二地域居住と働き方改革 テレワークが変える都市と地方の関係

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都市部と地方の双方に生活拠点を持つ二地域居住が、新しい働き方と結び付いて広がっています。

従来、会社員は勤務先への通勤を前提として住む場所を選ぶことが一般的でした。東京都内の企業に勤務するのであれば、東京やその周辺に住む必要がありました。

しかし、情報通信技術の発達とテレワークの普及によって、働く場所と住む場所を必ずしも一致させる必要がなくなってきました。

平日は都市部のオフィスで働き、週末は地方で過ごす。あるいは、月の半分を都市部、残りの半分を地方で働く。こうした柔軟な働き方が可能になっています。

2026年8月末時点で、全国二地域居住等促進官民連携プラットフォームに参画する自治体は813自治体となり、5年間で約3割増加しました。

二地域居住は、地方への人の流れを生み出すだけでなく、企業の人材確保、従業員の働きがい、地域経済の活性化にも影響を与える可能性があります。

一方、企業側には労務管理、情報セキュリティ、通勤費、労働災害など、新しい実務上の課題が生じます。

今回は、二地域居住と働き方改革の関係について、テレワークやワーケーションとの違い、企業と従業員のメリット、労務管理上の注意点、地方経済への影響などを整理しながら考えます。

