「利益は十分に出ているのに、なぜか会社にお金が残らない。」
中小企業の経営者から、このような相談を受けることは少なくありません。
決算書では黒字なのに、銀行口座の残高は思ったほど増えていない。設備投資をした翌年から資金繰りが苦しくなった。このような現象の背景には、「減価償却」と「資金繰り」の関係があります。
減価償却は会計上の処理ですが、資金繰りを考えるうえでも非常に重要な意味を持っています。
今回は、経営者が押さえておきたい減価償却と資金繰りの関係について考えてみます。
設備投資では最初に現金が出ていく
設備投資を行うと、お金は購入時に一括で支払われます。
例えば500万円の機械を購入した場合、会社からは500万円の現金が一度に流出します。
しかし、会計ではその500万円を一度に経費にはしません。
耐用年数に応じて数年間に分けて減価償却費として計上します。
つまり、お金の動きと会計上の費用計上には大きな時間差があるのです。
この違いを理解することが、資金繰りを考える第一歩になります。
減価償却費は現金が減らない経費である
減価償却費には一つ大きな特徴があります。
それは、経費でありながら現金が出ていかないことです。
設備を購入した時点で支払いは終わっているため、その後毎年計上される減価償却費では新たな現金流出はありません。
そのため、利益を計算するときには経費になりますが、資金繰りを考える際には性質が異なります。
この違いを理解すると、利益と資金繰りを分けて考えられるようになります。
黒字でも資金繰りが苦しくなる理由
黒字倒産という言葉があります。
利益は出ているにもかかわらず、支払う現金が足りなくなり、会社が倒産してしまう状態です。
その原因の一つが設備投資です。
設備を購入した年は多額の現金が流出します。
しかし、会計上はその一部しか費用にならないため、利益は比較的高く見えることがあります。
利益だけを見ていると安心してしまいますが、実際には資金が不足していることも珍しくありません。
経営者は利益だけでなく、現金の動きも同時に確認する必要があります。
減価償却費は将来の設備更新資金でもある
減価償却費は単なる経費ではありません。
設備はいつか必ず更新しなければなりません。
そのため、毎年計上される減価償却費は、将来の設備更新に備えるための資金を確保するという意味も持っています。
減価償却費に相当する現金を日々の運転資金や不要な支出に使ってしまうと、設備を更新する時期になって資金不足に陥る可能性があります。
減価償却費は「使ってよいお金」ではなく、「将来の投資に備えるお金」という意識を持つことが大切です。
資金繰りは利益より先を見る経営管理である
利益は過去の経営成果を示します。
一方、資金繰りはこれから会社が支払いを続けられるかを示します。
経営者が毎月確認したいのは、
・現金残高は十分か
・借入金の返済は問題ないか
・設備投資の予定は適切か
・今後の資金不足は起きないか
という未来の視点です。
資金繰り表やキャッシュフローを確認する習慣があれば、問題を早い段階で発見できます。
これこそが経営管理の役割です。
経営者は利益と現金を同時に見る習慣を持とう
試算表の利益だけを見て安心する時代ではありません。
利益が出ていても現金が不足していれば、会社は成長できません。
反対に、一時的に利益が少なくても十分な資金を確保できていれば、将来への投資を積極的に進めることができます。
経営者に求められるのは、
利益を見る力
資金を見る力
投資を判断する力
この三つをバランスよく身に付けることです。
減価償却を理解することは、その三つを結び付ける大切な第一歩になります。
結論
減価償却は税務上の処理というイメージが強い制度ですが、その本質は会社の資金管理とも深く関係しています。
設備投資では現金が先に動き、会計上の費用は後から計上されます。この時間差を理解していなければ、利益だけを見て経営判断を誤る可能性があります。
だからこそ、経営者は利益だけでなく資金繰りにも目を向け、減価償却費を将来の設備更新や企業成長のための重要な情報として活用することが求められます。
会社を長く安定して成長させるためには、「利益を見る経営」と「現金を見る経営」の両方を実践することが欠かせないのです。
参考
企業実務 2026年7月号
40万円に拡充!「少額減価償却資産の特例」の実務と最適判断