企業の決算では、棚卸資産は利益に大きな影響を与える重要な資産です。しかし、多くの企業では「棚卸は期末だけ実施すれば十分」「数量が合っていれば問題ない」と考えられがちです。
実際には、中間決算時の棚卸こそが、売れ残りや品質劣化、陳腐化した在庫を早期に発見し、適切な評価損や販売戦略につなげる絶好の機会となります。また、税務調査で指摘を受けないためにも、会計と税務の違いを理解した適切な運用が欠かせません。
中間決算棚卸は未来の経営判断につながる
棚卸は単なる在庫数量の確認作業ではありません。
現物を確認することで、
- 売れ残り商品の発見
- 品質劣化や破損品の確認
- 在庫管理上の問題点の把握
- 横領や在庫の不正流出防止
など、多くの経営上の課題を早期に発見できます。
また、中間決算で問題在庫を把握できれば、下期の販売促進や値下げ、処分計画などを早めに立てることができ、期末決算時の損失を最小限に抑えることにもつながります。
会計上の棚卸資産評価損とは
会計では、棚卸資産の収益性が低下した場合には、帳簿価額を切り下げることが求められます。
代表的なケースは次の3つです。
品質低下による評価損
水濡れ、破損、品質劣化など、物理的な損傷によって価値が低下した場合です。
陳腐化による評価損
新製品の発売や技術革新によって旧製品の価値が低下した場合です。
市場価格下落による評価損
需要減少などにより販売価格が下落し、収益性が低下した場合です。
会計では、このような収益性の低下が認められた場合には、原則として帳簿価額を時価まで切り下げることになります。
会計と税務では評価損の考え方が異なる
実務で最も注意したいのが、会計と税務の違いです。
会計では収益性の低下があれば評価損を計上しますが、税務ではそれだけでは損金算入は認められません。
税務上は、
- 災害による損傷
- 品質劣化
- 陳腐化
- 季節商品の価値喪失
など、一定の事実が客観的に認められることが必要になります。
「売れないと思う」「在庫が動かない」といった主観的な理由だけでは評価損は認められないため、証拠資料の整備が重要になります。
税務調査で重要になるエビデンス
税務調査では、評価損を計上した根拠が必ず確認されます。
そのため、
- 写真
- 在庫リスト
- 販売実績
- 市場価格資料
- 見積書
- 営業部門の販売見込み
- 評価会議の議事録
などを保存しておくことが重要です。
これらの資料があれば、評価損計上の合理性を客観的に説明しやすくなります。
実地棚卸では数量だけでなく状態も確認する
実地棚卸では数量確認だけで終わらせてはいけません。
現物を直接確認する機会だからこそ、
- 破損
- 型崩れ
- 長期間放置された在庫
- 品質変化
- 包装の劣化
なども確認する必要があります。
さらに営業部門と連携し、滞留在庫や季節商品の販売可能性を検討することで、より実態に即した評価が可能になります。
社内ルールを整備する重要性
棚卸資産評価損を適切に運用するためには、担当者の判断だけに任せるのではなく、社内ルールを整備することが重要です。
例えば、
- 実地棚卸の実施手順
- 不良在庫の報告方法
- 評価損計上基準
- 必要な証拠資料
- 評価会議の開催方法
などをあらかじめ規程化しておけば、担当者が変わっても一貫した運用が可能になります。
結果として、会計の適正性だけでなく、税務調査への対応力も高まります。
結論
中間決算棚卸は、単なる在庫確認ではなく、企業の収益力や内部統制を高める重要な経営プロセスです。
問題在庫を早期に発見し、会計上適切な評価を行うことはもちろん、税務上認められる評価損との違いを理解し、十分な証拠資料を整備しておくことが実務では不可欠です。
数量確認だけで終わらない「状態確認」と営業部門を巻き込んだ評価体制を構築することで、決算の精度向上と税務リスクの低減を同時に実現できるでしょう。
参考
企業実務 2026年8月号
「問題在庫を洗い出す!中間決算棚卸から始める『棚卸資産評価損』の実務」 大野貴史氏