二地域居住と高齢者の生活設計 人生100年時代の新しい終のすみかを考える

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人生100年時代を迎え、定年退職後の住まい方が大きく変わろうとしています。

これまでの老後の生活設計では、都市部の自宅に住み続けるか、地方へ移住するかという選択が一般的でした。

しかし、近年は都市部と地方の双方に生活拠点を持つ二地域居住が、新しい選択肢として注目されています。

60代は都市部で仕事を続けながら、週末を地方で過ごす。65歳以降は地方での滞在期間を増やし、70代には自然に囲まれた環境で趣味や地域活動を楽しむ。

こうした暮らし方に魅力を感じる人は少なくないでしょう。

2026年8月末時点で、全国二地域居住等促進官民連携プラットフォームに参画する自治体は813自治体となり、5年間で約3割増加しました。

二地域居住は、地方創生の手段としてだけでなく、高齢者自身の生活の質を高める可能性を持っています。

一方、年齢を重ねるにつれて、医療、介護、交通手段、住宅管理、家族との関係などの問題が大きくなります。

元気な60代には快適だった地方生活が、80代になっても同じように続けられるとは限りません。

今回は、二地域居住を高齢期の生活設計という観点から整理し、60代から90代までの住まい方、年金と老後資金、医療と介護、相続、そして終のすみかの選び方について考えます。

