相続対策というと、多くの人は相続税の節税を思い浮かべます。
生前贈与をする。
不動産を活用する。
生命保険を利用する。
こうした対策は確かに重要です。
しかし人生100年時代を迎えた今、相続実務の現場では別の問題が増えています。
それは「財産が見つからない」という問題です。
相続税が発生する家庭よりも、相続税が発生しない家庭の方が圧倒的に多いにもかかわらず、多くの家族が財産探しに苦労しています。
これからの相続対策は節税だけではありません。
家族が困らずに財産を引き継げるよう準備する「見える化」が重要なテーマになっています。
相続税がかからなくても相続問題は起きる
国税庁の統計によれば、相続税の申告が必要になる人は亡くなった人全体の一部にすぎません。
つまり多くの家庭では節税以前の問題が中心になります。
実際の相談では、
預金口座が分からない
証券口座が見つからない
保険契約が不明
不動産資料が見当たらない
というケースが少なくありません。
財産が把握できなければ遺産分割もできません。
相続税対策以上に、財産を把握できる状態にしておくことが重要なのです。
デジタル化で財産は見えにくくなった
昔は通帳や証券会社からの郵便物がありました。
家族も自然に財産の存在を把握できました。
しかし現在は状況が大きく変わっています。
ネット銀行
ネット証券
電子マネー
ポイント
暗号資産
サブスクリプション契約
など、多くの資産がデジタル化されています。
紙の資料が届かないため、本人以外は存在すら知らないことがあります。
便利になった反面、相続人から見ると財産は見えにくくなっています。
認知症は相続より先にやってくる
人生100年時代では認知症リスクも無視できません。
実際には相続より前に問題が発生するケースが増えています。
本人が、
IDを忘れる
パスワードを忘れる
利用している金融機関を忘れる
という状態になると、家族は資産管理ができなくなります。
たとえ十分な資産があっても、利用できなければ意味がありません。
見える化は相続対策であると同時に認知症対策でもあるのです。
財産目録は現代版の家族への手紙
見える化の第一歩は財産目録です。
難しい書類である必要はありません。
例えば、
銀行名
証券会社名
保険会社名
不動産所在地
借入金
年金情報
利用している主なサービス
などを書き出しておくだけでも大きな効果があります。
重要なのは金額を正確に書くことではありません。
どこに何があるかを家族が把握できることです。
財産目録は単なる一覧表ではありません。
残された家族への思いやりでもあります。
家族信託や遺言書も見える化の延長線上にある
家族信託や遺言書は高度な相続対策と思われがちです。
しかし本質は財産の見える化にあります。
財産の内容を整理し、
誰に何を承継するのかを考え、
家族で共有する。
この過程そのものが見える化です。
制度だけ作っても家族が理解していなければ十分に機能しません。
承継準備とは書類作成だけではなく、家族との情報共有でもあります。
節税効果より家族の安心効果が大きい
相続対策という言葉には節税のイメージがあります。
しかし家族にとって本当にありがたいのは、
財産の所在が分かる
手続きが分かる
連絡先が分かる
本人の意思が分かる
という状態です。
相続税が10万円減ることよりも、相続手続きが数カ月短縮される方が家族にとって価値が大きい場合もあります。
節税は相続対策の一部に過ぎません。
家族が安心して承継できる環境づくりこそが本来の目的です。
専門家の役割も変わり始めている
税理士やFP、司法書士に求められる役割も変化しています。
これまでは、
節税
申告
登記
が中心でした。
これからは、
財産の見える化
認知症対策
家族信託
デジタル資産管理
家族会議の支援
などが重要になります。
人生100年時代の専門家は税金を計算する人ではありません。
家族が安心して資産を承継できるよう伴走する人へと役割が広がっていくでしょう。
結論
人生100年時代の相続対策は、節税だけを目的にする時代ではなくなりつつあります。
ネット証券やネット銀行などの普及によって、財産はますます見えにくくなっています。
また認知症リスクの高まりにより、相続より前の資産管理も重要な課題になっています。
だからこそ必要なのは、財産を家族が把握できる状態にしておくことです。
財産目録を作る。
家族と情報を共有する。
必要に応じて遺言書や家族信託を活用する。
こうした見える化の積み重ねが、家族の負担を減らし、安心した承継につながります。
人生100年時代の相続対策で最も大切なのは、税金を減らすことではなく、家族の不安を減らすことなのかもしれません。
参考
所長のミカタ
日本経済新聞(2026年6月19日朝刊)
「高性能AI対策『不断に法改正』 ミュトス級に対処、政府計画案 サイバー防御の体制整備」
日本経済新聞(2026年6月19日朝刊)
「医療・金融、リスク大きく」