住宅購入には「一生に1回の大きな買い物」というイメージがあります。
35年の住宅ローンを組み、長期間住み続け、最後にローンを完済する。こうした住宅購入が長く標準的な姿として考えられてきました。
しかし人生100年時代を考えると、30代で購入した住宅が70代、80代まで最適な住まいであり続けるとは限りません。
結婚、出産、子どもの独立、転勤、退職、介護。
人生の変化に合わせて必要な住宅も変わります。
そこで重要になってくるのが、最初から住み替えの可能性を考えて住宅を購入するという発想です。
一生住むという前提を外してみる
住宅を購入するとき、多くの人は現在の生活を基準に考えます。
子どもがいるから部屋数を増やしたい。
通勤しやすい場所に住みたい。
学校に近い住宅がよい。
こうした条件は当然重要です。
ただし、その条件が20年後にも必要とは限りません。
子どもが独立すれば子ども部屋は不要になります。
退職すれば勤務先への通勤時間を考える必要もなくなります。
逆に高齢になれば、駅や病院、スーパーまでの距離がこれまで以上に重要になる可能性があります。
住宅に求める条件は年齢とともに変わるのです。
それならば最初から「一生住む住宅」を探すのではなく、「現在の自分に適した住宅」を選ぶという考え方もあります。
住み替え前提なら住宅選びが変わる
将来の住み替えを前提にすると、住宅選びの基準も変化します。
現在の住み心地だけでなく、将来売却できるかという視点が加わるからです。
例えば非常に個性的な間取りの住宅が、自分にとって理想的だったとします。
一生住むのであれば、それでも問題ないかもしれません。
しかし10年後に売却する可能性があるなら話は違います。
買い手が限られる住宅は、売却に時間がかかったり、価格を下げなければならなかったりする可能性があります。
反対に、多くの人が使いやすい間取り、交通利便性の高い立地、適切に管理されたマンションなどであれば、中古住宅になっても一定の需要を期待しやすくなります。
「自分が欲しいか」に加えて、「次の人も欲しいか」を考えるわけです。
住宅ローン残高が住み替えを左右する
住み替えで重要なのが住宅ローンです。
住宅を売却したからといって、自由に次の住宅へ移れるとは限りません。
例えば住宅ローン残高が4,000万円ある住宅を3,500万円でしか売却できなければ、単純には500万円不足します。
一方、住宅ローン残高が3,000万円で4,000万円で売却できれば、売却に伴う諸費用などを考慮する必要はありますが、次の住宅購入に使える資金が残る可能性があります。
住み替えでは住宅価格だけでなく、
売却価格
住宅ローン残高
売却費用
次の住宅に必要な資金
を一体として考える必要があります。
住宅の資産価値が維持されることは、単に財産が増えるという意味だけではありません。
人生の途中で住宅を変えられる自由度にも関係するのです。
最初の住宅ですべてを満たす必要はない
一生住むことを前提にすると、最初の住宅購入から多くの条件を満たそうとしがちです。
将来子どもが増えるかもしれないから広い住宅が欲しい。
親との同居があるかもしれないから部屋数を増やしたい。
老後まで暮らすからバリアフリーも考えたい。
その結果、現在必要な住宅よりも大きく、高額な住宅を購入することがあります。
住み替えを前提にすれば、この考え方を変えられます。
現在必要な広さの住宅を購入し、家族が増えたら広い住宅へ移る。
子どもが独立したら再び小さな住宅へ移る。
人生のそれぞれの段階に住宅を合わせる方法です。
最初から最後まで1つの住宅ですべてを解決する必要はありません。
住み替えには取引コストがある
もちろん、何度も住宅を買い替えればよいという単純な話ではありません。
住宅の売買には費用がかかります。
購入時には登記費用や住宅ローン関連費用などが発生します。
売却時には仲介手数料などが必要になる場合があります。
引っ越し費用もかかります。
税金についても確認が必要です。