テレワークが働く場所の制約を変えた

テレワークとは、情報通信技術を活用し、時間や場所を有効に利用できる柔軟な働き方です。

自宅で仕事をする在宅勤務、外出先などで働くモバイル勤務、サテライトオフィスでの勤務などがあります。

従来、会社員は毎日オフィスに出勤することを前提としていました。

そのため、勤務先から通勤できる範囲に住宅を確保する必要がありました。

しかし、テレワークを活用すれば、オフィスから離れた場所でも一定の業務を行うことができます。

例えば、東京の企業に勤務する会社員が、栃木県那須町の住宅からオンライン会議に参加し、資料作成や顧客対応を行うことが考えられます。

業務内容によっては、地方に滞在しながら都市部の仕事を継続できます。

これは、地方で生活するために転職や退職をする必要がなくなることを意味します。

もっとも、すべての仕事がテレワークに適しているわけではありません。

製造現場、医療、介護、物流、接客など、現場での対応が必要な業務では、働く場所を自由に選ぶことが難しい場合があります。

二地域居住の普及には、業務内容に応じた柔軟な働き方の整備が重要になります。

二地域居住とワーケーションは何が違うのか

二地域居住と似た言葉にワーケーションがあります。

ワーケーションは、仕事を意味するワークと休暇を意味するバケーションを組み合わせた言葉です。

観光地や地方の滞在施設などで、仕事と休暇を組み合わせて過ごす働き方を指します。

例えば、会社員が1週間ほど地方のホテルに滞在し、平日はオンラインで仕事をしながら、休日には観光を楽しむケースです。

一方、二地域居住は、主な生活拠点とは別の地域にも生活拠点を設け、継続的に行き来する暮らし方です。

ワーケーションが比較的短期間の滞在を中心とするのに対し、二地域居住では地域との継続的な関係が重視されます。

ただし、両者は対立する概念ではありません。

ワーケーションをきっかけに地域の魅力を知り、その後、二地域居住を始める人も考えられます。

例えば、最初は年に数回のワーケーションで地方を訪れ、次に月単位の賃貸住宅を利用し、最終的に地方にも生活拠点を設けるという流れです。

自治体にとっては、短期滞在から継続的な地域参加へと関係を深めてもらう仕組みが重要になります。

和歌山県白浜町は空港とテレワーク環境を活用する

二地域居住と働き方改革を組み合わせた事例として、和歌山県白浜町の取り組みがあります。

白浜町は、南紀白浜空港を活用して都市部からの滞在需要を取り込もうとしています。

宿泊事業者などと連携し、テレワーク設備を備えた滞在施設の整備を進めています。

南紀白浜空港の搭乗者数については、2029年度に30万人とし、2024年度比で約3割増やす目標を掲げています。

白浜町の強みは、観光地としての魅力に加え、航空機による都市部とのアクセスを確保していることです。

例えば、東京に勤務先がある会社員でも、業務上必要なときには都市部へ移動し、それ以外の日は地方で仕事をすることが考えられます。

ただし、航空機を利用する二地域居住では、交通費が大きな負担になる場合があります。

また、悪天候による欠航や交通機関の遅延なども考慮する必要があります。

企業が二地域居住を認める場合には、出社が必要な業務への対応方法や移動費用の負担について、事前にルールを定めることが重要です。

企業が二地域居住を認めるメリット

二地域居住は、従業員だけでなく企業にもメリットをもたらす可能性があります。

第一に、人材確保の選択肢が広がることです。

勤務地を都市部のオフィスに限定しなければ、地方に生活拠点を持つ人材も採用しやすくなります。

また、家庭の事情などで地方に滞在する必要がある従業員についても、雇用を継続できる可能性があります。

第二に、従業員の働きがいや満足度の向上です。

生活環境を柔軟に選択できれば、仕事と家庭生活、趣味などを両立しやすくなる場合があります。

第三に、地域との新しい事業機会の創出です。

従業員が地方に滞在することで、地域企業や自治体との接点が生まれる可能性があります。

例えば、都市部の情報通信企業の従業員が地方で生活するなかで、地域企業のデジタル化に関する課題を知ることも考えられます。

こうした接点が、新しい商品やサービスの開発につながる場合もあるでしょう。

ただし、二地域居住を認めるだけで生産性が向上するとは限りません。

企業には、業務成果の評価方法や情報共有の仕組みを整えることが求められます。

二地域居住では労働時間管理が重要になる

企業が二地域居住を認める場合、まず確認すべきなのが労働時間の管理です。

テレワークであっても、原則として労働基準法などの労働関係法令が適用されます。

自宅や地方の滞在先で働く場合でも、労働時間を適切に把握する必要があります。

例えば、地方の住宅で午前中に仕事を行い、午後は私用で外出し、夜に再び仕事をするケースを考えます。

この場合、実際に働いた時間を正確に把握しなければ、時間外労働や休憩時間の管理が難しくなります。

また、業務時間外にメールやチャットへの対応を求められる場合には、労働時間に該当するかどうかが問題になることがあります。

企業は、始業時刻と終業時刻の記録、休憩時間の管理、時間外労働の承認などについて、明確なルールを設ける必要があります。

Microsoft Teamsなどのオンラインツールを利用する場合でも、接続状況だけで実際の労働時間を正確に判断できるとは限りません。

重要なのは、勤務場所にかかわらず、適切な労働時間管理を行うことです。

通勤費と交通費の取り扱いはどうなるのか

二地域居住では、都市部と地方の移動に伴う交通費が大きな問題になります。

