都市部と地方の双方に生活拠点を持つ二地域居住が、子育て世帯にも新しい選択肢をもたらしています。
これまで、子どもがいる家庭にとって、地方への移住や長期滞在には大きな制約がありました。
その一つが学校教育です。
都市部の学校に通う子どもが地方で長期間生活する場合、学校を休まなければならないことがあります。転校する方法もありますが、短期間の滞在のために転校を繰り返すことは、子どもや保護者にとって大きな負担になります。
こうした課題を解決する仕組みとして注目されているのが、デュアルスクールです。
デュアルスクールは、都市部などの学校に在籍する子どもが、一定期間、別の地域の学校でも学ぶことを可能にする取り組みです。
2026年8月末時点で、全国二地域居住等促進官民連携プラットフォームに参画する自治体は813自治体となり、5年間で約3割増加しました。
二地域居住の広がりとともに、住宅や仕事だけでなく、子どもの教育環境を整えることが重要な政策課題になっています。
一方、デュアルスクールには、学校間の調整、教育課程の違い、教員の負担、保護者の費用負担など、解決すべき問題もあります。
今回は、二地域居住と子育て世帯の関係について、デュアルスクールの仕組み、地方教育への効果、自治体財政への影響、子どもへの配慮などを整理しながら考えます。
子育て世帯にとって学校が二地域居住の障壁になる
二地域居住は、都市部と地方の双方で生活できる柔軟な暮らし方です。
しかし、子育て世帯では、大人の仕事や生活だけでなく、子どもの学校生活を考える必要があります。
例えば、東京に住む会社員の家族が、夏休み以外にも地方で1カ月間生活したいと考えるケースです。
保護者がテレワークを利用できれば、地方に滞在しながら仕事を続けることは可能かもしれません。
しかし、小学生の子どもがいる場合には、学校への通学が問題になります。
都市部の学校に在籍したまま地方で生活すれば、通常は通学できません。
一方、地方の学校に正式に転校する場合には、転入学の手続きが必要になります。
さらに、都市部へ戻る際には、再び学校の手続きが必要になることがあります。
こうした負担があるため、子育て世帯では二地域居住を長期休暇中に限定するケースも考えられます。
教育環境の制約を緩和することが、子育て世帯の二地域居住を広げる重要な条件になっているのです。
デュアルスクールとはどのような制度なのか
デュアルスクールは、都市部などの学校に在籍する子どもが、一定期間、別の地域の学校でも学ぶ仕組みです。
代表的な取り組みとして知られているのが、徳島県が推進してきたデュアルスクールです。
この仕組みでは、学校や教育委員会などが連携し、子どもが通常通っている学校と、滞在先の学校との間で学習や出欠などの調整を行います。
例えば、東京の小学校に通う子どもが、保護者の地方滞在に合わせて、一定期間、地方の小学校で学ぶことが考えられます。
子どもは地方の学校で授業を受けながら、地域の自然や文化に触れることができます。
また、都市部へ戻った後は、元の学校で学習を続けることが想定されています。
ただし、デュアルスクールは、全国のどの学校でも自由に利用できる統一的な制度ではありません。
実施自治体や学校によって、受け入れ条件、対象学年、滞在期間、手続きなどが異なります。
また、住民票や学籍、出欠の取り扱いについても、関係する教育委員会や学校との調整が必要です。
利用を希望する場合には、保護者の判断だけで進めるのではなく、在籍校と滞在先の教育委員会に事前確認することが重要です。
山形県高畠町でも二地域居住と教育を結び付ける
二地域居住と学校教育を組み合わせる取り組みは、地方自治体でも注目されています。
山形県高畠町では、二地域居住を促進する取り組みの一環として、デュアルスクールの活用が進められています。
子育て世帯にとって、地方での生活を体験する際に子どもの教育を継続できることは大きな意味があります。
例えば、保護者が地方でテレワークを行い、子どもは地域の学校に通うことができれば、長期休暇以外にも地方生活を経験できる可能性があります。
地方の学校では、都市部とは異なる自然環境や地域社会に触れる機会があります。
農業や地域の伝統文化などを学ぶことも考えられます。
一方、受け入れる学校では、通常の授業に加えて新しい児童への対応が必要になります。
