定款自治とは何か 法律ですべてを決めず会社自身にルール作りを認める仕組み編

経営

株式会社には会社法という共通のルールがあります。

それなら会社の運営方法をすべて会社法で決めてしまえばよいようにも思えます。

しかし、株式会社といっても規模や株主構成、事業内容は大きく異なります。

家族だけで株式を保有する小さな会社もあれば、国内外に多数の株主を持つ巨大な上場会社もあります。

すべての会社にまったく同じ細かなルールを適用すると、それぞれの会社に合った運営が難しくなります。

そこで会社法では、法律で基本的な枠組みを定めながら、一定の範囲については各会社が定款によって自らルールを決めることを認めています。

こうした考え方を定款自治と呼びます。

定款自治を理解すると、なぜ会社ごとに株式や機関設計などのルールが違うのか、そしてなぜ定款変更を利用した株主提案が会社経営に大きな影響を与えるのかが分かります。

定款自治とは何か

定款自治とは、会社法が認める範囲で、会社が定款によって自らの組織や運営に関するルールを決められるという考え方です。

会社法は株式会社について多くのルールを定めています。

しかし、すべてを法律で固定しているわけではありません。

法律の中には、

定款で別段の定めをすることができる

といった形で、会社独自のルールを認めているものがあります。

その範囲では、各会社が自社の事情に合わせて制度を設計できます。

会社法が大きな枠組みを作り、その中で会社自身が細かなルールを選択する仕組みだと考えると分かりやすいでしょう。

なぜ法律ですべて決めないのか

株式会社には非常に多くの種類があります。

株主が数人しかいない会社があります。

株主が数十万人いる上場会社もあります。

創業者一族が経営する会社もあれば、経営者と株主が完全に分離している会社もあります。

こうした会社すべてに同じ運営方法を強制すると不都合が生じます。

たとえば少人数の株主しかいない会社と巨大上場会社では、株主間の関係や経営監督の方法が違います。

そこで会社法は一定の選択肢を用意し、会社が自社に合った仕組みを定款で選べるようにしています。

これによって株式会社という同じ形態の中でも、さまざまな会社運営が可能になります。

会社法と定款はどのような関係なのか

定款自治が認められているからといって、会社が法律を無視して自由にルールを作れるわけではありません。

基本になるのは会社法です。

会社法には、定款によって変更することのできないルールがあります。

こうしたルールに反する内容を定款に書いたからといって、そのまま有効になるわけではありません。

一方、会社法が定款による変更や選択を認めている事項については、会社独自のルールを設定できます。

つまり、

まず会社法がある

その中で認められた範囲について定款で会社独自のルールを作る

という順番です。

定款自治は法律から独立した自由ではなく、会社法が認めた範囲内での自治なのです。

定款によって会社ごとの違いが生まれる

定款自治があるため、同じ株式会社でも会社ごとにルールが異なることがあります。

たとえば株式の譲渡について考えます。

上場会社では、株式市場で株式を自由に売買できることが基本です。

一方、非上場会社では、知らない第三者に株式を取得されたくない場合があります。

そこで株式を譲渡する際に会社の承認を必要とする仕組みを定款に設けることがあります。

これが株式の譲渡制限です。

会社の株主構成や経営方針に合わせてルールを設計できる一例です。

機関設計にも会社ごとの違いがある

株式会社には取締役などの機関があります。

しかし、すべての株式会社がまったく同じ機関構成になっているわけではありません。

会社法が認める範囲で、会社の規模や公開性などに応じて異なる機関設計が可能です。

取締役会を置く会社があります。

監査役を置く会社があります。

監査等委員会設置会社もあります。

指名委員会等設置会社もあります。

会社法による制約はありますが、それぞれの会社が自社の経営や監督に適した仕組みを選択できます。

会社法が一つの会社運営モデルだけを全企業へ強制していないことが分かります。

定款自治には株主の意思が反映される

定款は経営陣だけが自由に作り変えられる社内規程ではありません。

会社設立後に定款を変更する場合には、原則として株主総会の特別決議が必要になります。

つまり定款自治とは、

経営者が自由に会社のルールを作ること

ではありません。

会社の所有者である株主の意思を通じて、会社独自の基本ルールを作る仕組みでもあります。

株主が定款変更に賛成すれば会社の基本ルールを変更できます。

必要な賛成を得られなければ変更できません。

会社独自のルール作りと株主による意思決定が組み合わされているのです。

なぜ普通決議ではなく特別決議なのか

定款自治を広く認めても、会社の基本ルールが頻繁に変われば会社運営が不安定になります。

そこで定款変更には原則として株主総会の特別決議が必要とされています。

通常の普通決議より高い賛成割合を求めます。

これは少数株主を保護する意味もあります。

単純な過半数を持つ株主だけで、会社の基本ルールを次々と変更できるようにすると、他の株主の権利に大きな影響を与える可能性があります。

定款自治を認めながら、変更には高いハードルを設ける。

この組み合わせによって会社の自由とルールの安定性を両立させています。

定款自治と株主提案はどう関係するのか

定款自治は株主提案権とも深く関係します。

一定の要件を満たした株主は、定款変更について株主提案を行うことができます。

つまり会社側が定款変更を提案するだけではありません。

株主側から、

このような会社のルールに変えるべきだ

