相続税や贈与税の土地評価では、市街化調整区域に所在する雑種地の評価が難しい問題になることがあります。
雑種地とは、宅地、田、畑、山林、原野など、他の地目のいずれにも該当しない土地です。
例えば、資材置場や駐車場などとして利用されている土地が該当する場合があります。
このような雑種地が市街化調整区域にある場合、相続税評価で特に重要になるのが、建物を建築できる土地なのかどうかという問題です。
市街化調整区域は、原則として市街化を抑制する区域です。
そのため、一般的な市街化区域と比較すると、建物の建築や土地の開発に制限があります。
しかし、市街化調整区域にある土地が、すべて建築できないわけではありません。
一定の条件を満たせば、建物の建築が認められる場合があります。
この違いは、土地の利用可能性や市場価値に影響します。
今回は、2026年度の税理士研修資料をもとに、市街化調整区域の雑種地について、建築の可否を確認するための役所調査と、相続税評価におけるしんしゃく割合の考え方を解説します。
市街化調整区域の雑種地はなぜ評価が難しいのか
相続税の土地評価では、土地の地目や利用状況に応じて評価方法が異なります。
雑種地については、原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地の価額を基礎に評価します。
その際、土地の位置、形状、利用状況などを考慮する必要があります。
特に、市街化調整区域に所在する雑種地では、建築規制が重要な判断材料になります。
例えば、同じ500㎡の雑種地であっても、住宅を建築できる土地と、原則として建築できない土地では、利用可能性が異なります。
住宅を建築できる土地であれば、宅地としての利用が期待できます。
一方、建物を建築できない土地では、資材置場や駐車場など、利用方法が限定される場合があります。
このような利用制限の違いを、土地評価にどのように反映させるかが問題になります。
そこで重要になるのが、市街化調整区域における建築の可否と、宅地への転用可能性の調査です。
市街化調整区域でも建築できる土地がある
市街化調整区域では、原則として開発行為や建物の建築が制限されています。
しかし、都市計画法には、一定の条件のもとで開発が認められる仕組みがあります。
そのため、市街化調整区域に所在しているという理由だけで、建物を建築できない土地と判断することは適切ではありません。
例えば、一定の区域内にある土地について、条例に基づいて開発が認められる場合があります。
また、過去から宅地として利用されてきた土地や、一定の集落内にある土地について、自治体が定める条件を満たすことで建築が認められる場合もあります。
つまり、市街化調整区域の土地評価では、単に都市計画上の区域区分を確認するだけでは不十分です。
その土地が具体的にどのような建築規制を受けているかを調査する必要があります。
しんしゃく割合とは何か
市街化調整区域の雑種地を評価する場合には、宅地としての利用可能性などを考慮し、評価上のしんしゃくが問題になることがあります。
ここでいうしんしゃくとは、土地の利用制限などを踏まえて、評価額を調整することです。
例えば、宅地に転用することが難しい雑種地について、宅地として利用できる土地と同じように評価すると、土地の実態に比べて評価額が高くなる可能性があります。
そのため、建築や開発の制限がどの程度あるのかを確認し、評価に反映させる必要があります。
ただし、市街化調整区域に所在していることだけを理由に、一定割合を機械的に減額できるわけではありません。
また、建築できるかどうかの判断と、具体的にどの程度のしんしゃく割合を適用するかという判断は、区別して考える必要があります。
今回の研修資料では、しんしゃく割合を検討するための役所調査について、3つの重要なキーワードが示されています。
それが、条例指定区域、宅地性、集落性です。
最初に確認するのは条例指定区域かどうか
研修資料では、最初に確認すべき事項として、条例指定区域に該当するかどうかを挙げています。
ここでいう条例指定区域とは、都市計画法第34条第11号の規定に基づき、自治体の条例で指定された区域です。
このような区域では、一定の要件を満たす開発行為が認められる場合があります。
研修資料では、評価対象地が条例指定区域に所在する場合、原則として建物を建築できるため、建築制限を理由とするしんしゃくは行わないという考え方が示されています。
例えば、市街化調整区域にある雑種地であっても、条例指定区域内に所在し、必要な条件を満たして住宅を建築できる場合です。
このような土地について、建築できない土地と同じような評価減を適用することは適切ではありません。
ただし、条例指定区域内であれば、すべての建物を無条件で建築できるわけではありません。
建築できる用途や規模、敷地条件などについて、自治体が個別の要件を定めている場合があります。
そのため、実務では条例指定区域に該当するかどうかに加えて、具体的な建築条件を確認する必要があります。
