銀行の目利き力とは何か 決算書だけでは会社の将来性を判断できない理由編

経営

銀行が会社へお金を貸すとき、決算書は重要な判断材料になります。

売上はいくらあるのか。

利益はいくら出ているのか。

借入金はいくらあるのか。

純資産はどのくらいあるのか。

こうした数字を調べれば、会社の現在の財務状態をある程度把握できます。

しかし、それだけで会社の将来性まで分かるわけではありません。

決算書には十分に表れない技術、ブランド、顧客基盤、経営者の能力などがあるからです。

こうした会社の本当の強みや将来性を見極める能力が、銀行の目利き力です。

2026年5月に始まった企業価値担保権では、この目利き力がこれまで以上に重要になります。

銀行の目利き力とは何か

銀行の目利き力とは、企業の財務数字だけでなく、事業内容や競争力、将来性などを理解し、融資先としての価値やリスクを判断する能力です。

もともと目利きという言葉は、品物の価値を正しく見抜く能力を表します。

金融機関の場合は、会社の事業価値を見抜く力と考えると分かりやすいでしょう。

現在の決算書だけを見るのではありません。

その会社が5年後、10年後にも利益を生み出せるのかを考えます。

決算書は過去の数字である

決算書には非常に重要な情報が記載されています。

しかし基本的には、一定期間の経営活動の結果や決算日時点の財政状態を表すものです。

例えば前期の売上高が10億円だったとします。

その数字から前期に10億円を売り上げたことは分かります。

しかし来期も10億円売れるかどうかは分かりません。

主要顧客との契約が終了するかもしれません。

新商品が大ヒットするかもしれません。

競合企業が撤退して注文が増えることもあります。

決算書は企業を見るための重要な資料ですが、それだけで未来を判断できるわけではありません。

同じ利益でも会社の価値は違う

例えばA社とB社が、それぞれ年間5000万円の利益を出しているとします。

決算書の利益だけを見ると、同じような会社に見えるかもしれません。

しかしA社は成長市場で事業を行っています。

独自技術を持ち、新規顧客も増えています。

一方のB社は市場そのものが縮小しています。

主要顧客も減っています。

現在の利益は同じ5000万円でも、将来のキャッシュフローまで同じとは限りません。

銀行が長期間のお金を貸すなら、現在の5000万円だけではなく、その利益が将来も続くのかを見る必要があります。

技術力を見る

製造業では技術力が企業価値を左右することがあります。

例えば特殊な金属加工を行う会社があるとします。

決算書を見ると、工作機械の金額は確認できます。

しかし、その会社がどれほど高度な加工技術を持っているかまでは分かりません。

同じ機械を持つ競合企業が簡単に同じ製品を作れるのか。

熟練した技術者が必要なのか。

大手企業から長期間にわたって指名されているのか。

こうしたことを確認する必要があります。

場合によっては銀行員が工場を訪問し、製造現場を見ることも重要になります。

ブランドを見る

ブランドも決算書だけでは十分に把握できない価値です。

例えば地域で非常に人気のある食品会社があるとします。

長年の営業によって固定客が多く、新商品を発売するとすぐに売れるとします。

そのブランド力は将来の売上につながります。

しかし、自社で長年育ててきたブランドの経済的価値が貸借対照表にそのまま表示されているとは限りません。

金融機関が企業価値を見るのであれば、

リピーターはどのくらいいるのか

競合商品より高い価格で販売できているのか

販売地域を広げられるのか

新商品にもブランド力を生かせるのか

といったことまで考える必要があります。

顧客基盤を見る

顧客基盤も重要です。

例えば売上高が同じ1億円の会社が二つあるとします。

A社は100社と継続的に取引しています。

B社は1社だけで売上の8割を占めています。

現在の売上高は同じでも、リスクは異なります。

B社は主要顧客との取引を失えば、売上が急減する可能性があります。

反対に長期契約を結んだ顧客が多数いる会社なら、将来の売上を比較的予測しやすくなります。

売上高という一つの数字だけではなく、その売上がどこから生まれているのかまで見ることが目利きにつながります。

経営者を見る

中小企業では、経営者の能力が会社の将来を大きく左右することがあります。

同じ商品を扱っていても、経営者によって会社の成長速度が違うことがあります。

市場の変化を理解しているか。

自社の弱点を把握しているか。

数字を適切に管理しているか。

従業員を育成できているか。

