マスアフルエント層とは何か 銀行が金融資産3000万円以上の顧客を狙う理由編

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富裕層という言葉を聞くと、金融資産を1億円、数億円と持つ人を思い浮かべるかもしれません。

しかし銀行や証券会社にとって重要なのは、すでに1億円以上の金融資産を持っている人だけではありません。

金融資産が数千万円規模に達し、これから富裕層になる可能性のある人たちも重要な顧客です。

こうした層を説明するときに使われる言葉の一つが、マスアフルエント層です。

大手銀行が預かり資産3000万円以上などを一つの基準として優待サービスを提供している背景を考えると、銀行がなぜこの層を重視するのかが見えてきます。

マスアフルエント層の考え方

マスアフルエントは、一般の個人顧客より多くの金融資産を持つ一方、本格的な富裕層にはまだ達していない層を表す言葉として使われます。

ただし、マスアフルエントという言葉について法律上統一された資産基準があるわけではありません。

金融機関や調査機関によって区分が異なる場合があります。

日本の富裕層に関する調査でよく知られているのが、野村総合研究所による純金融資産保有額を使った分類です。

純金融資産とは、預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険などの金融資産から、住宅ローンなどの負債を差し引いたものです。

この分類では、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の世帯を富裕層、5億円以上を超富裕層としています。