例えば、東京の企業に勤務する従業員が、栃木県那須町にも住宅を持つ場合です。

会社が東京のオフィスへの出社を求めたとき、那須町から東京までの交通費を誰が負担するのでしょうか。

通常、通勤手当の支給条件は、企業の就業規則や賃金規程などによって定められています。

二地域居住を認める場合には、どちらの住宅を通勤の起点とするのか、交通費をどこまで支給するのかを明確にする必要があります。

また、税務上も注意が必要です。

通勤手当には、一定の要件と限度額の範囲内で所得税が非課税となる制度があります。

しかし、企業が支給する交通費のすべてが非課税になるわけではありません。

実際の通勤経路、交通手段、合理的な運賃などを踏まえて判断する必要があります。

さらに、業務命令による出張と、従業員の私的な都合による二地域間の移動では、費用の性質が異なります。

企業は、通勤費、出張旅費、私的な移動費を区分し、給与課税の取り扱いを含めて整理することが重要です。

二地域居住と労働災害の関係

テレワークでは、勤務場所で事故が発生した場合の労働災害の取り扱いにも注意が必要です。

例えば、地方の住宅で仕事をしている最中に転倒して負傷した場合です。

業務に起因する災害であれば、勤務場所が自宅や地方の住宅であっても、労災保険の対象となる可能性があります。

一方、私的な生活行為によって発生した事故は、通常、業務災害には該当しません。

例えば、業務時間中であっても、私用で行った家事などに伴う事故については、業務との関係を個別に判断する必要があります。

また、都市部と地方を移動する際の事故についても、通勤災害に該当するかどうかは、移動の目的や経路などによって異なります。

二地域居住者の移動がすべて通勤災害の対象になるわけではありません。

企業には、テレワークの勤務場所を把握し、安全衛生上の注意事項を周知することが求められます。

従業員側も、勤務場所の安全性や通信環境などを確認する必要があります。

情報セキュリティ対策は欠かせない

二地域居住を伴うテレワークでは、情報セキュリティの確保も重要です。

例えば、地方の住宅やコワーキングスペースで、顧客情報や企業の機密情報を取り扱う場合です。

通信環境が十分に保護されていなければ、情報漏えいのリスクが高まる可能性があります。

また、共用スペースでオンライン会議を行う場合には、会話の内容が周囲に聞こえることも考えられます。

企業には、端末管理、通信の暗号化、アクセス権限の設定、情報の保存方法などについて、適切な対策が求められます。

さらに、従業員が私物のパソコンや外部記憶媒体を利用する場合には、情報管理上の問題が生じる可能性があります。

生成AIの利用についても、機密情報や個人情報を外部サービスに入力する際のルールを整備する必要があります。

二地域居住を認める企業では、勤務場所の自由度を高める一方、情報管理の基準を明確にすることが重要です。

二地域居住は地方企業の人材不足を補えるか

二地域居住の普及は、地方企業の人材確保にも影響を与える可能性があります。

地方の中小企業では、経理、財務、法務、情報通信、マーケティングなどの専門人材を確保することが難しい場合があります。

一方、都市部には、こうした分野で経験を積んだ人材が集まっています。

二地域居住を通じて都市部の専門人材が地方と関われば、地域企業の経営課題を解決する機会が生まれます。

例えば、都市部の企業で経営管理を経験した人が、地方の中小企業に対して業務改善や資金繰り管理の助言を行うことが考えられます。

また、情報通信分野の経験者が、地元企業のデジタル化を支援することも可能です。

こうした支援は、必ずしも常勤雇用を前提とする必要はありません。

業務委託や短期間のプロジェクトなど、柔軟な関わり方も考えられます。

ただし、企業に副業禁止規定がある場合には、勤務先の許可なく外部業務を行うことはできません。

また、税務、法律、社会保険などの専門業務については、資格や法令上の制約にも注意が必要です。

二地域居住者の専門知識を地域経済に生かすためには、適切な契約関係と責任分担を整えることが重要です。

副業と二地域居住の関係

二地域居住と副業を組み合わせる働き方にも注目が集まっています。

例えば、平日は都市部の企業で働き、週末は地方で農業や観光関連の仕事をするケースです。

また、都市部で培った専門知識を生かし、地方企業の経営支援を行うことも考えられます。

こうした働き方は、個人にとって収入源を増やす機会となり、地方にとっては人材不足を補う手段になります。

しかし、副業を行う場合には、勤務先の就業規則や労働契約を確認する必要があります。

企業によっては、副業を許可制としていたり、競業や利益相反を防ぐための制限を設けたりしています。

また、複数の企業に雇用される場合には、労働時間の通算などが問題になることがあります。

一方、業務委託契約による副業では、雇用契約とは異なる取り扱いになります。

所得税の申告や社会保険の取り扱いについても、所得の種類や契約形態によって判断が異なります。

二地域居住をきっかけに副業を始める場合には、勤務先の規定、契約内容、税務上の取り扱いを事前に確認することが重要です。

地方のコワーキングスペースが果たす役割

二地域居住を支える施設として、コワーキングスペースの整備も進んでいます。

コワーキングスペースとは、複数の利用者が共同で利用できる仕事場です。

インターネット環境や会議室などを備え、個人事業主や企業の従業員などが利用します。

地方の住宅では、十分な仕事用スペースを確保できない場合があります。

