仕事を探すとき、多くの人は求人票を見て応募先を選びます。
仕事内容。
賃金。
勤務地。
勤務時間。
必要な経験。
こうした情報は重要ですが、それだけでは分からないことがあります。
その仕事の求人は増えているのか。
求職者はどのくらいいるのか。
地域によって需要は違うのか。
将来もその仕事の需要は続くのか。
AIやデジタル化によって仕事はどう変わるのか。
こうした労働市場全体の情報です。
特にシニアの再就職では、過去に経験した職種だけを基準に仕事を探すと、求人の少ない職種に求職者が集中してしまうことがあります。
そこで重要になるのが労働市場の見える化です。
現在の求人だけではなく、どこでどのような人材が求められ、どの仕事が増え、どの仕事が減っているのかを分かりやすく示すことで、求職者の職業選択やリスキリングに役立てる考え方です。
労働市場情報とは何か
労働市場情報とは、企業の求人と働きたい人の求職状況などを示す情報です。
例えば、
求人数
求職者数
有効求人倍率
賃金水準
雇用形態
必要な資格
必要な経験
地域ごとの求人状況
などがあります。
こうした情報を見れば、
どの仕事では人材が不足しているのか
どの仕事では求職者が多いのか
を把握できます。
求人票が一つの企業の情報だとすれば、労働市場情報は多くの求人と求職者を集めて市場全体を見るための情報だと考えることができます。
職業別に見ると需給の違いが分かる
全体の有効求人倍率だけを見ても、実際の再就職の難しさは十分に分かりません。
人手不足だから求人倍率が高いといっても、すべての職種で人手不足になっているわけではないからです。
例えば事務職では、働きたい人が多い一方、求人が限られることがあります。
反対に、
介護
建設
運輸
保安
サービス
などでは、求人に対して応募者が不足する場合があります。
つまり同じ労働市場の中に、
人が余っている仕事
と、
人が足りない仕事
が同時に存在します。
職業別の求人と求職の状況を見える化すれば、このミスマッチを理解しやすくなります。
地域ごとの求人需要を見ることも重要になる
仕事の需要は全国で同じではありません。
地域によって産業構造が違うからです。
製造業が集積している地域。
観光業が盛んな地域。
物流拠点が多い地域。
医療や介護の需要が大きい地域。
IT企業が集積している地域。
それぞれ必要とされる人材は異なります。
そのため、
全国では求人が多い職種
であっても、自分が住んでいる地域では求人が少ないことがあります。
反対に全国的には目立たない仕事でも、特定の地域では人材需要が強い場合があります。
シニアの再就職では勤務地を大きく変えにくい人もいるため、地域単位の労働市場情報が特に重要になります。
現在だけでなく将来を見る
労働市場の見える化では、現在の求人状況だけを見るのでは十分ではありません。
重要なのは、
これから需要がどう変わるのか
という視点です。
例えば現在求人が多い仕事でも、AIや自動化によって将来必要な人数が減る可能性があります。
反対に、
高齢化
脱炭素
デジタル化
インフラ更新
などによって、今後需要が増える仕事も考えられます。
求職者が新しい技能を身につけるには時間がかかります。
そのため現在の求人だけを見てリスキリングを始めると、学び終わったときには需要が変化している可能性があります。
これから伸びる分野まで含めて考えることが重要です。
海外では増える仕事と減る仕事を示す取り組みもある
元の記事では、オランダの公的職業サービス機関の取り組みが紹介されています。
地域ごとに人材需要が旺盛な有望職種と、需要が減っている職種を可視化し、求職者の職業選択に利用しています。
需要の先行きが厳しい仕事については、単に求人が出るまで待つのではありません。
職種転換を提案します。
さらに本人が持っているスキルを分析し、
別のどの職種なら移りやすいのか
を示します。
これは労働市場情報を統計として公表するだけではなく、一人ひとりの職業選択につなげる取り組みです。
職業情報とスキル情報を結びつける
労働市場の見える化で重要になるのが、職業情報とスキル情報の連携です。
例えば、
介護職の求人が多い
という情報だけを示しても、事務職を希望する人がすぐ介護職へ転換できるとは限りません。
そこで、
その仕事では何が必要なのか
を示します。
必要な知識。
必要な資格。
必要な経験。
必要なスキル。
さらに求職者についても、
現在どのスキルを持っているのか
を整理します。
すると、
現在持っている能力
と、
新しい仕事で必要な能力
との差が分かります。
この差を埋めるのがリスキリングです。
職種転換の距離を見えるようにする
職種転換では、
まったく違う仕事へ移る
と考えると心理的な抵抗が大きくなります。
しかし、職種名は違っていても必要な能力が似ている仕事があります。
例えば営業経験者なら、
顧客の話を聞く
提案する
交渉する
問題に対応する
といった能力があります。
これらを必要とする別の職種なら、比較的移りやすい可能性があります。
労働市場情報とスキル情報を組み合わせれば、
今の仕事から近い仕事
