2027年1月から始まる給与所得の源泉徴収票の「みなし提出の特例」は、単なる提出書類の削減にとどまらない変化です。
給与支払報告書を市区町村へ提出すると、給与所得の源泉徴収票について税務署へ提出したものとみなされます。
さらに、eLTAXで給与支払報告書を提出すれば、従業員の給与情報がマイナポータル連携の対象となり、確定申告書への自動入力にもつながります。
企業が同じ給与情報を複数の行政機関へそれぞれ提出する仕組みから、1度提出した情報を行政手続の中で活用する仕組みへ変わり始めていると見ることができます。
今回の改正を起点として、給与税務の実務がどのように変わるのかを整理します。
これまでの給与税務は同じ情報を何度も扱ってきた
企業の給与担当者は、年末調整が終わった後も多くの事務を行います。
従業員に源泉徴収票を交付し、税務署へ給与所得の源泉徴収票を提出し、市区町村へ給与支払報告書を提出します。
給与所得の源泉徴収票と給与支払報告書には共通する給与情報が含まれています。
それでも提出先や提出範囲が異なるため、企業はそれぞれの手続に対応する必要がありました。
紙で提出する企業であれば、印刷、仕分け、封入、送付、控えの保管といった作業も発生します。
給与計算そのものがデジタル化されても、その後の行政への提出事務には重複が残っていたわけです。
2027年から給与支払報告書が重要な入口になる
2027年1月1日以後は、給与支払報告書を市区町村へ提出すると、給与所得の源泉徴収票について税務署へ提出したものとみなされます。
これによって企業は、給与情報について税務署と市区町村へそれぞれ提出する重複事務を減らすことができます。
重要なのは、税務署への源泉徴収票が単純に不要になるということではありません。
市区町村への給与支払報告書の提出によって、税務署への源泉徴収票についても提出したものとして扱われる仕組みに変わるということです。
企業が行政機関ごとに同じような情報を提出する方式から、提出した給与情報を制度上つなげて利用する方式へ変わります。
電子化とみなし提出は同じではない
今回の制度を考えるときには、「みなし提出」と「電子化」を分けて理解する必要があります。
みなし提出の特例はeLTAXだけに限定されません。
給与支払報告書をeLTAX、光ディスク等、書面のいずれで市区町村へ提出した場合でも特例の対象になります。
したがって、みなし提出そのものは、すべての企業に電子提出を求める制度ではありません。
一方、法定調書の電子的提出義務については、2027年1月1日から基準枚数が100枚以上から30枚以上へ引き下げられます。
みなし提出とは別の仕組みですが、この改正によって電子提出を利用する企業は増えることになります。
30枚基準で中小企業にも電子化が広がる
電子的提出義務の基準が100枚以上から30枚以上になることは、給与税務のデジタル化を考えるうえで大きな変化です。
100枚という基準では対象にならなかった企業でも、30枚になれば電子提出義務の対象になる可能性があります。
ただし、30枚という数字を単純に従業員数と考えてはいけません。
電子的提出義務は、基準年に提出すべきであった法定調書の枚数によって判定します。
さらに、みなし提出開始後は、実際に税務署へ直接提出した源泉徴収票が0枚であっても、みなし提出となった源泉徴収票が判定上の枚数に含まれます。
デジタル化が進むほど、単純な紙の提出枚数ではなく、制度上の判定方法を理解する必要が出てきます。
eLTAXで企業の提出事務が変わる
eLTAXを利用するメリットは、紙を使わなくなることだけではありません。
資料では、給与支払報告書をeLTAXで提出することにより、提出先となる市区町村への自動振分けが行われることが示されています。
紙で提出する場合には、市区町村ごとに給与支払報告書を整理する必要があります。
eLTAXを利用すれば、この仕分け作業を減らすことができます。
さらに、印刷、押印、封入、送付作業などの削減につながります。
送付費用や紙の控えの保管場所を減らすことができ、誤封入などのリスク軽減も期待できます。
デジタル化によって変わるのは提出媒体だけではなく、その前後に存在していた事務作業です。
給与情報が従業員の確定申告にもつながる
eLTAXによる給与支払報告書の提出には、もう1つ重要な意味があります。
従業員が確定申告を行う場合、給与情報がマイナポータル連携の対象になります。
給与情報を確定申告書へ自動入力できるため、従業員側の申告事務の負担軽減につながります。
企業が行政へ提出した給与情報が、従業員本人の確定申告にも利用されることになります。
一方、資料では、光ディスク等や書面で給与支払報告書を提出した場合には、この給与情報のマイナポータル連携の対象外とされています。
同じみなし提出でも、提出方法によって、その後の情報活用には違いが生じます。
企業だけでなく従業員にもデジタル化の効果が及ぶ
これまで企業の電子申告というと、企業側の事務効率化という視点で考えることが多かったかもしれません。
しかし、給与情報のマイナポータル連携では、企業がeLTAXを利用することが従業員側の利便性にもつながります。
企業が給与支払報告書を電子的に提出する。