また、家族と同じ空間で仕事をすることが難しいケースもあります。

こうした場合、コワーキングスペースを利用すれば、仕事と私生活を分けやすくなります。

栃木県那須町では、地域との関係を促進する取り組みの一環として、コワーキング施設「ワークベース那須」の利用料金を割り引く仕組みを設けています。

こうした施設は、単に仕事をする場所としてだけでなく、地域の人々や他の二地域居住者との交流拠点にもなります。

ただし、施設の整備には初期投資や維持管理費が必要です。

利用者が少なければ、自治体や運営事業者の負担が大きくなる可能性があります。

そのため、施設の稼働率や地域経済への効果を検証しながら運営することが重要です。

二地域居住は企業の生産性を高めるのか

二地域居住を認めることで、企業の生産性が向上する可能性もあります。

例えば、従業員が自分に合った環境で働くことができれば、仕事への集中力や満足度が高まる場合があります。

また、通勤時間を減らすことで、仕事や家庭生活に使える時間が増える可能性があります。

一方、対面での情報共有が減少すると、意思疎通が難しくなる場合もあります。

特に、新入社員の教育や複雑な業務の調整などでは、対面でのコミュニケーションが重要になることがあります。

したがって、二地域居住を認めることが、すべての企業や従業員にとって生産性向上につながるとは限りません。

重要なのは、業務内容に応じて出社とテレワークを適切に組み合わせることです。

また、勤務場所や勤務時間だけでなく、業務の成果や品質を適切に評価する仕組みも必要です。

企業が二地域居住を導入する際には、従業員の満足度だけでなく、生産性、情報共有、顧客対応などへの影響を継続的に検証することが求められます。

人生100年時代の働き方と二地域居住

二地域居住は、60歳以降の働き方を考えるうえでも重要な選択肢になります。

かつては、60歳前後で定年退職し、その後は仕事から離れるという生活設計が一般的でした。

しかし、現在では65歳以降も働き続ける人が増えています。

企業によっては、70歳まで働ける制度を整備している場合もあります。

こうした環境では、現役時代と退職後の生活を明確に分ける必要はなくなってきています。

例えば、60代は都市部で仕事を続けながら、週末や休暇に地方で過ごすことが考えられます。

65歳以降は勤務日数を減らし、地方での滞在期間を増やす方法もあります。

さらに、退職後は都市部で培った知識や経験を生かし、地方企業の経営支援や地域活動に参加することも可能です。

ただし、高齢期には健康状態や家族の事情が変化する可能性があります。

そのため、二地域居住を始める際には、将来の医療や介護、交通手段なども考慮する必要があります。

人生100年時代において、二地域居住は仕事から引退するための仕組みではなく、働き方と暮らし方を段階的に変えていくための選択肢といえるでしょう。

結論

二地域居住の普及は、都市部と地方の関係だけでなく、日本の働き方そのものを変える可能性があります。

従来、会社員は勤務先への通勤を前提として住む場所を選ぶことが一般的でした。

しかし、テレワークの普及によって、働く場所と住む場所を柔軟に組み合わせることが可能になっています。

二地域居住を活用すれば、都市部の仕事を維持しながら地方で生活することができます。

企業にとっても、人材確保や従業員の働きがいの向上、新しい事業機会の創出などが期待されます。

一方、二地域居住を伴うテレワークでは、労働時間管理、通勤費、労働災害、情報セキュリティなど、実務上の課題があります。

企業は、勤務場所の自由度を高めるだけでなく、労務管理や情報管理の仕組みを整える必要があります。

また、二地域居住は地方企業の人材不足を補う可能性も持っています。

都市部で経験を積んだ人材が、地方企業の経営支援や地域活動に参加することで、新しい経済活動が生まれることも期待されます。

ただし、こうした活動には勤務先の副業規定や専門業務に関する法令上の制約があるため、適切な対応が必要です。

人生100年時代では、60歳や65歳を境に仕事と生活を完全に切り離すのではなく、年齢や健康状態に応じて働き方を変えていくことが重要になります。

二地域居住は、そのための有力な選択肢の一つです。

これからの働き方改革では、単にテレワークを認めるだけでなく、従業員が自分に合った生活環境を選びながら、能力を発揮できる仕組みを整えることが求められます。

そして、都市部と地方の双方で働き、暮らし、地域社会に関わる人が増えれば、地方創生にも新しい可能性が生まれるでしょう。

二地域居住の本質は、働く場所を自由にすることだけではありません。

仕事と生活の関係を見直し、個人の人生設計と地域社会の持続可能性を両立させることにあります。

参考

日本経済新聞 2026年10月掲載 データで読む地域再生「二地域居住」気軽に地方体験、推進自治体は3割増 担い手不足も解消

日本経済新聞 2026年10月掲載 データで読む地域再生 関東・山梨「関東・山梨の二地域居住、都市との近さ武器 山村留学やお試し滞在」

国土交通省 二地域居住等の促進に関する制度資料

厚生労働省 テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン

厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン

総務省 テレワークの推進に関する資料

観光庁 ワーケーションの推進に関する資料

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