毎年夏になると、「最低賃金が○円引き上げられる」というニュースが報じられます。
しかし、その金額がどのような議論を経て決まるのかを知っている人は意外と多くありません。
最低賃金は政府が一方的に決めるわけでも、労働組合や企業だけが決めるわけでもありません。法律に基づいた審議会で、多くのデータをもとに議論を重ねて決定されています。
今回は、最低賃金が決まる仕組みについて見ていきます。
最低賃金法が定める3つの判断基準
最低賃金は最低賃金法に基づいて毎年見直されます。
法律では、改定にあたり次の3つの要素を総合的に考慮すると定めています。
1つ目は、労働者の生計費です。
物価が上昇し生活費が増えれば、最低限の生活を維持するためにも最低賃金の引き上げが求められます。
2つ目は、一般の賃金水準です。
春闘などで企業全体の賃金が上昇しているにもかかわらず、最低賃金だけ据え置かれれば、低所得層との格差が広がってしまいます。
3つ目は、企業の支払い能力です。
特に中小企業や小規模事業者では、人件費の増加が経営へ大きく影響します。そのため、企業が継続して雇用を維持できるかどうかも重要な判断材料になります。
この3つのバランスを取ることが、最低賃金制度の基本的な考え方です。
中央最低賃金審議会とは
最低賃金の目安を審議するのが、厚生労働省の中央最低賃金審議会です。
委員は大きく3つの立場から構成されています。
労働者側委員は、働く人の立場から生活の実態や賃上げの必要性を主張します。
使用者側委員は、企業経営の立場から、人件費負担や中小企業の経営環境について意見を述べます。
そして公益委員は、大学教授や有識者など中立的な立場から双方の意見を調整し、議論をまとめる役割を担います。
それぞれの立場が異なるため、毎年活発な議論が行われます。
「目安」は全国共通ではない
中央最低賃金審議会が決めるのは、あくまで「目安」です。
この段階では全国一律の最低賃金が決まるわけではありません。
その後、各都道府県の地方最低賃金審議会が地域の実情を踏まえて具体的な最低賃金額を決定します。
地域ごとの産業構造や物価、雇用状況などを考慮するため、最終的な最低賃金には都道府県ごとの差が生まれます。
そのため、ニュースで全国平均が発表された後も、各地域で審議が続くことになります。
毎年の議論は簡単ではない
近年は物価上昇が続いているため、労働者側は大幅な引き上げを求める傾向があります。
一方、中小企業では原材料価格やエネルギー価格の上昇、人手不足などが重なり、人件費の急増は経営を圧迫しかねません。
さらに政府が賃上げ目標を掲げる年には、政策との整合性も議論の対象になります。
こうした複数の要素を踏まえながら、毎年数十円という引き上げ額が決められているのです。
ニュースでは数字だけが注目されがちですが、その裏側では多くのデータと議論が積み重ねられています。
最低賃金は社会全体へのメッセージでもある
最低賃金は、最低限の賃金水準を定める制度であると同時に、日本の賃金政策の方向性を示す指標でもあります。
引き上げ幅が大きければ、政府が賃上げを重視しているというメッセージになります。
一方で、引き上げ幅が抑えられれば、中小企業の経営環境や景気への配慮が強く意識された結果とも考えられます。
毎年発表される数字には、日本経済の現状と政策判断が反映されているのです。
結論
最低賃金は、労働者の生活、一般の賃金水準、企業の支払い能力という3つの要素を基に、中央最低賃金審議会で議論された目安を出発点として決まります。
その後、各都道府県の審議会が地域の実情を反映し、最終的な最低賃金額を決定します。
最低賃金は単なる時給の数字ではなく、働く人の生活を守ることと企業の持続的な成長を両立させるための重要な制度です。決定の仕組みを知ることで、毎年の最低賃金改定のニュースをより深く理解できるようになるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月30日 朝刊
最賃1176円、現実路線の4.9%決着 政府目標後退、中小にも配慮