教員の負担や学習進度の違いなどを考慮し、無理のない受け入れ体制を整えることが重要です。
デュアルスクールを継続的な制度として運営するためには、子育て世帯の希望だけでなく、受け入れる学校の教育環境にも配慮する必要があります。
山梨県丹波山村は山村留学で地域との関係を深める
山梨県丹波山村では、人口減少への対応として、地域外の子育て世帯との関係づくりに取り組んでいます。
丹波山村は人口500人未満の小規模自治体で、村域の約97%を森林が占めています。
こうした地域では、子どもの人数が減少すると、学校教育や地域活動の維持が難しくなる可能性があります。
丹波山村では、2025年7月に二地域居住促進計画を策定しました。
2028年度までに二地域居住者を16人増やす目標を掲げています。
また、2026年度からは「丹波山式ゆるイエナ」と呼ばれる教育に関する取り組みも進めています。
これは、地域の自然や暮らしを生かしながら、子どもの学びを支える新しい教育のあり方を模索するものです。
丹波山村のような小規模自治体にとって、子育て世帯との継続的な関係は、教育環境を維持するうえでも重要な意味を持ちます。
ただし、山村留学や特色ある教育活動と、学籍や出欠を調整するデュアルスクールは、必ずしも同じ制度ではありません。
それぞれの仕組みや受け入れ条件を区別して理解する必要があります。
地方の小規模校にはどのようなメリットがあるのか
人口減少が進む地方では、児童生徒数の減少が学校運営に影響を与えています。
小規模校では、同じ学年の子どもが少なく、集団活動や学校行事の運営が難しくなる場合があります。
こうした学校に都市部から子どもが一定期間通うことになれば、新しい交流が生まれます。
例えば、普段は少人数で授業を受けている子どもたちが、都市部から来た子どもと一緒に学ぶことで、異なる考え方や生活経験に触れることができます。
また、体育や音楽、学校行事などでは、参加人数が増えることで活動の幅が広がる可能性があります。
都市部から来た子どもにとっても、少人数教育の環境で学ぶ経験は貴重です。
教員や地域住民との距離が近く、地域の自然や文化に触れる機会が増えることも考えられます。
ただし、受け入れ児童が増えれば、必ず教育環境が改善するわけではありません。
短期間で子どもが入れ替わる場合には、授業や学級運営の調整が必要になります。
また、受け入れる子どもの学習状況や生活環境を把握するため、教員の業務負担が増える可能性があります。
地方の小規模校にとって重要なのは、人数を増やすことだけではなく、教育の質を維持しながら交流を広げることです。
都市部の子どもにとって地方で学ぶ価値とは
デュアルスクールの意義は、地方の学校を支えることだけではありません。
都市部の子どもにとっても、普段とは異なる環境で学ぶ機会になります。
例えば、都市部では自然と触れ合う機会が限られる場合があります。
一方、地方では、森林、河川、農地などを身近に感じながら生活できる地域があります。
農作業や自然観察、地域の伝統行事などを通じて、教室だけでは得られない経験ができる可能性があります。
また、地域住民との交流を通じて、さまざまな世代の人々と接する機会も増えます。
こうした経験は、子どもが社会の多様性を理解するうえで役立つことが期待されます。
ただし、地方で学ぶことが、都市部で学ぶことよりも必ず優れているわけではありません。
都市部には、多様な教育施設や文化施設、専門的な学習機会などの利点があります。
重要なのは、都市部と地方のどちらかを選ぶことではなく、双方の教育環境の特徴を生かすことです。
デュアルスクールは、子どもが異なる地域の学びを経験するための選択肢として考えることが望ましいでしょう。
学校間の教育課程の違いをどう調整するのか
デュアルスクールを実施する際には、学校間の教育課程の違いが課題になります。
同じ学年であっても、学校によって授業の進度や教材、行事の予定などが異なる場合があります。
例えば、都市部の学校ではすでに学習した単元を、地方の学校ではこれから学ぶ場合があります。
反対に、地方の学校で学ぶ内容が、都市部の学校ではまだ扱われていないこともあります。
こうした違いを調整しなければ、学習内容に重複や不足が生じる可能性があります。
また、テストや成績評価についても、学校間で情報を共有する必要があります。
そのため、デュアルスクールでは、在籍校と受け入れ校の教員が事前に連携することが重要です。
