少子化のニュースでは、合計特殊出生率という数字をよく目にします。しかし、少子化を考えるうえでもう一つ注目したい数字があります。
希望出生率です。
希望出生率を見ると、現在実際に生まれている子どもの数だけではなく、人々が希望する結婚や出産が実現した場合に、どの程度の出生率になるのかを考えることができます。
ところが2025年の出生動向基本調査を基にした試算では、この希望出生率自体が1.46程度まで低下する見通しとなりました。
これは日本の少子化を考えるうえで重要な変化です。
希望出生率とは何か
希望出生率は、若い世代の結婚希望や夫婦が希望する子どもの数などを基に、結婚や出産についての希望がかなった場合に想定される出生率を示す考え方です。
実際の出生率そのものではありません。
たとえば、結婚したい人が結婚できなかったり、2人の子どもを希望する夫婦が経済的な事情などから1人しか持てなかったりすることがあります。
こうした希望と現実の差を考えるために役立つのが希望出生率です。
少子化対策を考える場合には、実際の出生率だけでなく、そもそも人々がどの程度結婚や出産を希望しているのかを見る必要があります。
合計特殊出生率とは違う
希望出生率と混同しやすいのが合計特殊出生率です。
合計特殊出生率は、その年の15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計して算出します。
簡単にいえば、その年の出生状況が続いた場合に、女性1人が生涯に何人程度の子どもを産むことになるのかを示す指標です。
一方、希望出生率は実際に何人の子どもが生まれたかではなく、結婚や出産についての希望に着目します。
つまり、合計特殊出生率は現実を見る数字であり、希望出生率は希望が実現した場合を考える数字と捉えると分かりやすいでしょう。
両者の差が大きければ、結婚したいのに結婚できない、子どもが欲しいのに持てないという希望と現実の隔たりが大きい可能性があります。
希望出生率が1.46程度まで低下
2025年の出生動向基本調査を基に、日本経済新聞が京都大学の柴田悠教授の協力を得て試算した希望出生率は1.46程度となる見通しです。
新型コロナウイルス禍前には1.8前後でした。
2021年には1.6程度まで低下し、さらに2025年には1.46程度まで下がるという試算です。
なぜここまで低下しているのでしょうか。
大きな要因の一つが結婚意欲の低下です。
18歳から34歳の未婚者で、いずれ結婚するつもりと答えた割合は2025年に男性75.1パーセント、女性77.8パーセントとなりました。
以前は9割弱だった結婚希望者の割合が8割を下回っています。
子どもを希望する人数も減っている
変化しているのは結婚希望だけではありません。
夫婦が理想とする子どもの数は平均2.18人となりました。2021年の2.25人から減少しています。
さらに、実際に予定している子どもの数は1.95人となり、調査開始以来初めて2人を下回りました。
18歳から34歳で結婚を希望する未婚者が希望する子どもの数も、女性1.70人、男性1.64人となり、ともに過去最低でした。
つまり、結婚する人が減るだけではなく、結婚した場合に希望する子どもの人数についても低下する傾向がみられます。
この二つが重なれば、希望出生率も下がっていきます。
希望と現実の差だけでは説明できなくなっている
これまでの少子化対策には、希望と現実の差を縮めるという考え方がありました。
結婚したいのに経済的な理由で結婚できないのであれば、所得や住宅を支援する。
子どもを2人持ちたいのに教育費が心配で1人にしているのであれば、子育てや教育への経済的支援を充実させる。
こうした政策によって希望を実現できるようにする考え方です。
これは今でも重要です。
しかし、今回の数字からはもう一つの問題が見えてきます。
希望そのものが低下していることです。
結婚を希望する人の割合が下がり、希望する子どもの人数まで減っていけば、希望と現実の差を完全に解消したとしても出生率を大きく引き上げることが難しくなります。
人口維持には届かない
人口が長期的に同じ規模を維持するためには、出生率がおおむね2を少し上回る水準であることが必要です。
これを人口置換水準と呼びます。
希望出生率が1.46程度であれば、仮に結婚や出産についての希望がすべて実現したとしても、人口を維持できる水準には届きません。
ここが非常に重要です。
少子化は、希望しているのに実現できないという問題だけではなくなりつつあります。
若い世代が結婚や子育てを自分の将来の選択肢としてどの程度思い描けるのかという、より根本的な問題になっています。
希望が低下した理由を見る必要がある
ただし、希望出生率が下がったからといって、若者の価値観が変わっただけだと結論づけるのは適切ではありません。
2025年の調査では、現在は結婚する意思がない人でも、相手が現れたり、収入や貯蓄が増えたりすれば結婚希望に変わる可能性があることが示されています。
子どもの数についても、理想の人数を持たない最大の理由は、子育てや教育にお金がかかりすぎることでした。
現在の経済環境を前提として将来を考えた結果、結婚や子どもを希望しなくなっている可能性があります。
そうであれば、希望は固定されたものではありません。
所得、住宅、教育費、働き方、家事育児の負担などが変われば、将来に対する考え方も変わる可能性があります。
少子化対策の対象が広がっている
これまでの少子化対策では、児童手当や保育、育児休業など、子どもが生まれた後の支援が大きな役割を担ってきました。
今後はそれだけではなく、結婚する前の若い世代の生活基盤も重要になります。
安定した所得を得られるのか。
結婚後に住める住宅を確保できるのか。
共働きを続けながら子どもを育てられるのか。
教育費を負担できるという見通しを持てるのか。
こうした将来への見通しが、結婚や出産についての希望そのものにも影響すると考えられます。
結論
希望出生率とは、結婚や出産についての希望が実現した場合に、どの程度の出生率になるのかを考えるための指標です。
2025年の出生動向基本調査を基にした試算では、希望出生率は1.46程度まで低下する見通しとなりました。
重要なのは、実際の出生率が低いだけではなく、結婚を希望する人の割合や希望する子どもの人数そのものが低下していることです。
これからの少子化対策では、希望と現実の差を縮めるだけでは十分ではありません。
若い世代が結婚や子育てを無理なく人生設計の中に描ける社会になっているのか。
希望出生率の低下は、日本の少子化対策が子育て支援だけではなく、若い世代の所得、住宅、働き方まで含めた人生設計全体の問題になっていることを示しているのだと思います。
参考
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 一生結婚しない2割超
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 生活不安で結婚ためらう 家庭築く準備、支援薄く