銀行から事業資金を借りるとき、経営者が「この事業は必ず成功します」と説明するだけでは十分ではありません。
いくら売れるのか。
どのくらい費用がかかるのか。
いつ利益が出るのか。
借りたお金をどのように返すのか。
こうした将来の姿を具体的な数字にしたものが事業計画です。
特に2026年5月に始まった企業価値担保権では、不動産などの資産だけでなく、企業が将来どれだけキャッシュフローを生み出せるかが重要になります。
その将来性を金融機関へ説明するためにも、事業計画が重要な役割を果たします。
事業計画とは何か
事業計画とは、会社が今後どのような事業を行い、どのように売上や利益を生み出していくのかを具体的に示した計画です。
単に将来の売上高を並べたものではありません。
どのような商品やサービスを販売するのか。
誰に販売するのか。
市場はどのくらいあるのか。
競合企業との違いは何か。
どのくらいの設備投資が必要なのか。
どのような人材を採用するのか。
そして、その結果として売上や利益、キャッシュフローがどう変化するのかを示します。
会社の将来像を言葉と数字で表したものと考えると分かりやすいでしょう。
なぜ銀行は事業計画を見るのか
銀行が融資するお金は、将来返済してもらわなければなりません。
現在の決算書だけを見ても、将来返済できるかどうかは分かりません。
例えば現在の売上高が1億円の会社が、5000万円を借りて新工場を建設するとします。
銀行が知りたいのは、工場そのものの話だけではありません。
新工場によって生産量はどのくらい増えるのか。
その商品を買う顧客はいるのか。
売上はいくら増えるのか。
利益はいくら増えるのか。
5000万円を返済できるだけの現金を生み出せるのか。
こうしたことを確認する必要があります。
その判断材料になるのが事業計画です。
売上計画とは何か
事業計画の中心となる数字の一つが売上計画です。
例えば現在の売上高が1億円の会社が、
1年後は1億2000万円
2年後は1億5000万円
3年後は2億円
という計画を作ったとします。
重要なのは、数字を大きくすることではありません。
なぜ売上が増えるのかを説明することです。
例えば新店舗を2店舗出す。
新規顧客を100社獲得する。
新商品を発売する。
販売地域を全国へ広げる。
生産能力を増やす。
こうした具体的な行動と売上計画がつながっている必要があります。
売上は単価と数量に分けて考える
売上計画を作るときには、売上高をさらに分解すると分かりやすくなります。
基本的には、
販売数量と販売単価
の組み合わせです。
例えば1個1000円の商品を年間10万個販売すれば、売上高は1億円です。
翌年の売上を1億5000万円に増やすのであれば、
販売数量を15万個に増やすのか。
販売単価を1500円に上げるのか。
数量と単価の両方を変えるのか。
という具体的な計画が必要になります。
単に売上を50パーセント増やすというだけでは、計画の実現可能性を判断しにくいからです。
利益計画とは何か
売上が増えても利益が増えるとは限りません。
例えば売上を増やすために大幅な値下げをすれば、利益率が下がる可能性があります。
新店舗を開けば家賃や人件費が増えます。
新工場を建設すれば減価償却費なども発生します。
そこで事業計画では、売上だけでなく費用も予測します。
売上高から仕入原価や人件費、家賃、広告費などを差し引き、どのくらい利益が残るのかを計算します。
銀行は売上の大きさだけではなく、その事業が利益を生み出せる構造になっているかを確認します。
資金計画も必要になる
利益計画だけでは十分ではありません。
会社経営では現金の動きも重要だからです。
例えば新店舗を開くために5000万円必要だとします。
内装工事に2000万円。
設備に1500万円。
保証金などに500万円。
開業後の運転資金として1000万円。
この5000万円をどのように調達するのかを考えます。
自己資金で2000万円を出し、銀行から3000万円借りるという方法もあります。
さらに借りた3000万円を何年間で返済するのかを考えます。
事業計画と資金計画はセットです。
利益が出ても返済できるとは限らない
銀行が事業計画を見るときに重要なのがキャッシュフローです。
会計上の利益が出ていても、現金が不足することがあるからです。
例えば商品を販売して売上を計上しても、代金の入金が3カ月後なら、その間は現金が入りません。