その下には、5000万円以上1億円未満の準富裕層があります。

一方、金融機関の顧客戦略では、数千万円規模の金融資産を持つ層を広い意味でマスアフルエント層として捉えることがあります。

そのため、

マスアフルエントは必ず3000万円以上

と全国共通の定義があるわけではありません。

3000万円という金額は、金融機関が顧客を分類する際の一つの目安として考える必要があります。

富裕層との違い

富裕層との大きな違いは、保有している資産の規模です。

金融資産が1億円を超えるようになると、資産管理の課題も複雑になってきます。

株式や債券への投資だけではなく、

不動産

相続

贈与

事業承継

信託

生命保険

税務

などを総合的に考える必要が出てくる場合があります。

一方、金融資産が3000万円から5000万円程度の層では、現役会社員なども多く含まれると考えられます。

長期間の積み立てによって資産を形成した人もいれば、退職金によって金融資産が一気に増えた人もいるでしょう。

株式市場の上昇によって保有株式や投資信託の評価額が増え、金融資産が数千万円規模になった人もいます。

つまりマスアフルエント層は、一部の特別な資産家だけを意味するものではありません。

長期間働いて貯蓄や投資を続けてきた一般の会社員世帯などからも生まれる可能性のある層なのです。

3000万円の金融資産はどのように形成されるのか

金融資産3000万円というと非常に大きな金額に感じます。

しかし長期間の資産形成という視点で見ると、その姿は少し変わります。

たとえば現役時代に毎年一定額を貯蓄しながら、株式や投資信託による運用を続けます。

そこに、

退職金

企業年金

相続

株式の値上がり

不動産売却資金

などが加わることがあります。

特に50代から60代になると、住宅ローンの残高が減る一方で金融資産が増えてくる世帯もあります。

銀行にとって重要なのは、現在3000万円を持っているという事実だけではありません。

その顧客が今後5000万円、さらに1億円へと資産を増やす可能性があることです。

現在のマスアフルエント層が、将来の富裕層になる可能性があります。

金融機関にとって大きな市場になる理由

銀行がマスアフルエント層を重視する理由の一つは、顧客数と資産規模のバランスにあります。

超富裕層は一世帯当たりの資産額が非常に大きい一方、対象となる世帯数は限られます。

これに対して数千万円規模の金融資産を持つ層まで対象を広げれば、銀行が取引できる顧客数は増えます。

一人当たりの金融資産も一般の顧客より大きいため、銀行にとって魅力的な市場になります。

たとえば一人から3000万円の金融資産を預かることができれば、

預金

投資信託

債券

保険

証券

など複数の商品やサービスにつながる可能性があります。

1000人なら単純計算で300億円、1万人なら3000億円規模の金融資産になります。

一人の大富豪だけを獲得するのではなく、一定の金融資産を持つ多数の顧客を囲い込むことにも大きな意味があるのです。

預金を多く持っていることにも価値がある

銀行にとっては金融資産の中身も重要です。

マスアフルエント層や富裕層は、すべての金融資産を株式などへ投資しているとは限りません。

投資機会を待つための資金

住宅購入資金

不動産投資資金

子どもへの贈与資金

納税資金

生活予備資金

などとして多額の現金や預金を保有している場合があります。

銀行にとって、この預金は企業や個人への貸し出しを支える資金になります。

特に金利が上昇し、銀行の貸し出しが増える局面では、安定した預金をどれだけ確保できるかが重要になります。

そのため銀行は、単に投資信託などを販売できる顧客としてだけでなく、大口預金を提供してくれる顧客としてもマスアフルエント層を重視するのです。

富裕層予備軍として囲い込む意味

銀行にとってさらに重要なのが将来性です。

たとえば50歳で金融資産3000万円を持つ人がいたとします。

今後も働き続け、

給与から貯蓄する

投資を続ける

退職金を受け取る

企業年金を受け取る

といったことによって金融資産が増える可能性があります。

株式などの運用資産が値上がりすれば、資産額がさらに増えることもあります。

60代になったときに金融資産5000万円を超え、その後1億円近くになる可能性もあります。

銀行がこの顧客と50歳から取引していれば、資産形成の過程そのものに関わることができます。

富裕層になってから顧客を獲得するのではなく、その前から関係をつくるのです。

これが富裕層予備軍を囲い込む意味です。

退職金は重要な転換点になる

金融機関にとって特に重要になるのが退職前後です。

長年勤務した会社員が退職すると、まとまった退職金を受け取る場合があります。

それまで金融資産2000万円だった人が、退職金によって一気に3000万円、4000万円という金融資産を持つことも考えられます。

同時に住宅ローンが完済に近づけば、純金融資産も増えます。

この時期には、

退職金を預金に置くのか

投資に回すのか

老後資金をどう取り崩すのか

相続対策をどうするのか

といった新しい金融ニーズが生まれます。

銀行や証券会社にとって大きなビジネス機会になります。

そのため金融機関は退職してから初めて接触するのではなく、現役時代から給与振込、クレジットカード、住宅ローンなどを通じて関係を築こうとします。

富裕層になれば取引はさらに広がる

金融資産が増えて富裕層になると、金融機関との取引内容も変化します。

単純な預金や投資だけではなく、

資産全体の管理

不動産

相続対策

遺言

信託

事業承継

次世代への資産移転

などが重要になります。

ここでは銀行だけでは対応できないこともあります。

そこで大手金融グループは、銀行、証券、信託などを連携させたウェルスマネジメントを強化しています。

マスアフルエントの段階で顧客との関係をつくり、資産が増えるにつれて提供するサービスを高度化することができれば、金融機関は何十年にもわたって取引を続けることができます。

これは前回取り上げたライフタイムバリューを高める戦略でもあります。

利用者側は金融機関の分類に振り回されない

金融機関から富裕層向けや上位顧客向けのサービスを案内されると、特別な顧客として認められたように感じるかもしれません。

旅行や健康、各種手数料などの優待を利用できることもあります。

しかし重要なのは、そのサービスが自分にとって本当に有利かどうかです。

金融資産3000万円以上という基準を満たすために、必要以上の預金や投資商品を一つの金融グループへ集中させる必要はありません。

預金金利

金融商品の手数料

運用商品の内容

相談サービス

優待の実際の利用価値

などを総合的に比較する必要があります。

銀行がマスアフルエント層を重視しているということは、それだけ顧客としての経済的価値が高いということでもあります。

利用者側も、自分が金融機関からどのような顧客として見られているのかを理解したうえでサービスを選ぶことが大切です。

結論

マスアフルエント層とは、一般の個人顧客より多くの金融資産を持ちながら、本格的な富裕層にはまだ達していない層を表す言葉として使われます。

ただし全国共通の厳密な定義があるわけではなく、金融機関などによって資産基準は異なります。

銀行が金融資産3000万円程度からの顧客を重視する理由は、現在持っている預金や金融資産だけではありません。

今後の給与収入、資産運用、退職金などによって資産が増え、将来の富裕層になる可能性があるからです。

その前から給与振込、カード、住宅ローン、証券などを通じて関係を構築できれば、資産が増えた後も取引を続けてもらえる可能性があります。

さらに富裕層になれば、資産運用だけでなく、不動産、相続、信託、資産承継へと取引を広げることもできます。

銀行にとって金融資産3000万円は、単なる残高ではありません。

その背後にある将来の数千万円、1億円という資産と、何十年にもわたる取引を獲得するための入口でもあるのです。

大手銀行による預金顧客の優待競争は、現在の大口預金を奪い合うだけではありません。

これから富裕層になる可能性のある顧客を、できるだけ早い段階から自らの金融グループに取り込む競争でもあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 3メガ、預金顧客優待競う

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