二地域居住と地域経済の活性化 観光客から地域の担い手へ変わる人の流れ

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人口減少と高齢化が進む地方では、地域経済をどのように維持していくかが大きな課題となっています。

商店や飲食店の利用者が減少し、農業や観光業では人手不足が深刻化しています。地域の祭りや伝統行事を維持することさえ難しくなっている自治体もあります。

こうした状況で注目されているのが、都市部と地方の双方に生活拠点を持つ二地域居住です。

2026年8月末時点で、全国二地域居住等促進官民連携プラットフォームに参画する自治体は813自治体となり、5年間で約3割増加しました。

従来の地方創生では、観光客を増やすことや都市部からの移住者を獲得することが重視されてきました。

しかし、観光客は短期間で地域を離れ、移住者を増やすことも容易ではありません。

一方、二地域居住者は、地域を繰り返し訪れ、消費するだけでなく、仕事や地域活動に参加することができます。

都市部で培った知識や経験を地方に持ち込み、新しい事業を始める人もいます。

今回は、二地域居住が地域経済に与える影響について、観光客との違い、地域内消費、起業、農業や観光業の人手不足対策、地域金融機関の役割などを整理しながら考えます。

観光客と二地域居住者は何が違うのか

地方経済の活性化策として、これまで多くの自治体が観光振興に取り組んできました。

観光客が増えれば、宿泊施設、飲食店、土産物店、交通機関などの売上が増加します。

観光は地域外から資金を呼び込む重要な産業です。

しかし、観光客の消費は滞在期間に集中する傾向があります。

例えば、週末に2泊3日で訪れる観光客は、宿泊や飲食などにお金を使いますが、旅行が終われば地域との関係が途切れることも少なくありません。

一方、二地域居住者は、年間を通じて同じ地域を繰り返し訪れます。

地域のスーパーで日用品を購入し、地元の飲食店を利用し、住宅の修繕を地元業者に依頼することもあります。

さらに、地域の人々との交流を通じて、農作業や地域行事に参加する場合もあります。

つまり、観光客が主として地域のサービスを利用する存在であるのに対し、二地域居住者は地域の生活や経済活動に継続的に関わる存在になり得るのです。

もっとも、観光客と二地域居住者のどちらが経済的に優れているかを一概に判断することはできません。

観光客は短期間でも宿泊費などに多額の支出を行う場合があります。

重要なのは、観光客による短期的な消費と、二地域居住者による継続的な経済活動を組み合わせることです。

二地域居住者の地域内消費を試算する

二地域居住者が地域経済に与える効果を、具体的な数字で考えてみます。

例えば、ある地方自治体に1,000人の二地域居住者がいると仮定します。

1人当たりの年間滞在日数を60日、地域内での1日当たり消費額を5,000円とします。

この場合、1人当たりの年間消費額は30万円です。

1,000人では年間3億円になります。

さらに、二地域居住者が2,000人に増えれば、年間6億円の地域内消費が生まれる計算です。

これは仮定に基づく単純な試算であり、実際の経済効果を示すものではありません。

また、地域内消費のすべてが地域経済に残るわけでもありません。

例えば、地域のスーパーで購入した商品の仕入れ代金は、地域外の企業に支払われる場合があります。

一方、地元の農産物や地域内で提供されるサービスを購入すれば、地域内に残る付加価値が大きくなる可能性があります。

したがって、二地域居住者の消費額を増やすだけでなく、地域内で生産された商品やサービスを利用してもらうことが重要です。

地域経済の活性化では、消費額の大きさとともに、その資金が地域内でどれだけ循環するかが問われます。

栃木県那須町では二地域居住者が新しい事業を生み出す

二地域居住が地域経済に与える効果を考えるうえで、栃木県那須町の事例は参考になります。

那須町は全国的に知られる観光地ですが、近年は商店の減少などの課題を抱えています。

こうした地域で、都市部と地方を行き来する人が新しい事業を始めています。

東京で産業医として働く女性は、2023年に那須町でカフェを開業しました。

健康に配慮した軽食や手作りパンなどを提供し、当初は週末を中心に週3日営業していました。

その後、営業日を週5日まで拡大しています。

この事例で注目したいのは、二地域居住者が地域の消費者にとどまらず、事業者になっていることです。

都市部で仕事を続けながら、地方で新しい事業を展開することで、地域に新たなサービスが生まれます。