在庫を大量に購入すれば現金が先に出ていきます。
設備投資でもまとまった現金が必要になります。
銀行への返済は現金で行います。
そのため事業計画では、利益だけでなく将来の資金繰りまで考える必要があります。
数字には根拠が必要になる
事業計画では、楽観的な数字を並べるだけでは意味がありません。
例えば現在1億円の売上を3年後に5億円にするとします。
銀行は、
なぜ5倍になるのですか
と考えます。
市場が5倍になるのか。
店舗を増やすのか。
販売地域を拡大するのか。
すでに大口契約が決まっているのか。
生産能力は対応できるのか。
必要な人材を採用できるのか。
こうした根拠が必要です。
事業計画では数字そのものよりも、その数字がどのような前提から作られているのかが重要になります。
計画通りにならない場合も考える
事業は必ず計画通り進むわけではありません。
売上が予想より少なくなることがあります。
原材料価格が上昇することがあります。
採用が予定通り進まないこともあります。
そのため、事業計画では悪いケースも考えておくことが重要です。
例えば売上が計画より20パーセント少なくても借入金を返済できるのか。
原材料価格が10パーセント上昇したら利益はどうなるのか。
開業が半年遅れたら資金は足りるのか。
こうしたケースを考えることで、事業の弱点が見えてきます。
企業価値担保権では特に重要になる
2026年5月に始まった企業価値担保権では、会社の事業全体の価値が重要になります。
金融機関が評価するのは現在の不動産だけではありません。
ブランドがあります。
技術があります。
顧客基盤があります。
ノウハウがあります。
そして、それらを使って将来どれだけキャッシュフローを生み出せるのかを見ます。
その将来キャッシュフローを具体的な数字として示すのが事業計画です。
そのため企業価値担保権を利用する企業と金融機関は、事業計画について深く話し合う必要があります。
Kokageでは銀行と何度も面談した
参考記事では、クラフトジン製造のKokageが企業価値担保権に基づく融資を受けた事例が紹介されています。
同社は融資を受けるにあたり、週1回の頻度で東邦銀行の担当者などと面談を繰り返しました。
会社側だけで事業計画を作って銀行へ提出して終わりではありません。
金融機関と何度も対話しながら計画を確認したわけです。
企業側にとっては時間も手間もかかります。
しかし経営者自身が事業の将来を数字で整理する機会にもなります。
事業計画は銀行のためだけではない
事業計画というと、銀行から融資を受けるために作る書類と思われがちです。
しかし本来は経営者自身のためのものでもあります。
どの商品を伸ばすのか。
いつ設備投資するのか。
何人採用するのか。
いつ資金不足になる可能性があるのか。
どの程度の売上があれば黒字になるのか。
こうしたことを数字にすることで、経営判断がしやすくなります。
さらに実績と計画を毎月比較すれば、経営上の問題を早く発見できます。
事業計画は作って銀行へ提出したら終わりではありません。
経営を管理するために継続的に利用することが重要です。
結論
事業計画とは、会社が今後どのような事業を行い、どのように売上や利益、キャッシュフローを生み出していくのかを具体的な数字と言葉で示したものです。
銀行が融資を判断するときには、現在の決算書だけではなく、借りた資金を使って企業が将来どれだけ現金を生み出せるのかを見る必要があります。
そのため売上計画、利益計画、投資計画、資金計画などを組み合わせて考えます。
重要なのは、大きな数字を並べることではありません。
なぜその売上を実現できるのか。
なぜその利益を確保できるのか。
どのように借入金を返済するのか。
一つ一つの数字に合理的な根拠が必要です。
2026年5月に始まった企業価値担保権では、企業が将来生み出す価値がこれまで以上に重要になります。
その価値を金融機関と共有するための共通言語になるのが事業計画です。
事業計画は銀行からお金を借りるためだけの書類ではありません。
経営者自身が会社の未来を数字で考え、その実現可能性を確認するための経営の設計図なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 小さくても勝てる 企業価値担保に借り入れ 資産に頼らずブランド評価