パートが社会保険に加入すると、給与から健康保険料や厚生年金保険料が差し引かれます。
給与明細を見ると本人が負担している金額が分かるため、社会保険料は従業員が自分で支払っているものという印象を持ちやすいかもしれません。
しかし、会社も社会保険料を負担しています。
特に健康保険料や厚生年金保険料は、原則として労使で負担する仕組みになっています。
パートへの社会保険適用が拡大すると、従業員の手取りだけでなく企業の人件費にも影響します。
最低賃金の上昇と社会保険加入の拡大が同時に進むなかで、会社負担を理解する重要性も高まっています。
給与明細には会社負担分が見えにくい
従業員の給与明細には、健康保険料や厚生年金保険料などの本人負担額が記載されています。
例えば額面給与が20万円でも、そこから社会保険料や税金などが差し引かれます。
そのため、従業員は給与からいくら引かれたのかを毎月確認できます。
一方、会社が別途負担している社会保険料は、通常の手取り計算では見えにくいものです。
会社から見れば、従業員を雇うためのコストは額面給与だけではありません。
給与に加えて会社負担の社会保険料などが必要になります。
厚生年金保険料は労使折半が基本
厚生年金保険料は、原則として会社と従業員が半分ずつ負担します。
例えば標準報酬月額を基準として計算した厚生年金保険料が合計3万6,000円だったとします。
単純化すれば、本人負担が1万8,000円、会社負担も1万8,000円という形になります。
従業員の給与明細から差し引かれるのは本人負担分です。
しかし、会社はそれとは別に会社負担分を支払っています。
従業員から見える1万8,000円だけが厚生年金にかかっている費用ではないということです。
健康保険にも会社負担がある
健康保険料についても、基本的には会社と従業員が負担します。
そのため標準報酬月額が上がれば、本人負担だけでなく会社負担も増える方向に働きます。
反対に標準報酬月額が下がれば、双方の負担が減る方向に働きます。
標準報酬月額の算定方法は、従業員の手取りだけに影響する仕組みではありません。
企業の人件費にも直接関係する仕組みなのです。
パートが社会保険に加入すると会社の人件費も増える
それまで社会保険の加入対象ではなかったパートが新たに加入すると、本人には社会保険料負担が発生します。
同時に会社にも新しい社会保険料負担が発生します。
例えば100人のパートを雇用している会社で、多くの従業員が新たに社会保険へ加入すれば、会社全体では相当な負担になる可能性があります。
1人当たりでは月数万円未満の負担増でも、対象者が100人、1,000人と増えれば年間の金額は大きくなります。
パートの社会保険適用拡大が企業経営の問題にもなる理由です。
最低賃金が上がると会社には2つの負担が生じる
最低賃金が引き上げられると、会社はパートの時給を引き上げる必要が生じる場合があります。
時給が上がれば給与総額が増えます。
さらに給与水準が上がって標準報酬月額も上昇すれば、会社負担の社会保険料も増える可能性があります。
つまり企業側から見ると、時給の上昇だけで終わるわけではありません。
給与の増加に加えて社会保険料の増加も考える必要があります。
パートを多く雇用する企業ほど、この影響は大きくなります。
社会保険料を含めた金額が実質的な人件費になる
会社が従業員1人を雇用するコストを考える場合、額面給与だけを見ることはできません。
例えば会社が従業員に月20万円の給与を支払っていても、会社の負担が20万円で終わるわけではありません。
会社負担の社会保険料があります。
さらに雇用保険や労災保険などの負担もあります。
福利厚生費や採用費、教育費などがかかる場合もあります。
企業経営では、給与だけではなくこれらを含めた総人件費を見る必要があります。
標準報酬月額のずれは会社側にも影響する
参考記事で問題となっている標準報酬月額のずれは、従業員だけの問題ではありません。
例えば4月から6月だけ給与が高く、その結果として実態より高い標準報酬月額が適用されれば、従業員の社会保険料負担が増えます。
同時に会社負担も増える方向に働きます。
反対に、実際の年間給与に比べて低い標準報酬月額が適用されれば、従業員だけでなく会社の社会保険料も低くなる可能性があります。
標準報酬月額をどのように決めるかは、労使双方にとって重要な問題なのです。
企業が社会保険料を減らしたくなる理由
企業側から見れば、社会保険料は大きな固定的負担です。
従業員数が多い企業ほど総額も大きくなります。
そのため社会保険料を適正な範囲で抑えることは、人件費管理の重要なテーマになります。
参考記事では、選択制企業型DCについて、年度当初の3カ月に掛金を集中させることで給与として扱われる金額を抑え、年間の企業の社会保険料負担を減らせる可能性があることも指摘されています。
このような方法が注目される背景には、会社も社会保険料を負担しているという事情があります。
会社負担があるから厚生年金加入の意味も変わる
従業員側から見ると、会社負担は厚生年金を考えるうえで重要です。
例えば自分の給与から毎月2万円の厚生年金保険料が差し引かれているとします。
本人から見ると毎月2万円の負担です。
しかし会社も原則として対応する保険料を負担しています。
厚生年金を単純に自分が支払った金額と将来受け取る年金だけで比較するのは適切ではありません。
会社が保険料を負担する仕組みまで含めて考える必要があります。
企業負担を減らせばよいという問題でもない
会社の社会保険料負担が大きいからといって、単純に負担を減らせばよいわけでもありません。
社会保険料は、従業員の健康保険や厚生年金などを支える財源です。
標準報酬月額を低くすれば会社負担が減る可能性がありますが、従業員の将来の厚生年金や一部の社会保険給付にも影響する可能性があります。
企業の人件費削減と従業員の社会保障は、切り離して考えることができません。
だからこそ、実際の給与に見合った公平な負担の仕組みが重要になります。
結論
パートが社会保険に加入すると、社会保険料を負担するのは従業員だけではありません。
厚生年金保険料や健康保険料は、原則として会社にも負担があります。
そのため社会保険の適用拡大は、パートの手取りだけでなく企業の人件費にも影響します。
さらに最低賃金が上昇すれば、企業は時給の引き上げに加えて、給与上昇に伴う社会保険料の増加にも対応する必要があります。
一方、標準報酬月額が実際の給与とずれていれば、その影響は従業員と会社の双方に及びます。
重要なのは社会保険料を単純に高くすることでも低くすることでもありません。
実際の給与に応じて労使双方が公平に負担できる仕組みにすることです。
では、そもそもなぜ毎月の実際の給与ではなく、標準報酬月額という仕組みを使っているのでしょうか。
次は、約100年前に作られた社会保険料の計算方法が現在まで続いている理由を見ていきます。
参考
日本経済新聞 2026年9月25日朝刊 パートの社会保険料ひずみ 給与変動、反映間に合わず 経済団体、制度見直し要望