店舗が増えれば、地域住民の買い物や飲食の選択肢が広がります。

また、地元の農産物を仕入れたり、地域住民を雇用したりすれば、地域経済への波及効果も期待できます。

ただし、すべての二地域居住者が起業に適しているわけではありません。

事業を継続するには、顧客の確保、資金繰り、労務管理などが必要です。

自治体や地域金融機関には、二地域居住者の事業活動を継続的に支援する役割が求められます。

都市部の人材が地方に持ち込む経営資源

二地域居住の大きな特徴は、都市部の人材が地方に新しい経営資源を持ち込めることです。

都市部には、金融、情報通信、会計、法務、医療、教育、経営管理など、さまざまな分野の専門人材が集まっています。

こうした人々が二地域居住を通じて地方と関われば、地域企業の経営課題を解決する機会が生まれます。

例えば、都市部で経理や財務の仕事を経験した人が、地方の中小企業に資金繰りや経営管理の助言を行うケースが考えられます。

情報通信分野の経験者であれば、地元企業のデジタル化やインターネット販売を支援することもできます。

また、マーケティングの経験者が地域産品の販路拡大に協力することも考えられます。

地方企業にとっては、専門人材を正社員として採用することが難しい場合があります。

そのため、二地域居住者が業務委託や短期間のプロジェクトなどを通じて関わる仕組みには可能性があります。

ただし、専門的な業務には資格や法令上の制約がある場合があります。

例えば、税務代理や税務書類の作成などは税理士法上の規制を受けます。

二地域居住者の専門知識を活用する場合にも、業務範囲や責任関係を明確にすることが重要です。

農業の人手不足を二地域居住者が補う

地方の人手不足が特に深刻なのが農業です。

農業では、田植え、収穫、出荷など、特定の時期に多くの人手が必要になります。

一方、年間を通じて同じ人数の従業員を雇用することが難しい農業経営者もいます。

こうした状況で、二地域居住者が農作業に参加する仕組みが注目されています。

広島県庄原市では、農作業や地域行事を体験できる「庄原さとやま留学」などを通じて、地域外の人が農村生活に関わる機会を設けています。

稲刈りなどの農作業に参加することで、地域の人手不足を補う効果が期待されます。

都市部の人にとっても、農業を体験することは地方生活への理解を深める機会になります。

ただし、農業の人手不足を二地域居住者だけで解決できるわけではありません。

農作業には専門的な知識や技能が必要な場合があります。

また、繁忙期に安定して人材を確保できるとは限りません。

継続的な労働力として活用する場合には、適切な報酬、労働条件、安全管理などを整える必要があります。

二地域居住者を単なる無償労働力として扱うのではなく、地域の農業を共に支える人材として受け入れることが重要です。

地域の祭りや伝統行事を支える役割

地方では、人口減少や高齢化によって、祭りや伝統行事の担い手不足も深刻になっています。

地域の祭りは、単なる観光イベントではありません。

住民同士の交流を促し、地域の歴史や文化を次世代に継承する役割があります。

しかし、若年人口が減少すれば、行事の準備や運営を担う人材が不足します。

こうした活動に二地域居住者が参加すれば、地域の担い手を補うことができます。

例えば、祭りの準備、会場設営、広報活動、来場者の案内などです。

都市部でイベント運営や情報発信を経験した人が協力すれば、従来とは異なる方法で地域行事を支援できる可能性もあります。

ただし、地域行事には長年受け継がれてきた慣習や役割分担があります。

地域外から来た人が一方的に運営方法を変えようとすれば、住民との摩擦が生じる可能性があります。

二地域居住者には、地域の文化や価値観を尊重しながら関わる姿勢が求められます。

地域住民と二地域居住者が互いの立場を理解し、信頼関係を築くことが継続的な参加につながります。

地域内でお金が循環する仕組みが重要になる

二地域居住による経済効果を高めるためには、地域内でお金が循環する仕組みが必要です。

例えば、二地域居住者が地方の住宅を改修する場合を考えます。

改修工事を地域外の大手事業者に依頼すれば、工事代金の多くが地域外に流出する可能性があります。

一方、地元の工務店や設備業者に依頼すれば、地域内で仕事が生まれます。

さらに、地元事業者が地域内の資材やサービスを利用すれば、経済効果が広がる可能性があります。

飲食店や小売店でも同様です。

二地域居住者が地域の農産物や加工品を購入すれば、生産者の所得向上につながります。

また、地元企業のサービスを継続的に利用すれば、安定した需要を生み出すことができます。