老後の住まいは都市部か地方かという二者択一ではない

従来、定年退職後の住まい方には、大きく分けて2つの選択肢がありました。

一つは、現役時代から住み慣れた都市部の自宅に住み続ける方法です。

もう一つは、地方へ移住し、新しい生活を始める方法です。

都市部には、医療機関、商業施設、公共交通機関などが充実している地域が多くあります。

一方、地方には、自然環境の豊かさや住宅費の低さ、地域住民との交流などの魅力があります。

しかし、どちらか一方を選ぶことには、それぞれ課題があります。

都市部に住み続ければ、地方での自然豊かな生活を十分に楽しめないかもしれません。

反対に、地方へ完全移住すれば、都市部で築いてきた人間関係や医療機関とのつながりが弱くなる可能性があります。

二地域居住は、こうした二者択一を避ける方法です。

都市部の生活基盤を維持しながら、地方で新しい暮らしを経験できます。

特に高齢期には、生活環境を急激に変えず、段階的に住まい方を見直せることに大きな意味があります。

60代は仕事と地方生活を両立する時期

60代の二地域居住では、仕事との両立が重要になります。

近年は、60歳以降も働き続ける人が増えています。

企業によっては、65歳以降も雇用を継続できる制度を整備しています。

こうした環境では、60歳を迎えたからといって、直ちに地方へ移住する必要はありません。

例えば、都市部の企業で週5日勤務する人が、週末や長期休暇を利用して地方で過ごす方法があります。

また、テレワークが認められている場合には、地方に滞在しながら仕事を続けることも考えられます。

この時期の二地域居住には、退職後の生活環境を事前に確認できるというメリットがあります。

地方の気候、買い物の利便性、医療機関へのアクセス、地域住民との関係などを実際に経験できます。

特に重要なのは、観光ではなく生活として地方を体験することです。

夏の避暑地として魅力的な地域でも、冬には積雪や路面凍結などの問題が生じる場合があります。

60代は、給与収入を維持しながら、将来の生活拠点を見極める準備期間として活用できるでしょう。

65歳以降は年金収入とのバランスが重要になる

65歳以降の二地域居住では、収入構造の変化に注意する必要があります。

公的年金を受給し始める人が増える一方、給与収入が減少するケースもあります。

そのため、現役時代と同じ費用をかけて二地域居住を続けることが難しくなる場合があります。

例えば、夫婦の公的年金収入が年間360万円で、税金や社会保険料を差し引いた可処分所得を仮に年間320万円とします。

都市部での基本生活費が年間280万円であれば、年間40万円の余裕があります。

ここで、地方の住宅費や交通費などに年間120万円を支出すると、年間80万円の資金不足が生じます。

不足分を金融資産から取り崩す場合、10年間で800万円、20年間で1,600万円になります。

これは運用収益や物価上昇などを考慮しない単純な試算です。

実際には、住宅修繕費や医療費、介護費などの支出も発生します。

したがって、65歳以降の二地域居住では、年間の追加費用を把握し、老後資金の取り崩し額を管理することが重要です。

二地域居住を楽しむために、将来必要となる生活資金まで使い切ってしまうことは避けなければなりません。

70代は地方での生活を充実させる時期

70代になると、仕事の時間が減り、自由に使える時間が増える人もいるでしょう。

この時期には、地方での滞在期間を延ばし、趣味や地域活動に参加することが考えられます。

例えば、家庭菜園や農業、釣り、登山、地域の文化活動などです。

また、都市部で培った知識や経験を生かして、地方企業の経営支援や地域活動に参加することも可能です。

地域住民との交流が増えれば、新しい人間関係や生きがいにつながる可能性があります。

ただし、70代では健康状態の個人差が大きくなります。

自動車の運転が難しくなる場合や、定期的な通院が必要になる場合もあります。

地方での生活を充実させるためには、趣味や自然環境だけでなく、医療機関や公共交通機関へのアクセスを確認することが重要です。

また、夫婦で二地域居住を行う場合には、双方の希望が一致しているかを確認する必要があります。

一方が地方生活を希望していても、もう一方が都市部での生活を望んでいる場合には、無理のない調整が必要です。

80代以降は終のすみかを意識する

80代以降になると、住まい方の判断基準が変わる可能性があります。

60代や70代では、自然環境や趣味を重視していた人でも、80代になると医療や介護の利便性が重要になる場合があります。

例えば、地方の住宅が山間部にあり、最寄りの病院まで自動車で30分以上かかるケースです。

自分で運転できる間は問題がなくても、運転をやめた後には通院が難しくなる可能性があります。

また、日常の買い物や金融機関での手続きなどにも支障が生じる場合があります。

そのため、80代以降の生活では、都市部の自宅を中心に戻すという選択肢も考えられます。

一方、地方で地域住民との関係が深まり、生活支援を受けやすい環境が整っている場合には、地方で暮らし続ける方法もあります。

重要なのは、年齢だけで住む場所を決めないことです。

健康状態、家族の支援、医療と介護の提供体制、交通手段などを総合的に判断する必要があります。

二地域居住を始める段階から、将来どちらの住宅を生活の中心にするのかを考えておくことが望ましいでしょう。

医療機関との関係をどう維持するのか

高齢期の二地域居住では、医療機関との関係が重要になります。

公的医療保険は、原則として全国の保険医療機関で利用できます。

そのため、都市部に住民票を置いていても、地方の医療機関で保険診療を受けることは可能です。

しかし、医療保険が利用できることと、継続的に適切な医療を受けられることは別の問題です。

例えば、高血圧や糖尿病などで定期的な診察が必要な場合には、診療情報や服薬状況を適切に管理する必要があります。

都市部と地方の双方で医療機関を利用する場合には、医師や薬剤師との情報共有が重要になります。

また、緊急時に対応できる医療機関が近くにあるかも確認する必要があります。

