介護の苦情とカスハラは何が違うのか 正当な要望までカスハラ扱いしてはいけない理由編

人生100年時代
ブルー ベージュ ミニマル note ブログアイキャッチ - 1

介護現場でカスタマーハラスメント対策が進むと、一つの難しい問題が出てきます。

利用者や家族からの苦情とカスハラを、どこで区別するのかという問題です。

職員に対する暴言や暴力、過剰な要求から働く人を守ることは必要です。

しかし、利用者がサービスへの不満を伝えたり、改善を求めたりすることまでカスハラとして扱えば、本来守られるべき利用者の権利が損なわれる可能性があります。

介護サービスを持続可能にするには、職員を守ることと同時に、正当な苦情を受け止める仕組みも必要です。

正当な苦情とは何か

介護サービスを利用していれば、不満や疑問が生じることがあります。

例えば、予定していた時間に職員が来なかった、説明されたサービス内容と実際の内容が違った、職員の対応に問題があったといったケースです。

利用者や家族がこうした問題について説明を求めたり、改善を求めたりすることは正当な行為です。

むしろ苦情には、事業者が気づいていなかった問題を発見する役割があります。

苦情を受けて業務を改善すれば、ほかの利用者へのサービス向上にもつながります。

利用者から不満を言われたというだけで、カスハラになるわけではありません。

カスハラとの違いは要求内容だけではない

苦情とカスハラを考えるときには、何を要求しているのかだけではなく、どのように要求しているのかを見ることが重要です。

例えば、サービスに問題があったため説明を求めること自体は正当でも、その過程で職員の人格を否定する言葉を繰り返したり、長時間拘束したりすれば話は変わります。

大声で怒鳴る、脅す、土下座を要求するなど、要求を実現するための手段が社会通念上許容される範囲を超えることがあります。

反対に、利用者が強い不満を持っていても、事実関係を説明し、改善を求めるのであれば、それだけでカスハラとはいえません。

要求の内容と要求する方法の両方から考える必要があります。

介護保険でできないことを要求される場合もある

介護サービスには、契約や制度によって提供できる範囲があります。

利用者が希望することであっても、介護保険サービスとして対応できない場合があります。

その説明をしても、職員に繰り返し対応を迫ったり、断れば担当者を罵倒したりするケースが考えられます。

ここでは、利用者が希望しているかどうかと、事業者が提供する義務があるかどうかを分けて考える必要があります。

介護職員は利用者の希望を尊重する立場ですが、あらゆる要求に応じる立場ではありません。

できることとできないことを明確に説明することも、専門職としての重要な仕事です。

一回の言動だけでは判断しにくい場合もある

介護現場では、一般的な接客業より判断が難しいケースがあります。

利用者の認知機能や病気などが言動に影響している可能性があるからです。

本人に悪意がなくても、結果として職員が強い恐怖や負担を感じる場合があります。

だからといって、職員が危険な状況を我慢し続ける必要はありません。

本人の状態を考慮しながら、サービスの提供方法を変更したり、複数人で対応したりすることが必要になります。

単純に悪い利用者と悪くない利用者に分けるのではなく、職員の安全を確保しながら適切な介護を続ける方法を考えることが重要です。

現場の職員一人に判断させてはいけない

苦情なのかカスハラなのかという判断を、担当職員一人に任せることにも問題があります。

同じ言動でも、人によって受け止め方は異なります。

担当者が自分の我慢が足りないのではないかと考え、深刻な問題を報告しないことも考えられます。

反対に、正当な苦情を受けただけなのに、担当者がカスハラだと感じる可能性もあります。

そこで必要になるのが組織としての判断基準です。

どのような行為があったのか、どの程度続いたのか、職員の安全にどのような影響があるのかなどを記録し、管理者を含めて判断します。

組織で判断することで、利用者と職員の双方を守りやすくなります。

苦情を言える仕組みそのものは必要

カスハラ対策を強化するときに注意したいのは、利用者が苦情を言いにくくならないようにすることです。

介護を受ける高齢者は、サービス提供者に対して弱い立場になることがあります。

この事業所に不満を言えばサービスを受けられなくなるのではないかと心配し、問題があっても黙ってしまう可能性があります。

だからこそ、正当な苦情を受け付ける窓口と、カスハラから職員を守る仕組みの両方が必要です。

利用者が安心して意見を言え、職員も安心して働ける状態をつくることが理想です。

境界線を明確にすることが双方を守る

事業者があらかじめ対応方針を明確にしておくことも重要です。

どのような要望には対応できるのか。

どのような行為は認められないのか。

暴力や脅迫などがあった場合にはどう対応するのか。

こうしたルールを職員だけではなく、利用者や家族にも分かりやすく示しておけば、トラブルを防ぎやすくなります。

カスハラ対策とは、利用者を排除するための仕組みではありません。

双方が安心して介護サービスを利用し、提供するためのルールづくりなのです。

結論

介護現場における苦情とカスハラは、同じものではありません。

サービスの問題について説明や改善を求めることは、利用者や家族の正当な権利です。

一方で、要求の内容や方法が社会通念上許容される範囲を超え、暴言や威圧、長時間の拘束などによって職員の就業環境を害する場合には、カスハラとして対応する必要があります。

重要なのは、苦情を言ったかどうかだけで判断しないことです。

何を要求しているのか、どのような方法で要求しているのか、職員の安全や就業環境にどの程度影響しているのかを総合的に考える必要があります。

そして、その判断を現場の職員一人に背負わせてはいけません。

正当な苦情を受け止める仕組みと、不当な要求から職員を守る仕組みを同時に整える。

その境界線を明確にすることが、利用者と介護職員の双方を守り、介護サービスへの信頼を維持することにつながるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 ケアマネ8割に「カスハラ」

タイトルとURLをコピーしました