国税庁が2027年度の予算概算要求と定員・機構要求を公表しました。
予算要求額は6570億4700万円です。2026年度当初予算と比べて180億4300万円、率にして2.8パーセント増えています。
しかし、今回の要求で注目したいのは予算額そのものだけではありません。
国税庁がどの分野に人員と組織を重点配置しようとしているのかを見ると、これから税務行政が何を重視していくのかが見えてきます。
特に重要なのが、複雑化する租税回避スキームへの対応です。
国税庁の予算要求は6570億円
2027年度の国税庁の予算概算要求額は6570億4700万円となりました。
前年度当初予算より180億4300万円増えています。
国税庁の予算の大部分を占めるのは人件費です。
人件費は5571億円で、予算要求全体のおよそ85パーセントを占めます。
一方、一般経費は999億円です。
興味深いのは、人件費が前年度より14億円減少する一方、一般経費は195億円増加していることです。
一般経費の増加率は24.2パーセントに達します。
税務行政を支える設備やシステム、職場環境、納税者サービスなどへの支出が拡大していることが分かります。
納税者の利便性向上にも予算を投入
納税者にとって身近なのが納税者利便向上経費です。
2027年度は36億2000万円が要求されました。
前年度当初予算より8億3700万円増え、増加率は30.1パーセントです。
このうち22億円が電話相談センターの運営経費です。
さらに、キャッシュレス納付など納付手段の多様化に9億円が要求されています。
税務行政というと税務調査や徴収のイメージが強いかもしれません。
しかし実際には、相談体制やキャッシュレス納付など、納税者が手続きをしやすくするための予算も重要になっています。
税務行政のデジタル化と納税者サービスの向上は、今後も大きなテーマになりそうです。
補正予算から当初予算へ移す動き
今回の概算要求には、もう一つ特徴があります。
恒常的に必要となる施策について、補正予算ではなく当初予算に計上するという考え方です。
これまで補正予算で対応していた職場環境整備や安全対策に関する経費が当初予算に盛り込まれました。
職場環境整備・安全対策経費は180億6600万円となり、前年度当初予算の約2.6倍です。
酒類業振興事業経費も53億2200万円となり、約2.4倍に増えています。
酒類業振興事業経費については、成長投資などを重点的に推進するための強く豊かな日本投資枠が活用されています。
単純に予算が急増したと見るのではなく、これまで補正予算で措置していた経費を当初予算へ移した影響も考える必要があります。
730人の増員を要求
人員面でも大きな要求が行われています。
国税庁は2027年度に730人の増員を要求しました。
その中で特に目立つのが、消費税不正還付への対応です。
この分野だけで185人の増員を要求しています。
さらに、租税回避スキームへの対応として57人の増員を要求しました。
税務行政が従来以上に不正還付や複雑な租税回避への対応を重視していることが、人員配置からも分かります。
ただし、730人がそのまま純増するわけではありません。
定員合理化目標数が552人あるため、差し引きした純増要求は178人です。
増員だけを見るのではなく、合理化による削減と合わせて見ることが重要です。
消費税率引下げにも74人を配置
さらに注目したいのが、飲食料品に係る消費税率引下げへの対応です。
国税庁は、この制度変更への対応として74人の時限定員を要求しています。
期間は2年間です。
個別相談窓口の設置や制度周知のための説明会への講師派遣、さらに増加が予想される還付申告などへの対応を想定しています。
税率を変更すると、単にレジの税率を変えれば終わるわけではありません。
事業者への説明、申告、還付、相談など、税務行政側にも大きな事務負担が発生します。
税制変更には行政コストも伴うという点は見落としやすいところです。
租税回避対策企画官とは何か
今回の機構要求で特に注目されるのが、租税回避対策企画官の新設です。
正式名称はまだ仮称ですが、国税庁課税部課税総括課への設置が要求されています。
さらに、この企画官を支える課長補佐1人の増設も要求されました。
背景には租税回避スキームの複雑化があります。
特に問題になっているのが、プロモーターなどが租税回避の仕組みを商品として設計し、それを複数の納税者に販売するケースです。
個々の納税者が独自に節税方法を考えるだけではなく、租税回避の仕組みそのものが商品化されるようになると、一つのスキームが短期間で多数の納税者に広がる可能性があります。
税務当局にとっては、個々の申告を調査するだけでは対応しにくくなります。
そこで、スキームそのものを把握し、情報を集約して対応する司令塔が必要になるわけです。
税務調査からスキーム分析へ
租税回避対策企画官の新設要求は、税務行政の変化を象徴しているとも考えられます。
従来の税務調査では、納税者の申告内容を確認し、申告漏れや所得隠しなどを発見することが重要でした。
もちろん、この役割は今後も変わりません。
一方で、複雑な金融取引や法人スキーム、国境をまたぐ取引などが増えれば、個々の申告だけを見ていても全体像を把握できない場合があります。
そこで重要になるのが情報収集と分析です。
どのような租税回避スキームが広がっているのか。
誰が設計しているのか。
どのような納税者に利用されているのか。
現行税制のどこに制度上の隙間があるのか。
こうした情報を横断的に分析する機能が重要になります。
税務行政と税制改正がつながる
さらに重要なのは、国税庁だけで対応を完結させるとは限らないことです。
必要に応じて財務省主税局とも連携し、税制改正による規制強化につなげることが想定されています。
ここには税務行政と税制改正の関係がよく表れています。
税務調査の現場で新しい租税回避スキームが発見される。
国税庁がその実態を分析する。
現行法では十分に対応できないことが分かる。
その情報が税制を企画する部門へ共有される。
そして必要であれば税制改正が行われる。
こうした流れです。
租税回避対策企画官は、単なる税務調査の担当ポストではなく、税務執行から得られた情報を政策につなげる役割を担う可能性があります。
税務大学校の体制も見直す
今回の機構要求では税務大学校の体制強化も盛り込まれています。
和光校舎の大規模修繕と東京研修所の建て替えに対応するため、会計専門官の新設が要求されました。
さらに総務課課長補佐を企画調整官に、教務課課長補佐を教務専門官とする要求も行われています。
税制や取引が複雑化すれば、それを調査する職員にも高度な専門知識が求められます。
組織を増やすだけではなく、人材育成の仕組みを強化することも税務行政の重要な課題になります。
結論
2027年度の国税庁の予算概算要求額は6570億4700万円となり、前年度当初予算から180億4300万円増加しました。
しかし、本当に注目したいのは金額だけではありません。
消費税不正還付への対応に185人、租税回避スキームへの対応に57人の増員を要求し、さらに租税回避対策企画官の新設を求めています。
ここから見えてくるのは、税務行政が個々の申告を調査するだけではなく、複雑な取引や租税回避スキームそのものを分析する方向へ進んでいることです。
そして、現行制度では対応できない問題が見つかれば、財務省主税局と連携して税制改正につなげることも想定されています。
税制が複雑になるほど、それを執行する国税庁の組織も変化します。
毎年公表される予算や定員の要求を見ることは、これから税務当局がどの分野を重点的に調査し、どのような問題に対応しようとしているのかを知る手掛かりにもなります。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 国税庁の9年度予算概算要求と定員・機構要求、租税回避対策企画官の新設を