と提案することもできます。

そして株主総会で必要な賛成を得れば、株主側から提案された内容が会社の基本ルールになる可能性があります。

定款自治は、会社経営陣に自由を与えるだけの制度ではなく、株主が会社の基本ルール形成に関与する仕組みでもあるのです。

業務執行事項まで定款に書けるのか

ここから今回の会社法改正の論点につながります。

本来、事業計画や事業撤退などは取締役や取締役会が判断する業務執行事項です。

ところが、こうした経営方針に関する内容を定款に規定するという形で株主提案が行われる場合があります。

形式的には、

この事業から撤退することを株主総会で決める

という提案ではありません。

会社の基本ルールである定款に、一定の経営方針を盛り込むことを求めます。

定款変更は株主総会の権限です。

そのため、実質的には業務執行に深く関係する事項が、定款自治と株主提案を通じて株主総会へ持ち込まれることがあります。

定款自治を広く認めるメリット

定款自治を広く認めると、それぞれの会社に合った柔軟な制度設計ができます。

法律が想定していなかった新しい経営課題についても、会社独自のルールを作れる場合があります。

また株主から見れば、経営陣だけに会社運営を任せるのではなく、定款を通じて会社の基本方針に関与できる可能性があります。

会社ごとに事情が違う以上、一律の法律だけでなく、会社自身によるルール作りを認めることには合理性があります。

これが定款自治の大きなメリットです。

定款自治を広げすぎる問題もある

一方、何でも定款に書けばよいというものでもありません。

特に具体的な経営判断を定款に細かく書き込むと問題が生じます。

経営環境は常に変化します。

市場が変わります。

技術が変わります。

競争相手が変わります。

為替や金利も変化します。

通常の経営方針なら取締役会が状況に応じて変更できます。

しかし定款に書かれた事項を変更するには、原則として株主総会の特別決議が必要です。

定款自治を使って経営事項を細かく固定すると、経営の機動性が低下する可能性があります。

株主による監督とのバランスが難しい

会社側から見れば、日々の経営は専門的な知識と最新の情報を持つ経営陣に任せるべきだという考えがあります。

一方、株主側から見れば、経営陣の判断が企業価値を損なっている場合には、株主が会社の基本方針へ関与する必要があるという考えがあります。

たとえば長年低収益事業を抱えている会社があります。

株主が何度改善を求めても経営陣が対応しないとします。

その場合、定款変更という形で株主総会に問題を提起することには一定の意味があります。

しかし個々の事業判断まで定款で固定すれば、経営陣が迅速に対応できなくなる可能性があります。

どこまでを会社の基本ルールとし、どこからを経営者の裁量に任せるのかが重要になります。

資本政策や気候変動では境界が曖昧になる

この線引きが特に難しいのが資本政策や気候変動などです。

会社が現金をどれだけ保有するのか。

どの程度株主還元するのか。

どの事業へ投資するのか。

これらは経営判断です。

一方、株主にとって企業価値に直結する問題でもあります。

気候変動についても同じです。

脱炭素に向けてどの事業へ投資するのかは経営判断です。

しかし気候変動が企業の長期的な価値に大きな影響を与えるなら、株主にとって重要な監督事項でもあります。

単純に業務執行と株主の権限を二つに分けることが難しいのです。

今回の会社法改正で問われる定款自治

今回の記事では、業務執行事項に関する株主提案を制限するかどうかが議論されていることが紹介されています。

経済界には、業務執行事項を定款へ盛り込む株主提案によって、経営の柔軟性が失われることへの懸念があります。

一方、制限を強くすれば、株主が重要な経営課題について問題提起する機会が減る可能性があります。

ここでは株主提案権だけでなく、定款自治をどこまで認めるのかという問題も関係しています。

会社自身がルールを作る自由。

株主がそのルール作りに参加する権利。

取締役が機動的に経営する必要性。

この三つをどう両立させるのかが問われています。

結論

定款自治とは、会社法が認める範囲で、株式会社が定款によって自らの組織や運営に関するルールを決められる仕組みです。

すべての株式会社は規模や株主構成、事業内容が同じではありません。

そのため会社法ですべてを一律に決めるのではなく、それぞれの会社が自社に合った仕組みを選択できるようにしています。

ただし定款自治は、会社が法律を無視して自由にルールを作れるという意味ではありません。

会社法が認めた範囲で利用する必要があります。

また定款変更には原則として株主総会の特別決議が必要です。

定款自治は経営陣だけの自由ではなく、株主の意思を通じて会社独自の基本ルールを形成する仕組みでもあります。

一方、この仕組みを利用して業務執行に関する事項を定款へ盛り込めば、本来は取締役会が判断する経営事項を株主総会が強く拘束する可能性があります。

現在の会社法改正で業務執行事項の株主提案が議論されている背景には、この問題があります。

定款自治とは単に会社ごとに違うルールを認める制度ではありません。

法律による規律、株主による意思決定、経営者による機動的な経営をどのように組み合わせるのかという、株式会社の制度設計を支える重要な考え方なのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月31日 朝刊 株主提案、要件見直しで火花

日本経済新聞 2026年8月31日 朝刊 業務執行の提案巡り議論

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