子どもの学習状況や配慮事項を共有し、無理なく授業に参加できるようにする必要があります。
特に、特別な教育的支援が必要な子どもの場合には、支援体制の確認が欠かせません。
制度を広げるためには、学校間の調整を個々の教員の努力だけに依存せず、教育委員会が支援する仕組みが求められます。
子どもの人間関係への配慮も欠かせない
デュアルスクールでは、学習面だけでなく、子どもの人間関係にも注意が必要です。
都市部の学校から地方の学校へ一定期間通う場合、子どもは新しい友人関係を築くことになります。
新しい環境を楽しめる子どももいれば、慣れるまでに時間がかかる子どももいます。
また、都市部へ戻る際には、地方で親しくなった友人と離れることになります。
こうした経験が子どもの成長につながる場合もありますが、心理的な負担になる可能性もあります。
特に、短期間で学校を行き来する場合には、環境の変化が大きくなります。
そのため、保護者は子どもの希望や性格、学習状況などを十分に考慮する必要があります。
二地域居住は保護者の働き方や生活の希望から始まることが多いかもしれません。
しかし、子どもにとって望ましい教育環境であるかどうかを優先して判断することが重要です。
デュアルスクールの費用は誰が負担するのか
デュアルスクールを利用する場合、保護者にはさまざまな費用が発生する可能性があります。
例えば、地方での住宅費、都市部と地方を往復する交通費、生活用品の購入費用などです。
さらに、学校生活に必要な教材や学用品などの費用が生じる場合もあります。
ここで、具体的なモデルケースを考えます。
都市部に自宅がある4人家族が、地方に月額7万円の住宅を借りると仮定します。
年間の家賃は84万円です。
光熱費と通信費を合わせて年間18万円、交通費を年間48万円とします。
さらに、地方での生活に伴う追加費用を年間20万円と見込みます。
この場合、年間の追加支出は170万円になります。
これは仮定に基づく試算であり、実際の費用は滞在期間や地域、交通手段などによって異なります。
また、地方での食費の一部は、都市部で生活していても発生する費用です。
したがって、家計全体への影響を把握するには、追加的な支出と従来の支出から置き換わる部分を区別する必要があります。
子育て世帯の二地域居住では、教育面のメリットだけでなく、家計への負担を慎重に検討することが重要です。
受け入れ自治体の財政負担はどうなるのか
デュアルスクールは、受け入れる自治体にとっても新しい財政課題を生み出します。
例えば、都市部に住民票を置く子どもが、一定期間、地方の公立小学校で学ぶ場合です。
地方の学校では、教材や施設、教育活動などに関する費用が発生します。
一方、住民票を移さなければ、受け入れ自治体の住民基本台帳人口は増加しません。
ただし、公立学校の教職員配置や教育財政には、住民基本台帳人口だけでなく、学級数、児童生徒数、学校の設置状況など、さまざまな要素が関係しています。
そのため、二地域居住者の子どもが増えた場合の財政影響を、住民票の有無だけで判断することはできません。
また、既存の教室や設備を活用できる場合には、追加費用が比較的小さくなる可能性があります。
一方、受け入れ人数が増えれば、教員の負担軽減や支援人材の確保などが必要になる場合もあります。
自治体には、教育効果と財政負担を総合的に検証することが求められます。
子育て世帯の二地域居住は地方移住につながるのか
デュアルスクールは、将来的な地方移住のきっかけになる可能性もあります。
例えば、都市部の子育て世帯が、最初は1カ月程度の地方滞在を経験するケースです。
その後、地域の学校や生活環境に魅力を感じれば、滞在期間を延ばすことが考えられます。
さらに、仕事や住宅の条件が整えば、地方への移住を検討する場合もあるでしょう。
ただし、二地域居住を経験したすべての家庭が移住するわけではありません。
都市部での仕事や家族関係を維持しながら、地方との関係を続けたい家庭もあります。
自治体にとって重要なのは、移住者を増やすことだけを成果としないことです。
二地域居住を通じて地域の学校や住民との関係が深まり、継続的な交流が生まれることにも価値があります。
地方の教育環境を支える方法は、定住人口を増やすことだけではないのです。
デュアルスクールを持続可能な制度にする条件