少し学べば移れる仕事
大幅な学び直しが必要な仕事
という違いを示せるようになります。
求職者にとっては、単に求人一覧を見るより職種転換を考えやすくなります。
シニアの経験を別の仕事へつなげられる
労働市場の見える化は、シニアにとって特に重要です。
長年一つの仕事をしてきた人ほど、
自分はこの仕事しかできない
と思い込みやすいからです。
例えば管理職経験者なら、
人材育成
予算管理
問題解決
関係者との調整
業務改善
などの能力を持っている可能性があります。
これらの能力を必要とする仕事を労働市場情報から探せば、以前と同じ職種でなくても経験を生かせる可能性があります。
肩書ではなくスキルを基準に仕事を見ることで、再就職の選択肢を広げることができます。
job tagなどの職業情報も利用できる
厚生労働省は、職業情報提供サイトのjob tagなどを通じて職業情報の見える化を進めています。
職業ごとの仕事内容や必要な知識、スキルなどを調べることができます。
こうした情報を利用すれば、
知らなかった仕事を知る
自分の経験と別の職業を比較する
必要な能力を調べる
といったことができます。
求人サイトでは現在募集している企業を探します。
職業情報では、その仕事そのものについて調べます。
両方を組み合わせることが重要です。
職場情報の見える化も必要になる
仕事を選ぶときには、求人件数や仕事内容だけでは十分ではありません。
実際にどのような職場なのかも重要です。
例えば、
平均勤続年数
残業時間
有給休暇の取得状況
育児や介護との両立
人材育成制度
などの情報です。
求人が多いからといって、誰にとっても働きやすい職場とは限りません。
特にシニアでは、
勤務時間
身体的負担
柔軟な働き方
などが重要になる場合があります。
労働市場の見える化と職場情報の見える化を組み合わせることで、より現実的な職業選択ができます。
AIによって個人向けの労働市場情報を示せる可能性がある
労働市場情報は大量にあります。
すべてを求職者自身が調べるのは簡単ではありません。
そこでAIを利用することが考えられます。
例えば求職者の、
年齢
職歴
スキル
勤務地
希望する働き方
などを分析します。
そのうえで、
この地域ではこの職種の求人が多い
あなたのスキルならこの職種へ移りやすい
この能力を学べば応募できる仕事が増える
といった情報を提示します。
単なる統計ではなく、
自分に関係する労働市場情報
へ変えることができます。
見える化は希望を否定するためではない
労働市場情報を示す目的は、
あなたの希望する仕事は無理です
と求職者を説得することではありません。
重要なのは、本人が十分な情報を持ったうえで判断できるようにすることです。
例えば事務職を希望する人に、
事務職は求職者が多い
という情報を示します。
同時に、
あなたの経験なら別のこの仕事にも応募できる
この技能を学べば選択肢が増える
という情報も示します。
そのうえで本人が選びます。
見える化は職業選択を制限するためではなく、選択肢を広げるためのものです。
ハローワークは求人情報から労働市場情報へ広げる
これからのハローワークには、求人を紹介するだけではなく、
労働市場そのものを説明する役割
が重要になります。
どの仕事が不足しているのか。
どの仕事に求職者が集中しているのか。
地域ではどの産業が伸びているのか。
どのスキルが必要になるのか。
こうした情報を相談員が求職者に示します。
そして、
現在の希望
現在の能力
労働市場の状況
を組み合わせて職業選択を考えます。
ハローワークが提案型の職業支援へ変わるためにも、労働市場の見える化は重要な基盤になります。
結論
労働市場の見える化とは、求人件数や求職者数、賃金、必要なスキル、地域ごとの人材需要などを分かりやすく示し、求職者の職業選択に利用する考え方です。
日本全体で人手不足だからといって、すべての職種で求人が多いわけではありません。
事務職のように求職者が集まりやすい仕事がある一方、人材確保が難しい職種もあります。
さらにAIや産業構造の変化によって、これから増える仕事と減る仕事が生まれる可能性があります。
そこで重要になるのが、
現在の求人
だけではなく、
将来の需要
まで含めて仕事を見ることです。
さらに職業情報とスキル情報を結びつければ、
自分の経験を生かせる別の仕事
少し学べば移れる仕事
大幅なリスキリングが必要な仕事
を考えやすくなります。
特にシニアの再就職では、過去の職種だけを基準に仕事を探すのではなく、長年の経験をスキルに分解し、その能力を必要とする仕事を探すことが重要です。
求人を探してから応募するだけの職業紹介から、労働市場を理解したうえで次の仕事を選ぶ再就職支援へ。
労働市場の見える化は、人手不足と職種ミスマッチが同時に存在する日本で、働き手を必要な仕事へつなげるための重要な仕組みになっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月19日朝刊 老いるハローワークとAI
厚生労働省 職業情報提供サイトjob tag