企業年金の見える化が進むと、自分の勤務先の企業年金について、これまでより多くの情報を確認できるようになります。
そこで気になるのが、何を見ればよいのかという問題です。
最も分かりやすいのは運用利回りでしょう。
しかし、運用利回りが高い企業年金ほど優れていると単純に判断することはできません。
企業年金の目的は投資成績を競うことではなく、従業員の退職後の生活を支えることだからです。
会社員が企業年金を見るときには、運用成績だけでなく、給付設計、予定利率、積立状況、運用リスクなどを組み合わせて確認する必要があります。
まず自分がDBかDCかを確認する
最初に確認したいのは、自分の勤務先にどのような企業年金制度があるかです。
確定給付企業年金であるDBなのか。
企業型確定拠出年金であるDCなのか。
あるいは両方を導入しているのか。
DBとDCでは確認すべきポイントが違います。
DBでは企業が将来の給付について一定の責任を負います。
DCでは会社などが掛金を拠出し、従業員自身が資産を運用します。
まず制度の種類を把握することが企業年金を理解する出発点です。
DBでは給付額の決まり方を見る
DBで特に重要なのが、将来の給付額をどのように計算するかです。
給与と勤続年数を基準にする制度があります。
職位や勤続期間などに応じたポイントを積み上げる制度もあります。
キャッシュバランスプランのように、国債利回りなど一定の金利指標を給付計算に反映させる仕組みもあります。
同じDBという名称でも、給付額の決まり方は同じではありません。
自分の給与や勤続年数、金利などの変化が将来の年金にどう影響するのかを確認することが重要です。
予定利率は重要な確認項目
DBでは予定利率も重要です。
予定利率とは、将来の給付に必要な資金を準備するときに想定する利率です。
予定利率が変われば、企業年金の財政運営にも影響します。
金利上昇によって運用環境が改善すれば、予定利率を引き上げる企業年金が出てくる可能性があります。
実際、企業年金連合会の2025年の調査では、予定利率を引き上げる意向を示した企業が約4%ありました。
見える化によって他社の予定利率と比較しやすくなれば、自社の制度を考える材料の一つになります。
運用利回りだけで優劣を決めない
企業年金の情報を見るとき、特に注意したいのが運用利回りです。
例えばA社の企業年金が年間8%、B社が年間4%の運用利回りだったとします。
数字だけならA社の方が良いように見えます。
しかしA社は株式などのリスク資産を多く保有し、B社は将来の年金支払いに合わせて債券を多く保有しているかもしれません。
株式市場が好調な1年間だけを見れば、A社の運用利回りが高くなる可能性があります。
市場が急落すれば逆の結果になることもあります。
単年度の利回りだけでは企業年金の安定性は判断できません。
どの程度のリスクを取っているかを見る
運用成績を見るなら、その収益を得るためにどの程度のリスクを取っているのかも確認する必要があります。
国内株式、外国株式、国内債券、外国債券などの資産配分を見ると、企業年金の運用方針を理解しやすくなります。
株式の割合が高ければ、高い収益を期待できる一方、価格変動も大きくなります。
外国資産では為替変動の影響もあります。
国内債券の割合が高ければ値動きを抑えやすい面がありますが、期待できる収益も異なります。
利回りとリスクは一緒に見る必要があります。
積立状況を見る
DBでは将来の給付に備えて十分な資産が積み立てられているかも重要です。
高い給付を約束していても、それを支える年金資産が不足していれば企業側に将来追加負担が生じる可能性があります。
反対に給付に必要な資産が十分準備されていれば、企業年金財政の安定性を考える材料になります。
企業年金では、どれだけ資産を増やしたかだけではなく、将来の負債に対して十分な資産を持っているかを見る必要があります。
これはALMという資産と負債を一体として考える視点にもつながります。
加入者の年齢構成も影響する
企業年金ごとに加入者や受給者の構成も違います。
若い従業員が多い企業では、本格的な年金支払いまで長い時間がある場合があります。
一方、受給者が多い企業年金では、毎年多額の年金を支払う必要があります。
同じ資産配分や同じ運用利回りでも、企業年金が置かれている状況は異なります。
そのため他社との比較では、一つの数字だけを横並びにするのではなく、加入者構成や制度の成熟度なども考える必要があります。
DCでは会社の掛金を見る
企業型DCの場合、まず確認したいのが会社などから毎月いくら拠出されているかです。
同じ年収でも、企業型DCへの会社拠出額が違えば長期的な待遇に差が生じます。
2026年12月には、企業型DCなどの拠出限度額が月5.5万円から月6.2万円へ引き上げられる予定です。
ただし、上限が月6.2万円になったからといって、すべての企業がその金額を拠出するわけではありません。
実際に自分の会社がどの程度の掛金を負担しているのかを見ることが重要です。
DCでは商品ラインアップも確認する
企業型DCでは、従業員自身が運用商品を選びます。
しかし市場にあるすべての商品を自由に購入できるわけではありません。
会社などが用意した商品ラインアップから選択します。
長期投資に適した低コストの商品があるか。
国内外へ分散投資できるか。
商品の手数料はどの程度なのか。
こうした点も企業型DCの質を考える材料になります。
掛金額だけでなく、運用するための環境まで見る必要があります。
最後は将来いくら受け取れるかを見る
企業年金の情報をいろいろ確認しても、最終的に重要なのは老後の生活にどの程度役立つのかです。
DBからいくら受け取れる見込みなのか。
DCの現在の残高はいくらなのか。
今後の掛金を含めるとどの程度の資産になる可能性があるのか。
さらに公的年金やiDeCoなどもあります。
企業年金だけを単独で見るのではなく、老後の収入と資産全体の中で位置付けることが重要です。
結論
企業年金の見える化が進んでも、運用利回りだけを見て企業年金の良し悪しを判断することはできません。
DBでは、給付額の計算方法、予定利率、積立状況、資産配分、加入者構成などを組み合わせて見る必要があります。
企業型DCでは、会社の掛金、商品ラインアップ、手数料、自分自身の運用状況などが重要です。
特に他社との比較では、一つの数字だけで判断しないことが大切です。
企業年金の目的は運用成績で他社に勝つことではなく、従業員の老後所得を安定して支えることだからです。
見える化を本当に役立てるためには、数字が公開されることだけでなく、その数字が何を意味しているのかを会社員自身が理解することが重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月25日朝刊 インフレ下の企業年金(1)「企業、給付額増を検討」