かつて住宅購入といえば、「一生住む家を買う」という意味合いが強いものでした。
若いうちは賃貸住宅に住み、結婚して分譲マンションを購入し、子どもが増えたら郊外の庭付き一戸建てへ移る。そこで住宅ローンを完済して老後を迎える。
いわゆる「住宅すごろく」です。
しかし、令和の住宅すごろくは大きく姿を変えています。
住宅を終の住み家として考えるだけではなく、将来売却する可能性まで考えて購入する「半投半住」という考え方が広がっているからです。
半投半住とは何か
半投半住とは、住宅を自分たちが暮らす住居として利用しながら、同時に資産としても考える発想です。
純粋な不動産投資とは違います。
実際に自分や家族が住みます。しかし購入時点から、「将来売れるか」「貸せるか」「資産価値が維持されるか」を意識します。
つまり、
住むための住宅
であると同時に、
保有する資産
でもあるわけです。
住宅購入の判断基準も変わります。
間取りや広さ、通勤時間、学校、周辺環境だけではありません。
駅からの距離、立地の希少性、マンションの管理状態、地域の将来性、中古住宅市場での流通性なども重要になります。
「自分が住みたい住宅」という視点に「次の人も買いたい住宅」という視点が加わるのです。
住宅すごろくのゴールが変わった
昭和の住宅すごろくには比較的わかりやすいゴールがありました。
社宅や賃貸アパートから始まり、賃貸マンション、分譲マンションへ進み、最後に郊外の庭付き一戸建てを購入する。
戸建てを持つことが豊かさの象徴でもありました。
令和では、この一本道が崩れています。
単身時代には賃貸マンションに住み、結婚後に広い賃貸マンションへ移り、その後中古マンションを購入し、さらに新築マンションへ住み替えるという流れもあります。
一方で、新築マンションをゴールとしない人もいます。
中古マンションを購入してリノベーションする人もいます。
都心のマンションを所有しながら、自分自身は郊外や地方に住む人もいます。
一生賃貸住宅で暮らすという選択もあります。
令和の住宅すごろくの最大の特徴は、進み方だけでなく「ゴールそのものが人によって違う」ことなのです。
マンションが終の住み家になった理由
昭和には、マンションは戸建てを購入するまでの途中段階というイメージもありました。
この評価を変えた大きな転機の1つが、1980年代から1990年代にかけてのバブル経済とその崩壊です。
バブル期にはデザインや設備に優れた高級マンションが供給されるようになりました。
当初は一般の会社員には手が届きにくい物件でしたが、バブル崩壊後には中古市場へ流通する物件も増えました。
中古マンション市場が形成されることで、「マンションを買って、後から売る」という選択が現実的になっていきます。
さらに1995年の阪神大震災などを経験するなかで、耐震性や耐火性、防犯性などマンションの特徴にも注目が集まりました。
マンションは戸建てまでの仮住まいではなく、それ自体が最終的な住宅の選択肢になったのです。
値上がりが住み替えを可能にする
半投半住が注目される背景には、近年のマンション価格上昇があります。
例えば5,000万円で購入したマンションを数年後に6,000万円で売却できれば、単純計算では1,000万円の価格差が生まれます。
もちろん実際には住宅ローン残高や仲介手数料、税金などを考える必要があります。
それでも売却によって一定の自己資金を確保できれば、それを次の住宅の頭金として利用できます。
最初から高額な住宅を購入するのではありません。
最初の住宅を購入し、その資産価値を次の住宅購入につなげていく。
住宅が資産形成の階段になるわけです。
昭和の住宅すごろくが「より大きな住宅へ進むすごろく」だったとすれば、令和は「住宅資産を乗り換えていくすごろく」と表現できるかもしれません。
半投半住には大きな前提がある
ただし、半投半住には注意すべき点があります。
住宅価格が上昇し続ける保証はありません。
これまで住宅価格を支えてきた要因の1つには、低金利があります。
住宅ローン金利が低ければ、同じ所得でも大きな金額を借りることができます。
ところが金利が上昇すれば状況は変わります。
例えば住宅ローン金利が上昇すると、毎月の返済額が増えます。購入可能額が低下する人も増えるでしょう。
買い手の購買力が低下すれば、住宅価格にも影響する可能性があります。
「買えば値上がりする」という前提で住宅を購入することにはリスクがあります。
ペアローンにも注意が必要
住宅価格の上昇によって、夫婦それぞれが住宅ローンを借りるペアローンを利用するケースも増えています。
夫婦の所得を合算することで、より高額な住宅を購入できます。
しかし借入可能額と安全に返済できる金額は同じではありません。
出産や育児、転職、病気、介護などによって、将来どちらかの収入が減少する可能性があります。
住宅価格が高くなればなるほど、長期間にわたる家計への影響も大きくなります。
半投半住を考える場合でも、「将来売れるから大丈夫」と考えるのではなく、売却しなくても返済できる家計を基本にすることが重要でしょう。
住宅の資産価値は二極化する可能性がある
これから特に重要になるのが、住宅の資産価値の差です。
人口減少が続けば、日本全国の住宅が同じように値上がりするとは考えにくくなります。
需要が集まりやすい都市部の駅近物件と、人口減少が進む地域の住宅では資産価値の動きが大きく異なる可能性があります。
同じマンションでも、立地、築年数、管理状態、修繕積立金、建物の規模などによって売却しやすさは変わります。
半投半住の時代には「マンションだから資産になる」のではありません。
重要なのは、
「将来も欲しい人がいる住宅か」
という視点です。
老後の住宅すごろくも変わる
住宅すごろくの変化は若い世代だけの問題ではありません。
人生100年時代には、60代や70代になってから住宅を住み替える可能性もあります。
子どもが独立すれば、大きな住宅が必要なくなることがあります。
戸建てから駅近マンションへ移る。
都市部から地方へ移る。
自宅を売却して賃貸住宅へ移る。
高齢者住宅へ住み替える。
こうした選択も住宅すごろくの一部になります。
むしろ長寿化によって、住宅を一生に1回だけ購入するという考え方そのものが現実に合わなくなっているのかもしれません。
結論
昭和の住宅すごろくには、多くの人が共有するゴールがありました。
郊外の庭付き一戸建てです。
しかし令和には共通のゴールがありません。
タワーマンションを選ぶ人もいれば、低層マンションを選ぶ人もいます。
戸建てを選ぶ人もいれば、一生賃貸住宅を選ぶ人もいます。
そして住宅を「住む場所」と「資産」の両方として考える半投半住という考え方も広がっています。
これから重要になるのは、住宅すごろくを誰より早く「あがる」ことではないでしょう。
家族構成、働き方、資産、年齢に合わせて、その時々で自分に適した住まいを選び直せることです。
令和の住宅すごろくには決められたゴールがありません。
だからこそ住宅購入では、「一生ここに住むか」だけではなく、「次に動くことができる住宅か」という視点がますます重要になっていくのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月2日朝刊 令和の住宅すごろく「半投半住」で選択多様に