条例指定区域でない場合は宅地性を調べる
評価対象地が条例指定区域に該当しない場合には、次に宅地性を確認します。
宅地性とは、その土地が過去から宅地として利用されてきたかどうかという観点です。
研修資料では、宅地性を確認するための事項として、過去の土地利用状況、固定資産税の課税地目、登記地目などが挙げられています。
例えば、現在は駐車場として利用されている雑種地であっても、過去には住宅が建っていた場合があります。
また、現在の登記地目が雑種地であっても、以前は宅地として登記されていた可能性があります。
このような場合、過去の土地利用状況が、建築の可否を判断するうえで重要な資料になることがあります。
ただし、過去に宅地であったという事実だけで、現在も必ず建物を建築できるわけではありません。
建築が認められるかどうかは、自治体の許可基準や土地の履歴などによって異なります。
そのため、過去の宅地利用を示す資料を確認したうえで、役所に建築の可否を問い合わせることが重要です。
宅地性を確認するための資料
宅地性を調査する場合には、土地の過去の利用状況を把握する必要があります。
例えば、土地の登記事項証明書や閉鎖登記簿を確認する方法があります。
これらの資料から、過去の地目や地目変更の履歴が分かる場合があります。
また、固定資産税の課税資料を確認することも考えられます。
過去から宅地として課税されていた場合には、宅地性を判断するための参考情報になります。
さらに、過去の航空写真や住宅地図などを確認すれば、以前に建物が存在していたかどうかを調べられる場合があります。
ただし、これらの資料は、過去の利用状況を確認するためのものです。
建築が可能であることを直接証明するものではありません。
最終的には、自治体の開発許可基準などに照らして判断する必要があります。
もう1つの重要な条件が集落性
条例指定区域に該当しない場合には、宅地性とともに集落性も重要になります。
集落性とは、評価対象地が一定規模の建物が集まっている地域に所在しているかどうかという観点です。
研修資料では、40戸から50戸程度の建物が建ち並ぶ地域が、集落性を判断する際の目安として紹介されています。
ただし、具体的な戸数や区域の範囲は、自治体によって異なります。
例えば、40戸以上の建物が集まっていることを条件とする自治体もあれば、50戸以上を目安とする自治体もあります。
また、市街化区域からの距離などについて、追加の条件を設けている場合もあります。
そのため、周辺に住宅が多いという理由だけで、集落性が認められるとは限りません。
自治体が定める具体的な基準を確認する必要があります。
宅地性と集落性の両方が重要になる
研修資料では、条例指定区域に該当しない場合、宅地性と集落性の両方を確認することが重要とされています。
例えば、過去から宅地として利用されてきた土地が、一定規模の集落内に所在している場合です。
このような土地では、自治体の定める条件を満たすことで、建物の建築が認められる可能性があります。
一方、過去に宅地として利用された履歴があっても、周辺に建物がほとんどない場合には、建築が認められない可能性があります。
また、周辺に多くの住宅が存在していても、評価対象地自体に宅地としての履歴がない場合には、別の判断になることがあります。
したがって、宅地性と集落性は、どちらか一方だけを確認すればよいものではありません。
研修資料では、両方の条件を満たす場合、建築可能な土地として、しんしゃくを行わない評価となる可能性が高いと説明されています。
ただし、これは実務上の判断の目安です。
最終的な建築の可否は、自治体の許可基準や個別の土地条件によって判断する必要があります。
自治体によって建築許可の条件が異なる
市街化調整区域の土地評価が難しい理由の1つは、自治体によって建築許可の条件が異なることです。
同じような土地であっても、所在する自治体によって、建築できる場合とできない場合があります。
研修資料では、自治体の開発指導要綱などを確認することが推奨されています。
開発指導要綱などには、開発許可に関する具体的な条件が示されている場合があります。
例えば、土地の位置や面積、道路との接続状況、周辺の建物の集積状況などが問題になることがあります。
また、自治体によっては、独自の提案基準などを設けている場合があります。
そのため、一般的な都市計画法の知識だけで判断するのではなく、評価対象地が所在する自治体の具体的な基準を確認することが重要です。
役所調査では何を確認すればよいのか
今回の研修資料では、市街化調整区域の雑種地について、役所調査を進める際の考え方が示されています。
まず、評価対象地が条例指定区域に該当するかどうかを確認します。
該当しない場合には、宅地性と集落性を調べます。
さらに、自治体が定める開発許可基準や提案基準などを確認します。
実際の調査では、都市計画担当部署や開発指導担当部署などに問い合わせることが考えられます。
