金を受け取るためには、原則として保険料納付済期間や保険料免除期間などを合わせた受給資格期間が10年以上必要です。
以前は原則25年以上必要でしたが、2017年8月から10年以上に短縮されました。
日本で長期間生活する人であれば、10年という要件を満たすことはそれほど難しくない場合があります。
しかし、日本に一定期間だけ滞在する外国人にとっては事情が異なります。
技能実習や特定技能、留学後の就職、外国企業からの赴任など、日本で生活する期間が10年に満たない人も多くいます。
こうした人にとって、日本だけの加入期間で10年を満たせるかどうかは大きな問題になります。
複数の国で働くと加入期間が分断される
国際的に働く人には、年金加入期間が国ごとに分断されるという問題があります。
例えば、ある人が母国で15年間働いた後、日本で7年間働き、その後母国へ帰ったとします。
合計では22年間、何らかの年金制度に加入していることになります。
ところが、それぞれの国の制度を完全に別々に考えると、日本での加入期間は7年間しかありません。
日本の原則10年という受給資格期間を満たさないことになります。
実際には長期間にわたって社会保険料を負担しているにもかかわらず、国境を越えて働いたことによって加入期間が分断されるわけです。
この問題を解決するために社会保障協定による期間通算があります。
年金加入期間の通算とは何か
年金加入期間の通算とは、日本と社会保障協定の相手国での年金加入期間を利用して、それぞれの国の年金を受け取るために必要な資格期間を判定する仕組みです。
例えば、日本で7年間、母国で15年間年金制度に加入していた人を考えてみます。
日本での7年間だけでは、原則10年の受給資格期間を満たしません。
しかし、母国との社会保障協定に期間通算の規定があれば、母国での加入期間を日本の年金の受給資格判定に利用できる場合があります。
その結果、日本だけでは加入期間が不足していた人でも、日本の年金を受給できる可能性が生まれます。
日本で10年間保険料を納めたことになるわけではない
期間通算について最も注意したいのは、外国の加入期間がそのまま日本の年金加入期間になるわけではないことです。
例えば、日本で5年間、母国で20年間加入していた人について、合計25年間すべて日本の年金に加入していたものとして扱うわけではありません。
母国の20年間は、基本的に日本の年金を受け取る資格があるかどうかを判定するために利用します。
日本で実際に年金制度に加入していたのは5年間です。
したがって、日本から支給される年金額についても、原則として日本での加入期間などをもとに計算されます。
年金額そのものを合算するわけではない
期間通算という言葉から、日本と母国の年金を一つにまとめて受け取れるように思えるかもしれません。
しかし、年金額そのものを合算する制度ではありません。
それぞれの国は、それぞれの国の年金制度に加入していた期間などに応じて年金額を計算します。
例えば、日本で5年間、母国で20年間加入していた場合、期間通算によって日本の年金の受給資格を満たしたとしても、日本が25年間分の年金を支給するわけではありません。
日本からは日本の制度への加入実績に応じた年金が支給され、母国からは母国の制度に基づく年金が支給されることになります。
加入期間をつなぐことと、年金額をまとめることは別なのです。
海外に住んでいても日本の年金を受け取れる
期間通算によって日本の年金の受給資格を満たした外国人は、将来母国に住んでいても日本の年金を受け取れる場合があります。
帰国したから日本の年金を受け取れなくなるわけではありません。
日本で働いた期間について日本から年金を受け取り、母国で働いた期間について母国から年金を受け取るという形になります。
国境を越えて働くことが一般的になるほど、老後の収入も複数の国の年金制度から構成される人が増えていくことになります。
すべての社会保障協定で期間通算できるわけではない
重要なのは、日本と母国との間に社会保障協定があるだけでは、必ず期間通算できるわけではないことです。
社会保障協定には、大きく分けて二つの役割があります。