その給与情報が連携される。
従業員が確定申告するときに給与情報を利用する。
このように、企業の給与事務と従業員個人の確定申告がデータによってつながっていきます。
資料でも、eLTAXで提出する場合には、給与情報のマイナポータル連携が可能であることを従業員へ周知することが準備項目として示されています。
電子的提出の一元化は役割を終える
制度の変化を象徴しているのが、eLTAXの「電子的提出の一元化」機能です。
これまでは、給与支払報告書と給与所得の源泉徴収票をeLTAXで一括作成、提出する仕組みが用意されていました。
しかし、2027年から給与支払報告書を市区町村へ提出すれば、給与所得の源泉徴収票について税務署へ提出したものとみなされます。
2種類の提出データを一元化して送る必要性そのものが変わるわけです。
資料では、「電子的提出の一元化」機能と統一CSVレイアウトが2029年6月に廃止されるとされています。
これまで同機能を利用してきた企業では、給与ソフト等の設定や送信方法を見直す必要があります。
法定調書合計表の実務も簡素化される
給与所得の源泉徴収票を税務署へ直接提出しなくなることで、法定調書合計表にも変化が生じます。
給与支払報告書の提出によって給与所得の源泉徴収票がみなし提出となり、ほかに税務署へ提出する法定調書がなければ、法定調書合計表も不要になります。
一方、退職所得の源泉徴収票や報酬等の支払調書などを税務署へ提出する場合には、法定調書合計表が必要です。
その場合には、実際に税務署へ提出する法定調書について作成します。
これまで当然のように行っていた年末調整後の作業についても、必要なものと不要になるものを整理する必要があります。
デジタル化しても従業員への源泉徴収票交付は残る
一方で、すべての事務がデジタル化によってなくなるわけではありません。
税務署への給与所得の源泉徴収票がみなし提出となっても、受給者本人である従業員への源泉徴収票の交付はこれまでどおり必要です。
ここは、今回の改正を考えるうえで重要な境界線です。
行政への提出方法が変わることと、従業員に対する企業の事務がなくなることは同じではありません。
「デジタル化されたから全部不要」と考えるのではなく、どの事務が変わり、どの事務が残るのかを確認する必要があります。
給与担当者の仕事は提出作業から確認作業へ
給与税務のデジタル化が進むと、担当者の仕事の重点も変わっていくと考えられます。
紙を印刷する。
市区町村ごとに仕分ける。
封筒に入れる。
郵送する。
こうした作業は減っていきます。
その一方で、電子的提出義務の判定、提出先市区町村の確認、給与ソフトの設定、送信結果の確認、訂正データの処理などの重要性は高まります。
単純な提出作業が減る一方で、データが正しく作成され、正しい提出先へ送られていることを確認する役割が重要になります。
給与担当者の仕事がなくなるというより、仕事の内容が変わっていくと捉えた方がよいでしょう。
1度入力した情報を活用する方向へ
今回の資料から見えてくる大きな方向性は、給与情報を何度も作成し直すのではなく、1度作成、提出した情報を活用していくという流れです。
給与支払報告書を市区町村へ提出することで、給与所得の源泉徴収票について税務署へのみなし提出につながります。
eLTAXで提出すれば、給与情報を従業員の確定申告におけるマイナポータル連携にも利用できます。
一方で、資料は今回の制度より先の具体的な制度改正まで示しているわけではありません。
したがって、年末調整そのものが将来なくなるといったところまで、この資料から判断することはできません。
現時点で確認できるのは、給与情報の提出と利用について、重複する事務を減らし、データを連携して活用する方向が明確になっていることです。
結論
2027年から始まる給与所得の源泉徴収票のみなし提出は、年末調整後の給与税務を大きく変える制度です。
給与支払報告書を市区町村へ提出すれば、給与所得の源泉徴収票について税務署へ提出したものとみなされます。
企業が同じような給与情報を税務署と市区町村へ重複して提出する事務が減ることになります。
さらに、電子的提出義務の基準は100枚以上から30枚以上へ引き下げられ、電子提出を必要とする企業の範囲も広がります。
eLTAXを利用すれば、提出先市区町村への自動振分けなどによって企業側の事務を効率化できるだけでなく、従業員の給与情報をマイナポータル連携の対象とすることもできます。
そして2029年6月には、従来の「電子的提出の一元化」機能と統一CSVレイアウトが廃止される予定です。
給与税務のデジタル化は、紙を電子データに置き換えるだけではありません。
同じ情報を何度も提出する仕組みから、1度提出した情報を行政手続や従業員の確定申告に活用する仕組みへ変えていくことに大きな意味があります。
企業に求められるのも、書類を大量に作成して提出する実務から、正しいデータを作成し、正しい方法で提出されていることを確認する実務へと変わっていくことになりそうです。
今回のみなし提出は、その変化を具体的に示す制度の1つといえるでしょう。
参考
企業実務 2026年10月号 2027年1月施行 給与所得の源泉徴収票「みなし提出の特例」の実務対応