特に山間部では、救急医療機関までの移動に時間がかかる場合があります。

二地域居住の候補地を選ぶ際には、通常の通院だけでなく、夜間や休日の救急医療体制も確認することが重要です。

介護保険は二地域居住でどのように利用するのか

二地域居住では、介護保険制度の取り扱いにも注意が必要です。

介護保険は、原則として住民票のある市区町村が保険者となります。

例えば、東京都内に住民票を置く高齢者が、栃木県那須町にも住宅を持っている場合です。

介護保険の保険者は、原則として東京都内の住所地の市区町村になります。

ただし、一定の施設への入所などでは、住所地特例が適用される場合があります。

また、介護サービスを利用するには、要介護認定やケアプランの作成などが必要です。

地方に長期間滞在する場合には、滞在先で利用できる介護サービス事業者があるかを確認する必要があります。

特に訪問介護や通所介護などは、地域によって事業所数や受け入れ体制が異なります。

二地域居住を続けながら介護サービスを利用する場合には、保険者である市区町村やケアマネジャーなどと事前に相談することが重要です。

介護が必要になってから慌てて生活拠点を変更するのではなく、元気なうちに対応方法を考えておくことが望ましいでしょう。

高齢期には自動車への依存が大きなリスクになる

地方での生活では、自動車が重要な移動手段になることがあります。

スーパー、病院、金融機関などが離れている地域では、自動車がなければ日常生活が難しい場合もあります。

60代では問題なく運転できても、70代や80代になると運転能力が変化する可能性があります。

高齢者の交通事故を防ぐためには、運転能力を客観的に確認し、必要に応じて運転を控える判断も重要です。

しかし、地方で自動車の運転をやめると、生活の自由度が大きく低下する場合があります。

そのため、二地域居住の候補地を選ぶ際には、公共交通機関や地域の移動支援サービスを確認する必要があります。

例えば、鉄道駅やバス停が近い地域であれば、運転をやめた後も生活を続けやすい可能性があります。

また、自治体によっては、デマンド交通や高齢者向けの移動支援サービスを実施している場合があります。

住宅価格が安いという理由だけで山間部の住宅を購入すると、将来の移動手段に困る可能性があります。

高齢期の二地域居住では、現在の利便性だけでなく、運転をやめた後の生活を想定することが重要です。

住宅を2つ持つことは資産管理の負担にもなる

二地域居住では、住宅を2つ所有するケースがあります。

都市部の自宅に加え、地方にも住宅を購入する場合です。

この場合、固定資産税、火災保険料、修繕費、光熱費などが発生します。

さらに、利用していない期間にも住宅の管理が必要です。

例えば、地方の住宅を年間100日利用する場合、残りの265日は不在となります。

長期間利用しない住宅では、換気不足による湿気やカビ、給排水設備の不具合、庭木の繁茂などが問題になることがあります。

また、台風や大雪などによって住宅が損傷しても、すぐに気づけない可能性があります。

そのため、定期的な点検や管理を地元の事業者に依頼することも考えられます。

しかし、管理を委託すれば費用が発生します。

高齢期には、住宅の維持管理を自分で行うことが難しくなる可能性もあります。

二地域居住を長期間続けるためには、住宅を取得する段階から管理費用と管理方法を検討することが重要です。

地方の住宅は将来売却できるのか

高齢期の二地域居住では、住宅の売却可能性も重要な問題です。

例えば、65歳で地方の中古住宅を購入し、80歳まで15年間利用するケースです。

80歳になって地方での生活が難しくなった場合には、住宅を売却することが考えられます。

しかし、人口減少が進む地域では、住宅の買い手が見つからない可能性があります。

また、築年数が古くなることで、建物の資産価値が低下する場合もあります。

売却できなければ、利用しない住宅の固定資産税や管理費を負担し続けることになります。

さらに、所有者が亡くなった場合には、相続人が住宅を引き継ぐことになります。

相続人が地方の住宅を利用する予定がなければ、売却や管理の問題が残ります。

そのため、地方の住宅を購入する際には、将来の売却可能性や相続人の意向を確認することが重要です。

二地域居住では、住宅を購入することだけでなく、利用を終えるときの対応まで考えておく必要があります。

二地域居住と相続対策の関係

住宅を2つ所有する場合には、相続対策も重要になります。

例えば、都市部の自宅と地方の住宅を所有している人が亡くなった場合です。

両方の住宅は、原則として相続財産になります。

相続税の課税対象となるかどうかは、相続財産全体の金額や基礎控除などによって判断されます。

また、相続人が複数いる場合には、住宅をどのように分けるかが問題になることがあります。

例えば、都市部の自宅を配偶者が相続し、地方の住宅を子どもが相続するケースです。

地方の住宅を利用する予定がない子どもにとっては、固定資産税や管理費が負担になる可能性があります。

さらに、相続登記は2024年4月から義務化されています。

相続によって不動産を取得したことを知った日から、原則として3年以内に相続登記を申請する必要があります。

一定の過去の相続についても義務化の対象となっています。

二地域居住を目的に住宅を購入する場合には、将来の相続人に負担を残さないよう、早い段階から家族で話し合うことが重要です。

住宅を購入せずに二地域居住を楽しむ方法

高齢期の二地域居住では、必ずしも地方の住宅を購入する必要はありません。

むしろ、年齢を重ねるほど、住宅を所有しない方法にメリットが生まれる場合があります。

例えば、地方の賃貸住宅を利用する方法です。

住宅を購入する場合と比べて初期費用を抑えやすく、生活環境が合わなければ比較的容易に拠点を変更できます。

また、ホテルや長期滞在施設を利用する方法もあります。

この場合、住宅の維持管理を自分で行う必要がありません。

さらに、季節によって滞在先を変えることもできます。

例えば、夏は涼しい高原地域で過ごし、冬は温暖な地域で生活する方法です。