一つは、日本と相手国の両方で社会保険料を負担する二重加入を防ぐ適用調整です。
もう一つが、年金加入期間の通算です。
協定によっては両方を定めていますが、期間通算を含まないものもあります。
英国、韓国、中国、イタリアとの社会保障協定などは、年金加入期間の通算を含まない協定となっています。
したがって、社会保障協定締結国の出身者だから期間通算できると判断することはできません。
協定の内容を国ごとに確認する必要がある
社会保障協定は、すべての国との間で同じ内容になっているわけではありません。
相手国の社会保障制度が異なるため、協定の対象となる制度や適用調整、期間通算などの内容も異なります。
そのため、日本で働く外国人が将来の年金について考える場合には、自分の母国と日本との間に社会保障協定があるかを確認するだけでは十分ではありません。
年金加入期間を通算できる協定なのか、どの制度が通算の対象になるのかなどを確認する必要があります。
国境を越える年金では、自分の加入履歴と協定の内容をセットで確認することが重要です。
脱退一時金を受け取ると期間通算に使えなくなる
外国人にとって特に注意が必要なのが、脱退一時金との関係です。
日本で一定期間年金制度に加入した外国人が帰国する場合、一定の要件を満たせば脱退一時金を請求できます。
しかし、脱退一時金を受け取ると、その支給額の計算の基礎となった日本の年金加入期間はなくなります。
その期間については、後から社会保障協定による期間通算に利用することもできなくなります。
例えば、日本で5年間加入していた人が帰国時に脱退一時金を受け取れば、その5年間を母国の加入期間とつないで将来の日本の年金受給資格に利用することはできません。
脱退一時金を受け取るかどうかは、期間通算の可能性まで考えて判断する必要があります。
外国人にとって年金保険料を納める意味が変わる
日本に数年間しか滞在しない外国人にとって、10年という受給資格期間だけを見ると、日本の年金保険料を納めるメリットを感じにくい場合があります。
しかし、期間通算ができれば考え方は変わります。
日本での加入期間が5年でも、その5年間が母国の加入期間とつながり、将来日本から年金を受け取れる可能性が生まれるからです。
日本で納めた年金保険料が単独で10年に達する必要がないということになります。
外国人の国民年金納付率を考えるうえでも、こうした仕組みを分かりやすく説明することは重要です。
社会保障協定がない国との違いも大きい
一方、日本との間に社会保障協定がない国の出身者については、母国でどれだけ長く年金制度に加入していても、その期間を日本の受給資格判定に利用することはできません。
日本での加入期間は、日本の制度だけで判断されることになります。
外国人材の受け入れが拡大するなか、どの国と社会保障協定を結んでいるかによって、外国人が日本で年金保険料を納める意味にも違いが生じます。
外国人に日本の社会保険制度への適切な加入を求めるのであれば、社会保障協定のネットワークを広げることも重要な政策課題になります。
結論
年金加入期間の通算とは、日本と社会保障協定の相手国での年金加入期間を利用して、年金の受給資格を判定する仕組みです。
日本の老齢年金には原則10年以上の受給資格期間が必要ですが、期間通算ができる社会保障協定があれば、日本で10年間加入していない外国人でも、母国の加入期間と合わせることで日本の年金を受給できる場合があります。
ただし、外国の加入期間が日本の加入期間そのものになるわけではありません。
日本から受け取る年金額は、原則として日本の年金制度への加入実績などに応じて計算されます。
また、すべての社会保障協定で期間通算が認められているわけではなく、英国、韓国、中国、イタリアとの協定など期間通算を含まないものもあります。
さらに、脱退一時金を受け取れば、その対象となった日本の加入期間を期間通算に利用できなくなります。
国境を越えて働く時代には、何年間一つの国で働いたかだけではなく、複数の国で積み上げた年金加入期間をどのようにつなぐかという視点が重要になっています。
参考
日本経済新聞 2026年8月18日朝刊 国民年金の納付、外国人低調55%