問題が起きたときに金融機関へ正直に説明できるか。

こうした点も重要になります。

ただし、単に経営者の人柄が良いというだけでは融資判断には不十分です。

経営者が示す事業計画と実際の数字が整合しているかを見る必要があります。

事業計画の実現可能性を見る

例えば経営者が、

3年後に売上を現在の3倍にします

と説明したとします。

目利き力が必要になるのはここからです。

市場規模は十分にあるのか。

生産能力を3倍にできるのか。

必要な人材を採用できるのか。

販売先を確保できるのか。

追加投資はいくら必要なのか。

競合企業はどう動くのか。

こうしたことを確認しなければなりません。

数字が大きい事業計画を高く評価するのではなく、その数字に合理的な根拠があるかを見ることが重要です。

現場を見ることが重要になる

会社の価値を理解するには、書類だけでは分からないことがあります。

参考記事では、金属加工業のマツダツールが枚方信用金庫から企業価値担保権に基づいて1600万円を借り入れた事例が紹介されています。

担保権を設定する前には、信用金庫の職員が同社の業務内容や課題などを理解するため、3日間の現場研修を受けています。

銀行員が実際の会社の中に入り、事業を理解するわけです。

工場を見る。

従業員の仕事を見る。

商品を見る。

経営者から話を聞く。

こうした活動によって、決算書だけでは分からない企業の強みや課題を理解できます。

企業価値担保権で目利き力が重要になる

不動産担保融資では、担保となる土地や建物の価値が重要になります。

もちろん企業の返済能力も審査しますが、万一返済できなくなった場合には担保から回収できる可能性があります。

企業価値担保権では、会社の事業全体の価値が重要になります。

将来キャッシュフロー。

技術。

ブランド。

顧客基盤。

ノウハウ。

人材。

事業計画。

こうしたものを総合的に見なければなりません。

つまり、担保となる不動産を評価する能力だけでは足りなくなります。

会社が将来どれだけ価値を生み出せるかを判断する能力が必要になります。

目利きを間違えるリスクもある

もちろん銀行の判断が必ず正しいわけではありません。

有望だと思った市場が縮小することがあります。

高く評価した技術が別の技術に置き換えられることもあります。

期待した新商品が売れないこともあります。

経営者の事業計画が実現しない場合もあります。

将来性を見るということは、それだけ不確実性を引き受けることでもあります。

そのため金融機関は、融資時点の目利きだけに頼ることはできません。

融資後も企業をモニタリングし、事業計画と実績を比較する必要があります。

目利きとモニタリングはセットになるわけです。

中小企業側にも説明する力が必要になる

銀行に目利き力が必要だからといって、企業側が何もしなくてよいわけではありません。

むしろ企業側には、自社の価値を銀行へ説明する能力が求められます。

なぜ自社の商品が選ばれるのか。

競合企業との違いは何か。

主要顧客との関係はどうなっているのか。

技術をどのように利益につなげているのか。

今後どのくらいキャッシュフローを生み出せるのか。

こうしたことを数字と事実を使って説明します。

金融機関の目利き力と企業の説明力の両方があって初めて、事業価値を中心とした融資が機能します。

結論

銀行の目利き力とは、決算書や担保だけではなく、企業の事業内容や競争力、将来性を理解して融資先としての価値とリスクを判断する能力です。

決算書は企業を見るための重要な資料ですが、それだけでは会社の未来は分かりません。

技術があります。

ブランドがあります。

顧客基盤があります。

経営者の能力があります。

事業計画があります。

こうした要素が将来キャッシュフローにつながるのかを判断する必要があります。

2026年5月に始まった企業価値担保権では、不動産など個別資産だけではなく事業全体の価値を踏まえた融資が重要になります。

そのため金融機関には、企業の現場に入り、経営者と対話し、将来性を見極める能力がこれまで以上に求められます。

一方、企業側にも自社の強みを数字と言葉で説明する力が必要です。

決算書を読む銀行から、会社の事業を読む銀行へ。

企業価値担保権の普及は、銀行員に求められる能力そのものを変えていく可能性があるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 小さくても勝てる 企業価値担保に借り入れ 資産に頼らずブランド評価

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