地方から預金が流出する動きが注目されています。
人口減少だけでなく、地方に住む親から都市部に住む子どもへの相続などを通じて、地域金融機関から預金が流出する可能性があるからです。
預金が減ると困るのは銀行だけなのでしょうか。
実は地方銀行や信用金庫の資金基盤が弱くなれば、その地域で事業を営む中小企業にも影響が及ぶ可能性があります。
地域金融機関の預金と地元企業への融資には、どのような関係があるのでしょうか。
銀行は集めた預金などを企業へ貸し出している
銀行の基本的な役割は、資金に余裕がある人からお金を集め、資金を必要としている人や企業へ供給することです。
個人や企業が銀行へ預けた預金は、銀行にとって重要な資金調達手段になります。
銀行はその資金などを使って企業融資や住宅ローンを行います。
地方銀行や信用金庫の場合、地域住民や地元企業から集めた預金を、地域の企業や個人へ貸し出すことが重要な役割です。
地域で集めたお金が地域の企業活動へ回ることで、地域内の資金循環が成り立っています。
地方の中小企業は地域金融機関との関係が重要になる
大企業と中小企業では資金調達の方法が異なります。
大企業であれば銀行融資だけでなく、株式や社債などを利用して資金を調達することができます。
複数の大手銀行から巨額の融資を受けることもできます。
一方、中小企業では株式市場や社債市場から直接資金を調達することは容易ではありません。
そのため地方銀行や信用金庫などからの借り入れが重要になります。
地域金融機関は企業の決算書だけを見るのではなく、経営者や事業内容、取引先、地域での評判などを長期間にわたって把握していることがあります。
この情報の蓄積が中小企業融資では大きな意味を持ちます。
決算書だけでは分からない企業にも融資できる
中小企業の経営を数字だけで判断することは簡単ではありません。
例えば一時的に利益が減少していても、新しい設備を導入することで数年後に売り上げが増える可能性があります。
逆に現在の利益が大きくても、主要取引先を失えば業績が急速に悪化する可能性があります。
地域金融機関は経営者との日常的な取引を通じて、こうした数字に表れにくい情報を蓄積しています。
そのため単純な財務数値だけでは融資判断が難しい企業でも、事業の将来性を考慮して資金を供給できる場合があります。
地域金融機関が「地域企業をよく知っている」ということ自体が重要な金融機能なのです。
預金が減ればすぐに融資できなくなるわけではない
ここで注意したいのは、預金が減ったからといって、その金額と同じだけ直ちに融資を減らさなければならないわけではないことです。
銀行には預金以外にも資金を調達する方法があります。
市場から資金を調達したり、他の金融機関から資金を調達したりすることもできます。
また、銀行は預金のすべてを貸し出しているわけではありません。
有価証券などでも資金を運用しています。
したがって、預金が少し減少しただけで地元企業への融資が直ちに止まると考えるのは適切ではありません。
重要なのは、預金流出が長期間続いた場合です。
預貸率を見ると地方銀行の状況が分かる
銀行の預金と貸出金の関係を見る代表的な指標が預貸率です。
2026年8月時点では、都市銀行の預貸率が57.3%なのに対し、第一地方銀行は75.8%、第二地方銀行は77.3%でした。
地方銀行の方が、預金に対して貸出金の割合が高くなっています。
例えば預金1兆円、貸出金7,500億円なら預貸率は75%です。
この銀行から預金が1,000億円流出し、貸出金が7,500億円のままだとします。
預金は9,000億円になります。
この場合、預貸率は約83.3%まで上昇します。
融資を増やしていなくても、預金が減っただけで預貸率が上昇するのです。
預金流出が続けば資金調達方法を変える必要がある
預金が継続的に減少すると、銀行は別の方法で資金を確保する必要が出てきます。
しかし預金と市場からの資金調達では性質が異なります。
地域住民や企業から集めた預金は、銀行にとって比較的安定した資金源になりやすい特徴があります。
一方、市場から資金を調達する場合には、その時々の市場金利や金融市場の状況に影響されます。
