北海道東川町になぜ小学校入学時に子どもが増えるのか 学校そのものが移住理由になる地域戦略編

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少子化が進む地域では、出生数が減れば、その数年後には小学校へ入学する子どもの数も減るのが一般的です。

ところが北海道東川町では、少し違った現象が起きています。

町内の出生数は年間40人程度ですが、小学校へ入学する時点になると、その学年の人数が5割程度増えます。

町内で生まれた子どもだけでは説明できません。

町外から子育て世帯が移住してくるためです。

その吸引力の一つになっているのが、東川小学校を中心とした教育環境です。

出生数より小学校入学時の人数が多くなる

自治体の子どもの数を考える場合、まず出生数が基本になります。

ある年に生まれた子どもたちが成長し、6歳前後になると小学校へ入学します。

転入や転出がほとんどなければ、出生数と小学校入学時の人数には一定の関係があります。

ところが東川町では、町内の出生数が年間40人程度であるにもかかわらず、小学校入学時にはその学年の人数が5割程度増えます。

単純化すれば、40人規模だった世代が入学時には60人規模になるイメージです。

これは出生数を増やすのとは別の方法で、地域の子どもを増やしていることを意味します。

東川小学校が移住の吸引力になっている

東川小学校は2014年に移転開校しました。

特徴的なのが、学校を単なる校舎として整備していないことです。

学校の敷地は約4ヘクタールあります。

さらに周辺には人工芝のサッカー場、天然芝の軟式野球場、体験水田、体験農園、果樹園などが町によって整備されています。

子どもたちは教室の中だけで学ぶわけではありません。

スポーツや農業、自然体験など、さまざまな活動ができる環境があります。

学校とその周辺全体を教育空間として考えていることが特徴です。

校舎そのものにも特徴がある

教育環境というと、授業内容や教員の配置に目が向きがちです。

しかし東川小学校では、建物そのものにも工夫があります。

総延長約270メートルの廊下があります。

壁を少なくしたオープンスペース型の学習環境も採用されています。

従来の学校は、教室ごとに壁で区切られ、学級単位で学ぶことが基本でした。

オープンスペース型では、学級や学年を越えた活動にも対応しやすくなります。

学校施設そのものが、どのような教育を行うのかという考え方と結び付いているわけです。

学校を見て住む場所を決める家庭が現れる

従来、住宅を選ぶ際の学校に対する考え方は、どちらかといえば受け身でした。

住みたい場所を決める。

住宅を探す。

その地域の学校へ子どもを通わせる。

こうした順番です。

教育移住では順番が変わります。

子どもに通わせたい学校を探す。

その学校の教育環境を確認する。

その学校へ通える地域で住宅を探す。

そして家族で移住します。

東川町で小学校入学時に子どもの人数が増える現象は、「学校があるから住む」という選択が生まれていることを示しています。

自然があるだけでは移住理由にならない

北海道には自然豊かな地域が数多くあります。

そのため、単に「自然が豊かです」と宣伝するだけでは、東川町を選ぶ理由にはなりません。

重要なのは、その自然を子どもの成長や教育とどのように結び付けるかです。

体験水田があれば、米作りを経験できます。

体験農園では、農作物が育つ過程を学べます。

果樹園も身近な学びの場所になります。

自然環境を眺める対象としてではなく、教育資源として使うわけです。

地方が持っている自然を教育という具体的な価値に変えることが、教育移住では重要になります。

リモートワークが居住地の制約を小さくする

教育環境が魅力的でも、親が働けなければ家族で移住することはできません。

東川町では、リモートワークによってこの問題を乗り越える家庭もあります。

関東の会社に勤めながら、子どものために東川町へ移住した人もいるとされています。

会社を辞めて北海道で新しい仕事を探すのではありません。

勤務先は関東の会社のままです。

働く場所だけを変えます。

この働き方が可能になれば、住む場所を勤務先の近くに限定する必要がなくなります。

「会社に通いやすい場所」ではなく「家族が暮らしたい場所」という基準で居住地を選びやすくなります。

旭川空港への近さも重要になる

完全なリモートワークができる人ばかりではありません。

オンラインで仕事ができても、必要に応じて東京などへ出張しなければならない場合があります。

そこで重要になるのが交通アクセスです。

東川町は旭川空港に近いという特徴があります。

普段は北海道で生活し、必要なときには飛行機で都市部へ移動する。

こうした働き方ができれば、都市部との距離という地方の弱点をある程度小さくできます。

教育移住では学校だけでなく、親が仕事を継続できる交通環境も重要です。

子育て世帯を呼び込むには家族全体を見る必要がある

子どもの教育だけを充実させても、移住が成立するとは限りません。

家族にはそれぞれ生活があります。

子どもには学校があります。

親には仕事があります。

家族には住宅が必要です。

買い物や医療などの日常生活もあります。

都市部へ移動する交通手段も必要です。

教育移住を成功させるには、学校だけを切り離して考えるのではなく、家族全体の生活が成立する環境を整える必要があります。

東川町の場合、特徴ある学校と自然環境に加え、リモートワークや空港へのアクセスなどが組み合わさることで、移住という選択肢が現実的になります。

出生数だけを見ていると人口変化を見誤る

少子化を考えるとき、出生数は非常に重要な数字です。

しかし自治体の人口を考える場合には、出生数だけでは十分ではありません。

出生によって人口が増減する自然増減があります。

それとは別に、転入と転出による社会増減があります。

東川町で小学校入学時に子どもが増える現象は、社会増減の重要性を示しています。

地域で生まれる子どもの数がすぐに大きく増えなくても、子育て世帯から選ばれる地域になれば、子どもの人口構成を変えることはできます。

これは国全体の少子化対策とは別の地域人口戦略です。

学校への投資が地域への投資になる

学校施設の整備には費用がかかります。

人口減少地域では、子どもが減っているのに学校へ投資する必要があるのかという議論も起こり得ます。

しかし学校が移住者を呼び込む資源になるのであれば、意味が変わります。

魅力ある学校をつくる。

子育て世帯が移住する。

子どもだけでなく親世代も増える。

住宅や消費への需要が生まれる。

地域社会を支える現役世代が増える可能性もあります。

教育への投資を学校の中だけで評価するのではなく、地域全体への波及まで考える視点が必要になります。

結論

北海道東川町では、町内の出生数が年間40人程度であるにもかかわらず、小学校入学時にはその学年の人数が5割程度増えます。

背景には、町外から子育て世帯が移住してくる動きがあります。

その吸引力の一つが東川小学校です。

約4ヘクタールの学校敷地、スポーツ施設、体験水田、体験農園、果樹園、オープンスペース型の学習環境など、学校と地域の特徴を組み合わせた教育環境があります。

さらにリモートワークによって、関東の会社で働きながら北海道で子育てするという選択も可能になってきました。

これまで学校は、地域人口に合わせて整備する施設と考えられてきました。

しかし東川町の事例を見ると、魅力的な学校を整備することで、逆に地域人口を動かす可能性があることが分かります。

子どもがいるから学校をつくるだけではありません。

学校があるから子どもと家族がやって来る。

人口減少時代には、学校を地域の将来への投資として考える視点がますます重要になりそうです。

参考

日本経済新聞 2026年9月19日 朝刊 教育移住で子ども増 奈良の山村など48自治体

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