ただし、地域内での調達を優先することが常に合理的とは限りません。

価格、品質、納期などを考慮する必要があります。

重要なのは、地域内の事業者が二地域居住者の需要に対応できるよう、商品やサービスの魅力を高めることです。

デジタル技術が地域との継続的な関係を支える

二地域居住者との関係を継続するためには、デジタル技術の活用も重要です。

栃木県那須町では、伊藤忠テクノソリューションズと連携して「ふるさとアプリ」を開発しました。

町外に住民票を置く人が、町内の飲食店やスーパーなどの協力店舗を利用し、店頭の2次元コードを読み取るとポイントがたまる仕組みです。

一定のポイントに応じて商品やサービスなどの特典を受けられます。

コワーキング施設の利用料金を半額にする特典も用意されています。

登録者は3,000人近くとなり、2029年度末までに1万人へ増やす計画です。

この仕組みの特徴は、地域への訪問を継続的な行動につなげようとしている点です。

観光客は旅行が終わると地域との関係が途切れることがあります。

しかし、アプリを通じて地域の店舗やサービスとの接点を維持できれば、再訪のきっかけをつくることができます。

また、自治体は利用状況を分析することで、二地域居住者の行動を把握しやすくなります。

ただし、登録者数だけでは政策効果を判断できません。

実際の訪問回数、地域内消費額、地域活動への参加状況などを把握することが重要です。

二地域居住は地方の雇用を増やすのか

二地域居住者が増えれば、地域内の需要が拡大し、雇用が生まれる可能性があります。

例えば、飲食店や小売店の利用者が増えれば、営業時間の延長や従業員の増員につながる場合があります。

また、住宅の改修や維持管理の需要が増えれば、建設業や不動産関連業の仕事が増える可能性があります。

さらに、二地域居住者自身が起業すれば、新しい雇用が生まれることも考えられます。

しかし、需要が増えたからといって、必ず雇用が増えるわけではありません。

地方では、すでに人手不足が深刻な地域もあります。

売上が増えても、従業員を確保できず、事業を拡大できない場合があります。

また、季節によって需要が大きく変動する地域では、安定した雇用を維持することが難しい場合もあります。

二地域居住による経済効果を雇用につなげるには、地域企業の生産性向上や人材確保策と組み合わせる必要があります。

地域金融機関には新しい役割が求められる

二地域居住の普及は、地方銀行や信用金庫などの地域金融機関にとっても新しい事業機会になります。

例えば、二地域居住者が地方で住宅を購入する場合には、住宅取得や改修のための資金需要が生まれます。

また、地方で飲食店や宿泊施設などを開業する場合には、創業資金が必要になります。

地域金融機関は、融資だけでなく、事業計画の策定や販路開拓、地元企業とのマッチングなどを支援できます。

さらに、都市部で専門的な経験を持つ二地域居住者と、経営課題を抱える地元企業を結び付ける役割も期待されます。

例えば、事業承継に悩む中小企業に対して、都市部の経営人材を紹介することも考えられます。

地域金融機関が持つ企業情報や地域ネットワークを活用すれば、二地域居住者の知識や経験を地域経済に結び付けやすくなります。

ただし、金融機関が人材紹介や経営支援を行う場合には、関係法令や利益相反管理などに配慮する必要があります。

地域金融機関には、資金の供給者という従来の役割に加え、人材や事業機会を結び付ける役割が求められています。

二地域居住の経済効果をどう測定するのか

自治体が二地域居住政策を推進する際には、成果を客観的に検証することが重要です。

従来の地方創生では、観光客数や移住者数などが主要な指標として使われてきました。

しかし、二地域居住では、単純な人数だけでは経済効果を把握できません。

例えば、年間1回しか訪れない登録者が1,000人いる場合と、年間100日滞在する人が100人いる場合を考えます。

前者の延べ滞在日数が1人当たり3日であれば、合計3,000日です。

一方、後者は合計1万日になります。

登録者数は前者の方が多いものの、延べ滞在日数は後者の方が大きくなります。

もちろん、滞在日数が長ければ必ず経済効果が大きいとは限りません。

地域内消費額や地域活動への参加状況なども考慮する必要があります。

そのため、自治体には登録者数、延べ滞在日数、地域内消費額、事業創出件数、地域活動への参加状況などを組み合わせた評価が求められます。

さらに、事業に投入した補助金や施設整備費などと比較し、費用対効果を検証することも必要です。

