国税庁が2027年度の機構要求で、租税回避対策企画官の新設を要求しています。
その背景にあるのが、複雑化、巧妙化する租税回避スキームへの対応です。
租税回避という言葉を聞くと、脱税と同じようなものだと感じる人もいるかもしれません。しかし、節税、租税回避、脱税は同じものではありません。
税務を考えるうえでは、この三つの違いを理解することが非常に重要です。
節税とは何か
節税とは、税法が予定している制度を利用して税負担を軽くすることです。
例えば、一定の要件を満たす所得控除や税額控除を利用することなどが代表的です。
法人であれば、税制上認められた特別償却や税額控除などを利用することもあります。
こうした制度は、一定の政策目的を実現するために法律によって設けられています。
要件を満たした納税者が制度を利用することは、税法そのものが予定している行為です。
つまり、節税では税法に用意された仕組みを正しく使って税負担を軽減します。
脱税とは何か
これに対して脱税は性質が大きく異なります。
例えば、本当は売上があるのに帳簿から除外する。
架空の経費を計上する。
取引に関する資料を隠す。
このように事実を偽ったり隠したりして、本来納めるべき税金を免れる行為が典型的です。
節税では実際に起きた取引を正しく申告したうえで税制上認められた制度を利用します。
脱税では、所得や取引などの事実を隠したり偽ったりする点が大きく違います。
租税回避とは何か
分かりにくいのが租税回避です。
租税回避では、取引自体が直ちに架空というわけではありません。
実際に契約を結び、資金を動かし、法人を設立するなど、一定の法律行為が行われることがあります。
しかし、その取引を行う大きな目的が税負担を軽減することにあり、通常なら選ばないような複雑な取引を組み合わせることがあります。
税法が想定していなかった取引形態を利用することで、結果として税負担を減らそうとするわけです。
ここが単純な脱税とは異なるところです。
節税と租税回避の境界は単純ではない
では、どこまでが節税で、どこからが租税回避なのでしょうか。
実際には、この境界を単純な一本の線で区切ることは容易ではありません。
税法に明確に定められた優遇制度を、その趣旨に沿って利用するのであれば節税と考えやすいでしょう。
一方、複数の取引を組み合わせ、税負担を減らすことを主な目的として、制度が本来想定していなかった結果を作り出す場合には、租税回避が問題になります。
さらに、税法には一定の条件のもとで取引や計算を税務上否認できる規定も存在します。
形式上の契約だけを見ればよいとは限らないということです。
スキームとは何か
租税回避スキームのスキームとは、簡単にいえば仕組みや一連の取引設計のことです。
一つの取引だけで税負担を減らすのではなく、法人、金融商品、資産移転、契約などを組み合わせて一つの仕組みを作る場合があります。
複数の取引が連続すると、一つ一つだけを見ても全体の目的が分かりにくくなることがあります。
そこで税務当局には、個々の取引だけではなく、一連の取引全体を見ることが求められます。
租税回避スキームが複雑化するほど、この分析は難しくなります。
なぜ国税庁は対策を強化するのか
国税庁は2027年度の定員要求で、租税回避スキームへの対応として57人の増員を要求しています。
さらに国税庁課税部課税総括課に、租税回避対策企画官を新設することも要求しました。
背景には、租税回避スキームが複雑化、巧妙化していることがあります。
特に注目されるのが、租税回避の仕組みそのものが商品化されるケースです。
専門家などがスキームを設計し、それを複数の納税者へ提供すれば、同じ仕組みが短期間で広がる可能性があります。
税務当局が個々の納税者だけを調査していては、全体像を把握するまでに時間がかかります。
そのため、スキームそのものについて情報を集め、分析する必要性が高まっています。
租税回避が広がると税制改正につながることもある
租税回避への対応方法は税務調査だけではありません。
税務当局が新しい取引を調査した結果、現行税制では十分に対応できないことが明らかになる場合があります。
その場合には、法律そのものを見直す必要が出てきます。
今回要求されている租税回避対策企画官についても、必要に応じて財務省主税局と連携し、税制改正による規制強化につなげることが想定されています。
つまり、税務調査の現場で得られた情報が将来の税制改正につながる可能性があります。
税法は条文だけを見ればよいとは限らない
租税回避の問題から分かるのは、税金を考えるときには条文だけでは判断しにくいケースがあるということです。
その取引にはどのような経済的な目的があるのか。
なぜその取引方法を選んだのか。
複数の取引を一体として見ると何が起きているのか。
税務ではこうした事実関係も重要になります。
税負担が少なくなるという結果だけを見て節税か租税回避かを判断することもできません。
取引の内容や適用される税法を個別に検討する必要があります。
結論
節税、租税回避、脱税は似た言葉に見えますが、その意味は異なります。
節税は税法が予定している制度などを利用して税負担を軽減することです。
脱税は所得や取引を隠したり偽ったりして、本来納めるべき税金を免れる行為です。
その間で難しい問題となるのが租税回避です。
取引自体は実際に行われていても、複雑な取引を組み合わせることで税法が本来想定していなかった税負担の軽減を実現しようとするケースがあります。
そして現在は、こうした仕組みが商品として複数の納税者へ広がることも問題になっています。
国税庁が租税回避対策企画官の新設を要求していることは、税務行政が個々の申告だけを見る時代から、取引の仕組みそのものを収集、分析する時代へ変わりつつあることを示しています。
次に重要になるのが、このような仕組みを設計して広めるプロモーターの存在です。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 国税庁の9年度予算概算要求と定員・機構要求、租税回避対策企画官の新設を