デュアルスクールを広げるためには、制度を利用する家庭、送り出す学校、受け入れる学校の三者が無理なく参加できる仕組みが必要です。
まず、利用条件や手続きを明確にすることが重要です。
対象学年、滞在期間、学籍や出欠の取り扱い、教材費などを事前に確認できるようにする必要があります。
次に、学校間の情報共有を円滑にすることです。
学習進度や子どもの状況を共有し、教育の継続性を確保することが求められます。
さらに、受け入れる学校の負担を軽減することも欠かせません。
教員の善意や努力だけに依存する制度では、長期間継続することが難しくなります。
また、保護者の経済的負担にも配慮する必要があります。
二地域居住のために多額の住宅費や交通費が必要であれば、利用できる家庭が限られる可能性があります。
短期滞在施設の整備や住宅情報の提供など、教育以外の生活支援も重要です。
人生100年時代の家族と地域の新しい関係
二地域居住は、子育て世帯だけでなく、祖父母世代との関係にも影響を与える可能性があります。
例えば、都市部に住む子育て世帯が、地方に住む祖父母の近くで一定期間生活するケースです。
子どもは祖父母と交流する機会が増え、保護者にとっても家族とのつながりを維持しやすくなります。
また、祖父母が都市部に住み、子育て世帯が地方に生活拠点を設ける場合も考えられます。
二地域居住によって、家族が同じ場所に住み続けなくても、複数の地域で関係を維持できる可能性があります。
ただし、家族間の協力を前提にする場合には、育児や介護の負担が特定の人に集中しないよう注意する必要があります。
二地域居住は、家族の生活を豊かにするための選択肢であり、誰かに過度な負担を求める仕組みであってはなりません。
人生100年時代において、家族が複数の地域と関わりながら生活することは、教育や仕事、老後の生活設計にも新しい可能性をもたらすでしょう。
結論
二地域居住の広がりは、子育て世帯の暮らし方と地方教育のあり方に新しい選択肢をもたらしています。
これまで、子どもがいる家庭では、学校教育が地方への長期滞在を難しくする大きな要因となっていました。
しかし、デュアルスクールのような取り組みによって、都市部の学校に在籍しながら地方の学校でも学ぶ可能性が広がっています。
地方の小規模校にとっては、新しい児童との交流が生まれ、教育活動の幅が広がることが期待されます。
都市部の子どもにとっても、自然や地域文化に触れ、異なる環境で学ぶ貴重な経験になる可能性があります。
一方、デュアルスクールには、学校間の教育課程の調整、教員の負担、子どもの人間関係、保護者の費用負担などの課題があります。
また、受け入れ自治体にとっては、教育効果と財政負担のバランスを考える必要があります。
制度を持続可能なものにするためには、教育委員会、学校、保護者、自治体が連携し、子どもの学習と生活を継続的に支える仕組みが欠かせません。
特に重要なのは、二地域居住を保護者の希望だけで判断しないことです。
子ども自身が新しい環境で学ぶことを望んでいるか、学習や人間関係に無理が生じないかを十分に確認する必要があります。
人口減少社会では、地方の学校を維持するために定住人口を増やすことだけを目標にするのではなく、地域外の子どもや家庭との継続的な関係を築くことも重要になります。
デュアルスクールは、都市部と地方の教育環境を対立させるものではありません。
それぞれの地域が持つ教育資源を生かし、子どもの学びの選択肢を広げる仕組みです。
二地域居住が子育て世帯にとって現実的な選択肢となるためには、住宅や仕事の支援だけでなく、教育制度の柔軟性を高めることが求められます。
そして、子どもたちが複数の地域で学び、さまざまな人々と交流する経験を積むことができれば、将来の地域社会を支える新しい関係人口の形成にもつながるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年10月掲載 データで読む地域再生「二地域居住」気軽に地方体験、推進自治体は3割増 担い手不足も解消
日本経済新聞 2026年10月掲載 データで読む地域再生 関東・山梨「関東・山梨の二地域居住、都市との近さ武器 山村留学やお試し滞在」
文部科学省 区域外就学に関する制度資料
徳島県 デュアルスクールに関する制度資料
国土交通省 二地域居住等の促進に関する制度資料
山梨県丹波山村 二地域居住促進計画 2025年7月