高齢になっても自宅で暮らし続けたいと考える人は多いでしょう。しかし、持ち家ではなく賃貸住宅で暮らそうとすると、思うように住宅を借りられないことがあります。
一方、大家にも事情があります。
家賃をきちんと払ってもらえるのか。一人暮らしで体調を崩したときに誰が対応するのか。孤独死が起きて発見が遅れたらどうするのか。
こうした貸す側と借りる側の不安をつなぐ役割を担うのが「居住支援法人」です。
単に住宅を紹介するだけではなく、入居前から入居後まで生活を支えることが大きな特徴です。
居住支援法人とは何か
居住支援法人とは、住宅を確保することが難しい人に対して、賃貸住宅への入居や入居後の生活を支援する法人です。
都道府県が指定します。
不動産会社のように物件を紹介するだけではありません。
例えば住宅についての相談を受けたり、入居できる物件を探したり、家賃債務保証に関する支援を行ったりします。
さらに入居後の見守りや生活相談などを行う場合もあります。
つまり「住宅を見つけて終わり」ではなく、その人が住宅で暮らし続けられるように支援する役割があります。
住宅確保要配慮者とは何か
居住支援法人が支援する重要な対象が「住宅確保要配慮者」です。
名前は難しく見えますが、意味は比較的単純です。
賃貸住宅を自分だけで確保することが難しく、住まいの確保について特に配慮が必要な人を指します。
例えば高齢者、障害者、低所得者、子育て世帯などが該当します。
なぜこうした人たちは住宅を借りにくいのでしょうか。
理由はそれぞれ異なります。
低所得者であれば家賃の支払い能力を心配されることがあります。
障害者の場合には、生活上の支援について大家が不安を感じる場合があります。
一人暮らしの高齢者であれば、孤独死や緊急時への対応が心配されます。
住宅そのものが不足しているとは限らなくても、「貸してもらえる住宅」が見つからないという問題があるのです。
高齢者と大家の間に情報の差がある
高齢者本人からすれば、毎月年金を受け取り、十分な預貯金があり、健康にも問題がなければ、なぜ住宅を借りられないのかと思うかもしれません。
しかし大家は、その高齢者の日常生活を詳しく知りません。
緊急時に連絡できる家族がいるのか、家賃を継続して支払えるのか、何かあった場合に誰が対応するのかも分からないことがあります。
この情報の差が、大家の不安につながります。
大家にとって最も安全なのは、リスクが分からない入居希望者には貸さないという判断になりかねません。
そこで第三者である居住支援法人が間に入る意味が出てきます。
入居する前から支援する
居住支援法人の役割は、入居前から始まります。
住宅を探している高齢者などから相談を受け、本人の希望や生活状況に合った住宅を探すことを支援します。
高齢者本人が不動産会社を何軒も回り、そのたびに事情を説明する負担を軽くできる可能性があります。
また大家や不動産会社に対して、入居後にどのような支援を受けられるのか説明することも重要です。
例えば定期的な見守りがあることが分かれば、大家は孤独死への不安を小さくできます。
家賃債務保証を利用できれば、家賃滞納への不安を軽減できます。
借りる側だけでは説明しにくい安心材料を、支援する側が示すことができるわけです。
入居した後も支援が続く
住宅問題で見落とされやすいのが、入居できれば問題が解決するわけではないことです。
特に一人暮らしの高齢者では、入居後に健康状態や生活状況が変化することがあります。
例えば病気になり、これまでできていた家事が難しくなるかもしれません。
認知機能が低下する可能性もあります。
家賃や公共料金の支払いなど、生活管理が難しくなるケースも考えられます。
こうした変化を放置すれば、本人だけでなく大家や近隣住民との問題につながる可能性があります。
そこで見守りや生活相談などを通じて、問題が深刻になる前に必要な支援へつなぐことが重要になります。
居住サポート住宅でも重要な役割を担う
2025年10月には、居住サポート住宅の認定制度が始まりました。
高齢者や障害者などが安心して賃貸住宅で暮らせるように、住宅と居住支援を組み合わせる仕組みです。
ここでも居住支援法人などが重要な役割を担います。
例えば入居者について1日1回以上の安否確認を行う仕組みがあります。
もちろん、毎日すべての住宅を人が訪問することには限界があります。
そこで電球、人感センサー、ドアの開閉、家電の利用状況などを使ったICTによる見守りを活用できます。
通常はICTで生活状況を確認し、異変があったときに人が対応する。
こうした仕組みが広がれば、少ない人員でも多くの高齢者を支えやすくなります。
大家にとっても支援者になる
居住支援法人という名前からは、高齢者など入居者だけを支援する組織のように感じるかもしれません。
しかし実際には、大家を支える役割も重要です。
高齢者を受け入れたいと思っていても、何かあった場合の対応に自信がない大家はいるでしょう。
大家は福祉や介護の専門家ではありません。
入居者の健康状態が悪化したときに、どこへ相談すればよいのか分からないこともあります。
そこで居住支援法人などが間に入り、必要に応じて福祉サービスなどにつなぎます。
大家が高齢者の生活をすべて背負うのではなく、専門機関と役割を分担することができます。
結果として、高齢者への賃貸を受け入れやすくする効果が期待できます。
空き家があっても高齢者が住めない矛盾
日本では空き家の増加が大きな問題になっています。
一方で、高齢者など住宅を借りることが難しい人もいます。
住宅が余っているのに、住宅を必要としている人が借りられない。
一見すると矛盾しています。
問題は住宅の数だけではありません。
貸す側が安心して貸せる条件と、借りる側が安心して暮らせる条件が一致していないことにあります。
その間をつなぐ仕組みが必要です。
居住支援法人は、住宅を新しく建てるのではなく、すでに存在する住宅を必要な人へつなぐ役割も担っています。
単身高齢者が増えるほど重要になる
2020年には65歳以上の一人暮らしが約672万人に達し、2040年には1000万人を超えると推計されています。
これだけ単身高齢者が増えれば、家族が保証人になり、家族が緊急時に駆け付け、家族が日常生活を見守るという仕組みだけでは対応できません。
家族の代わりを一つの組織がすべて担う必要もありません。
住宅は大家、家賃保証は保証会社、日常の確認はICT、生活支援は居住支援法人、必要になれば医療や介護につなぐ。
それぞれが役割を分担することで、一人暮らしでも生活を続けられる仕組みをつくることができます。
これからの高齢社会では、家族そのものを代替するのではなく、これまで家族が担ってきた機能を社会全体で分担する発想が重要になります。
結論
居住支援法人とは、高齢者や障害者、低所得者など住宅を確保することが難しい人と、住宅を貸す大家をつなぐ存在です。
重要なのは、単に住宅を紹介するだけではないことです。
入居前の相談から住宅探しを支え、入居後には見守りや生活相談などを通じて、住み続けることまで支援します。
同時に、孤独死や家賃滞納、緊急時への対応を心配する大家側の不安を減らす役割もあります。
単身高齢者が増える社会では、「家族がいること」を前提にした住宅制度だけでは支えきれなくなります。
住まいを貸す人、生活を支える人、見守る人をつなぎ、高齢者が一人でも暮らし続けられる環境をつくること。
居住支援法人は、住宅政策と福祉政策をつなぐ存在として、これからますます重要になっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 単身高齢者見守るICT 手ごろな機器でサービス続々
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 高齢者見守りサービスとは