その際には、土地の所在地や地番、現在の利用状況などを具体的に伝えることが重要です。
また、過去に建物が存在していた場合には、その履歴を示す資料を持参すると、調査が進めやすくなる可能性があります。
役所の担当者から説明を受けた場合には、確認した部署、担当者、日時、説明内容などを記録しておくとよいでしょう。
実際に建築計画がなくても役所に確認する
相続税評価のための調査では、実際に建物を建築する計画があるとは限りません。
むしろ、相続開始時点における土地の利用可能性を把握するために、建築の可否を確認することが目的になります。
研修資料では、役所の担当者に対して、評価のための調査であることを伝えるよう推奨しています。
具体的には、現時点で開発や建築の計画があるわけではないものの、土地評価において重要な判断材料となるため、建築の可否や開発許可の要件を確認したいと説明します。
このように調査目的を明確にすることで、役所の担当者も質問の趣旨を理解しやすくなります。
ただし、一般的な相談で得られた回答が、将来の開発許可を保証するわけではありません。
実際の建築計画では、建物の用途や規模、申請時点の法令などによって判断が変わる場合があります。
相続税評価では、あくまでも評価時点における土地の利用可能性を合理的に把握することが重要です。
建築できる土地と建築できない土地では評価が異なる
ここで、仮定の事例を考えてみましょう。
市街化調整区域に、面積500㎡の雑種地が2つあるとします。
一方の土地は、条例指定区域に所在しており、所定の条件を満たせば住宅を建築できます。
もう一方の土地は、条例指定区域に該当せず、宅地性や集落性の条件も満たしていないため、住宅の建築が難しい土地です。
両者は同じ市街化調整区域に所在し、地目も雑種地です。
しかし、土地の利用可能性には大きな違いがあります。
住宅を建築できる土地であれば、宅地としての利用を期待できます。
一方、建物を建築できない土地では、利用方法が限定される可能性があります。
このような違いは、土地の市場価値にも影響すると考えられます。
したがって、相続税評価では、単に市街化調整区域の雑種地という理由だけで同じ評価方法を適用するのではなく、建築の可否を個別に確認する必要があります。
なお、具体的なしんしゃく割合については、土地の状況や評価方法などに応じた検討が必要です。
今回の研修資料で中心的に説明されているのは、その前提となる建築可能性の調査方法です。
役所調査の結果を評価資料として残す
市街化調整区域の雑種地を評価する場合には、役所調査の結果を記録しておくことが重要です。
例えば、条例指定区域に該当しないことを確認した場合には、その根拠となる資料を保存します。
宅地性について調査した場合には、過去の登記地目や固定資産税の課税状況などを整理します。
集落性について調査した場合には、自治体の定める基準や周辺の建物の状況を確認します。
また、開発許可基準について役所に問い合わせた場合には、説明を受けた内容を記録します。
これらの資料は、評価上のしんしゃくを検討した理由を説明するために役立ちます。
特に、建築できないことを理由に評価額を減額する場合には、その判断を裏付ける資料が重要です。
単に市街化調整区域だから建築できないと判断するのではなく、具体的な許可基準に照らして確認する必要があります。
結論
市街化調整区域に所在する雑種地の相続税評価では、建物を建築できる土地なのかどうかが重要な判断材料になります。
市街化調整区域では、原則として開発や建築が制限されています。
しかし、一定の条件を満たせば、建物の建築が認められる場合があります。
今回の研修資料では、建築の可否を確認するための3つのキーワードとして、条例指定区域、宅地性、集落性が示されています。
まず、都市計画法第34条第11号に基づく条例指定区域に該当するかどうかを確認します。
該当しない場合には、過去から宅地として利用されてきたかという宅地性と、一定規模の集落内に所在しているかという集落性を確認します。
さらに、自治体が定める開発許可基準や提案基準などを調べる必要があります。
重要なのは、市街化調整区域にあるという理由だけで、建築できない土地と判断しないことです。
また、建築できない可能性があるという理由だけで、機械的に評価額を減額することも適切ではありません。
土地の利用可能性を具体的に調査し、その結果を評価に反映させる必要があります。
市街化調整区域の雑種地評価では、土地の現況だけでなく、都市計画法上の規制と自治体の許可基準を確認することが欠かせません。
適正な相続税評価を行うためには、条例指定区域、宅地性、集落性という3つの視点から役所調査を進めることが重要なのです。
参考
東京税理士会 2026年8月13日 令和8年度第16回会員研修会資料 相続・贈与の土地評価実務Q&A
国税庁 財産評価基本通達 雑種地の評価
都市計画法 第34条第11号
国土交通省 都市計画制度の概要