ただし、ホテルや短期賃貸住宅では、長期利用による費用負担が大きくなる場合があります。

重要なのは、所有すること自体を目的にしないことです。

高齢期には、生活環境の変化に柔軟に対応できることが大きな価値になります。

夫婦で二地域居住を行う場合の注意点

夫婦で二地域居住を行う場合には、双方の希望を確認することが重要です。

例えば、夫は地方で農業や趣味を楽しみたいと考えていても、妻は都市部の友人関係や生活環境を維持したいと考えている場合があります。

このような場合、一方の希望だけで地方の住宅を購入すると、夫婦間の負担や不満につながる可能性があります。

また、夫婦の年齢差や健康状態によって、望ましい生活環境が異なる場合もあります。

一方が仕事を続けている間、もう一方が地方で長期間生活することを希望するケースも考えられます。

二地域居住では、必ずしも夫婦が常に同じ場所で生活する必要はありません。

それぞれの仕事や生活の希望に応じて、滞在期間を調整する方法もあります。

ただし、別々の地域で過ごす時間が増える場合には、緊急時の連絡方法や健康状態の確認なども重要になります。

夫婦で二地域居住を始める際には、生活費だけでなく、家族関係や将来の介護についても話し合っておくことが望ましいでしょう。

終のすみかは何歳で決めるべきなのか

終のすみかとは、人生の最終段階まで暮らすことを想定した住まいです。

しかし、60歳や65歳の時点で、将来の住まいを完全に決める必要があるのでしょうか。

人生100年時代では、60歳から100歳まで40年間あります。

この間に、仕事、家族構成、健康状態、経済状況などが大きく変化する可能性があります。

そのため、60代の時点で終のすみかを固定することには慎重な判断が必要です。

例えば、60代は都市部と地方の二地域居住を楽しみ、70代には地方での滞在期間を増やすことが考えられます。

その後、80代になって医療や介護の必要性が高まれば、都市部の住宅に生活の中心を戻す方法もあります。

また、地方での生活が自分に合っていれば、地方を終のすみかにする選択肢もあります。

重要なのは、将来の選択肢を残しておくことです。

住宅を購入する場合でも、売却可能性や賃貸への転用などを考慮しておけば、生活環境の変化に対応しやすくなります。

終のすみかは、特定の年齢で一度決めたら変えられないものではありません。

人生の段階に応じて見直すことができる生活設計として考えることが重要です。

人生100年時代の二地域居住は段階的に考える

高齢期の二地域居住では、年齢に応じて生活拠点の使い方を変える方法が合理的です。

例えば、60代では仕事を続けながら週末を地方で過ごします。

65歳以降は、年金収入や金融資産とのバランスを確認しながら、地方での滞在期間を調整します。

70代では、趣味や地域活動を通じて地方での生活を充実させます。

80代以降は、医療や介護の利便性を重視し、必要に応じて生活拠点を見直します。

ただし、これは年齢ごとの一般的なモデルにすぎません。

実際には、健康状態や家族構成、経済状況によって最適な生活設計は異なります。

また、60代でも医療や介護の支援が必要な人がいる一方、80代でも元気に地方生活を楽しむ人もいます。

重要なのは、年齢だけで判断せず、自分の生活状況に応じて柔軟に対応することです。

二地域居住は、都市部と地方のどちらか一方に住むことを決める前に、さまざまな生活環境を経験できる仕組みでもあります。

結論

二地域居住は、人生100年時代の高齢者にとって、新しい生活設計の選択肢になります。

都市部の生活基盤を維持しながら地方で過ごすことで、自然環境や地域活動を楽しみ、新しい人間関係を築くことができます。

特に60代では、仕事を続けながら地方生活を経験し、退職後の住まい方を検討できるメリットがあります。

65歳以降は、年金収入と老後資金のバランスを考えながら、無理のない範囲で二地域居住を続けることが重要です。

70代では、地方での趣味や社会参加を充実させることが期待されます。

一方、80代以降には、医療、介護、交通手段などの問題が大きくなる可能性があります。

そのため、二地域居住を始める際には、元気な時期の生活だけでなく、将来の健康状態や家族の事情も想定する必要があります。

また、住宅を2つ所有する場合には、固定資産税、修繕費、維持管理費などの負担が発生します。

地方の住宅が将来売却できない場合には、相続人に管理負担を残す可能性もあります。

高齢期の二地域居住では、住宅を所有することよりも、生活環境の変化に柔軟に対応できることが重要です。

そのため、最初から住宅を購入するのではなく、賃貸住宅や長期滞在施設を利用して地域との相性を確認する方法も有効です。

人生100年時代では、60歳や65歳の時点で終のすみかを完全に決める必要はありません。

仕事を続ける時期、趣味や地域活動を楽しむ時期、医療や介護を重視する時期では、望ましい住環境が異なる可能性があります。

二地域居住は、こうした人生の変化に応じて、住む場所を段階的に見直すための選択肢です。

重要なのは、都市部と地方のどちらが優れているかを決めることではありません。

自分の健康状態、経済状況、家族関係、価値観に合った暮らしを実現することです。

二地域居住を通じて複数の地域と関わりながら、将来の生活拠点を柔軟に選択できることが、人生100年時代の新しい住まい方につながると考えられます。

参考

日本経済新聞 2026年10月掲載 データで読む地域再生「二地域居住」気軽に地方体験、推進自治体は3割増 担い手不足も解消

日本経済新聞 2026年10月掲載 データで読む地域再生 関東・山梨「関東・山梨の二地域居住、都市との近さ武器 山村留学やお試し滞在」

国土交通省 二地域居住等の促進に関する制度資料

厚生労働省 介護保険制度の概要

厚生労働省 公的年金制度の概要

国土交通省 高齢者の住まいに関する制度資料

法務省 相続登記の申請義務化に関する資料

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