調達コストが上昇すれば、融資の採算にも影響します。
その結果、銀行が融資先や貸出条件をこれまで以上に慎重に選ぶ可能性があります。
影響を受けやすいのは資金調達手段の少ない企業
地域金融機関の融資余力が低下した場合、特に影響を受けやすいのは資金調達手段が限られている企業です。
大企業であればメガバンクから借りたり、社債を発行したりすることができます。
しかし小規模企業ではそうした選択肢が限られます。
例えば工場の機械を更新したい企業が3,000万円を必要としていても、地元銀行から融資を受けられなければ設備投資そのものを延期することになるかもしれません。
新店舗の開設や新規事業、事業承継などでも同じ問題が起こります。
金融機関の資金供給力は地域企業の投資能力にも関係しているのです。
事業承継にも銀行融資が必要になる
地方では経営者の高齢化も進んでいます。
後継者が会社を引き継ぐ際には、株式の取得資金や相続税の納税資金、設備更新資金などが必要になる場合があります。
第三者へのM&Aによって事業を引き継ぐ場合にも資金調達が必要です。
地域金融機関は単に運転資金を貸すだけではありません。
事業承継や企業再編を金融面から支える役割も持っています。
地域金融機関の資金基盤が弱くなれば、こうした地域企業の世代交代にも影響する可能性があります。
創業資金にも地域金融の役割がある
地域経済を維持するには、既存企業を守るだけでは十分ではありません。
新しい企業や事業が生まれる必要があります。
しかし創業直後の企業には長期間の決算実績がありません。
担保となる資産が十分ではない場合もあります。
このような企業への融資では、事業計画や経営者の経験、地域での需要などを細かく見る必要があります。
地域事情を把握している地方銀行や信用金庫だからこそ対応できるケースもあります。
地域金融機関の融資能力は、新しい企業を生み出す力とも関係しています。
地方から出た預金が同じ地域に戻るとは限らない
地方から都市部へ預金が移ったとしても、日本全体から見ればお金が消えるわけではありません。
都市銀行やネット銀行などに預け替えられた資金は、別の企業や個人への融資などに利用されます。
問題は、その資金が元の地域へ戻るとは限らないことです。
大手銀行であれば、集めた資金を大企業のM&AやAI、半導体、データセンターなどの大規模投資へ振り向けることもできます。
地方から流出した預金が、都市部や大企業の資金需要へ向かう可能性があるわけです。
日本全体では資金が存在していても、地域ごとの資金循環には偏りが生じる可能性があります。
地方銀行には預金を地域に残す戦略が必要になる
そのため地方銀行にとっては、融資先を開拓するだけでなく、預金を維持することも重要になります。
特に相続による預金流出への対応が課題です。
地方に住む親だけを顧客として見ていると、相続後に預金が都市部の子どもへ移る可能性があります。
相続が発生する前から子や孫との接点をつくり、資産承継や資産運用などを支援する必要があります。
地方銀行の競争は、企業への融資競争だけではありません。
地域の金融資産をどれだけ地域内に残せるかという競争でもあるのです。
結論
地方から預金が減少したからといって、地元企業への融資が直ちに減るわけではありません。
銀行には預金以外の資金調達方法があり、保有する資産を活用することもできます。
しかし人口減少や相続などによる預金流出が長期間続けば、地域金融機関の安定した資金基盤が弱くなる可能性があります。
特に地方銀行の預貸率は都市銀行より高く、2026年8月時点で第一地方銀行は75.8%、第二地方銀行は77.3%となっています。
地域金融機関の資金供給力が低下した場合、影響を受けやすいのは株式や社債など別の資金調達手段を利用しにくい中小企業です。
設備投資、創業、事業承継などにも銀行融資は重要な役割を果たします。
地方の預金問題は銀行だけの問題ではありません。
地域で集めた資金を地域企業へ回すという資金循環をどのように維持するのかという、地域経済全体の問題なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月23日朝刊 大手行、国内融資に回帰