住宅は株式のように低いコストで簡単に売買できる資産ではありません。
短期間で何度も売買すれば、こうした取引コストが積み重なります。
住み替え前提とは、頻繁に住宅を売買することではありません。
必要になったときに動ける状態を作っておくという考え方です。
価格上昇を前提にしない
近年のマンション価格上昇によって、住み替えによる成功事例が目立つようになりました。
過去に購入したマンションが値上がりし、その売却資金を使ってさらに高額な住宅へ移るケースです。
しかし、この方法には住宅価格の上昇という追い風があります。
今後も同じ状況が続くとは限りません。
金利が上昇すれば住宅購入者の借入可能額に影響します。
景気や人口動態によって住宅需要が変わる可能性もあります。
住宅価格が下落することも当然考えられます。
したがって住み替え戦略では、値上がり益を前提にしないことが重要です。
値上がりしなくても売却しやすい。
大幅な値下がりが起きても家計が耐えられる。
そのような住宅購入のほうが長期的には柔軟性を持ちやすいでしょう。
売らずに貸す選択肢もある
住み替えでは、現在の住宅を必ず売却する必要があるとは限りません。
条件によっては賃貸に出すという方法もあります。
例えば転勤で一時的に別の地域へ移る場合、数年後に戻ってくる可能性があります。
その場合には売却せず、一時的に貸すことも考えられます。
また賃貸需要の強い住宅なら、保有を続けて家賃収入を得るという選択肢もあります。
ただし、住宅ローンを利用している場合には契約条件の確認が必要です。
賃貸経営になれば空室や修繕、税金、管理などの問題も発生します。
売却と賃貸のどちらが有利かは、住宅や家計の状況によって異なります。
重要なのは、複数の出口を持てる住宅を選んでおくことです。
高齢期こそ住み替えが必要になる
住み替えというと、若い世代がより広い住宅へ移るイメージがあります。
しかし人生100年時代には、高齢期の住み替えも重要になります。
子どもが独立した後、大きな戸建て住宅に夫婦2人で住み続ける必要があるとは限りません。
階段の上り下りが負担になることもあります。
庭の管理や住宅の修繕も年齢とともに難しくなります。
そこで戸建てを売却し、駅や医療機関に近いマンションへ移るという選択肢があります。
さらに年齢を重ねれば、高齢者向け住宅や介護施設への住み替えも考えられます。
住宅すごろくは、住宅を購入した時点で終わるわけではありません。
むしろ老後まで続いていくものと考えたほうが現実的でしょう。
住宅を資産ではなく選択肢として考える
住宅の資産価値というと、値上がりするかどうかに注目しがちです。
しかし、もう1つ重要な価値があります。
それは人生の選択肢を残してくれることです。
売却しやすい住宅を持っていれば、転勤や家族構成の変化に対応しやすくなります。
老後に住み替えたくなったときにも、その住宅を売却して資金を確保できる可能性があります。
逆に売却が難しい住宅を多額の住宅ローンとともに抱えていると、住みたい場所を変えたくても動けないことがあります。
住宅の流動性は、人生の自由度にも関係するのです。
結論
住宅は人生最大の買い物だからこそ、一生住まなければならない。
そう考える必要はなくなりつつあります。
人生100年時代には、30代と60代、80代で最適な住宅が同じとは限りません。
大切なのは、何度も住宅を売買することではありません。
必要になったときに住み替えられる余地を残しておくことです。
そのためには購入時から、将来の売却可能性や住宅ローン残高、立地、管理状態などを考える必要があります。
住宅購入を「一生に1回のゴール」ではなく、長い人生の途中にある選択の1つとして考える。
令和の住宅すごろくでは、住宅を買う力だけではなく、「次へ動ける住宅を選ぶ力」が重要になっていくのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月2日朝刊 令和の住宅すごろく「半投半住」で選択多様に