二地域居住者を受け入れる地域側の課題

二地域居住者を増やすためには、地域側の受け入れ体制も重要です。

例えば、都市部から訪れた人が地域活動に参加したいと考えても、参加できる機会が分からなければ行動につながりません。

また、地域住民との接点が少なければ、継続的な関係を築くことも難しくなります。

そのため、自治体や地域団体には、二地域居住者と地域住民をつなぐ役割が求められます。

地域の農作業、祭り、清掃活動、事業支援などの情報を提供し、参加希望者と受け入れ先を結び付ける仕組みが必要です。

一方、地域住民の側にも、二地域居住者を受け入れるための負担が生じる場合があります。

新しい参加者への説明や調整、活動の安全管理などが必要になるためです。

地域外の人を受け入れることが、既存住民の過度な負担にならないようにすることも重要です。

二地域居住を持続可能な取り組みにするには、地域住民と二地域居住者の双方にメリットがある仕組みを構築する必要があります。

人生100年時代の新しい社会参加の形

二地域居住は、定年退職後の社会参加という観点からも注目されます。

現役時代に企業で培った知識や経験を、退職後に地域活動へ生かしたいと考える人もいるでしょう。

例えば、経理や財務の経験者が地域の中小企業の経営管理を支援することが考えられます。

営業経験者が地域産品の販路開拓に協力することもできます。

また、教育や医療、情報通信などの専門知識を持つ人が、地域の課題解決に参加することも可能です。

こうした活動は、地域にとって人材不足を補う効果が期待できるだけでなく、本人にとっても社会とのつながりや生きがいにつながります。

ただし、退職後の地域活動では、無理のない活動量を維持することが重要です。

高齢期には健康状態や家族の事情が変化する可能性があります。

そのため、二地域居住を通じた社会参加では、長期間の拘束を前提とせず、自分の体力や生活状況に応じて関われる仕組みが望ましいでしょう。

人生100年時代において、二地域居住は住む場所を増やすだけでなく、社会との関わり方を広げる選択肢にもなるのです。

結論

二地域居住の普及は、地方経済に新しい人の流れを生み出す可能性があります。

従来の観光振興では、地域外から訪れる人の消費を増やすことが重視されてきました。

一方、二地域居住では、地域を繰り返し訪れる人が、消費者だけでなく、事業者や地域活動の担い手になることが期待されています。

栃木県那須町では、二地域居住者がカフェを開業し、地域住民の生活を支える事例が生まれています。

広島県庄原市では、農作業や地域行事への参加を通じて、地域外の人材と地域社会を結び付ける取り組みが進められています。

こうした活動は、人口減少が進む地方にとって重要な意味を持ちます。

ただし、二地域居住者の人数が増えるだけで、地域経済が自動的に活性化するわけではありません。

地域内で消費や仕事が生まれ、その経済効果が地元企業や住民に広がる仕組みが必要です。

また、二地域居住者が継続的に地域活動へ参加できるよう、自治体や地域団体による受け入れ体制の整備も欠かせません。

地域金融機関には、資金調達だけでなく、人材や事業機会を結び付ける役割も期待されます。

さらに、政策の成果を評価する際には、登録者数だけでなく、滞在日数、地域内消費、事業創出、地域活動への参加などを総合的に把握することが重要です。

人口減少社会では、定住人口を増やすことだけで地域経済を維持するのは難しくなっています。

これからの地方創生では、住民票の所在地にかかわらず、地域に継続的に関わる人々を増やすことが重要になるでしょう。

二地域居住の本質は、都市部の人を地方に呼び込むことだけではありません。

地域外の人材が持つ知識、経験、資金、人脈などを地域の経済活動に結び付け、新しい価値を生み出すことにあります。

観光客として地域を訪れる段階から、地域経済や地域社会を共に支える段階へと関係を深めることができれば、二地域居住は地方創生の有力な手段になると考えられます。

参考

日本経済新聞 2026年10月掲載 データで読む地域再生「二地域居住」気軽に地方体験、推進自治体は3割増 担い手不足も解消

日本経済新聞 2026年10月掲載 データで読む地域再生 関東・山梨「関東・山梨の二地域居住、都市との近さ武器 山村留学やお試し滞在」

国土交通省 二地域居住等の促進に関する制度資料

総務省 ふるさと住民登録制度に関する資料

内閣官房 地方創生に関する政策資料

農林水産省 農村関係人口の創出と拡大に関する資料

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