会社で予算未達が発生すると、「誰の責任なのか」という話になりがちです。
営業部門の売上が予算を下回れば営業部長の責任、製造原価が予算を上回れば工場長の責任、と考えたくなるかもしれません。
しかし、その人が自分では動かすことのできない数字まで責任を負わせると、適切な経営管理にはなりません。
たとえば原材料の市場価格が急騰したとしても、現場の担当者が市場価格そのものを下げることはできません。
一方、主要得意先への訪問回数が減って販売数量が落ちたのであれば、営業部門の行動によって改善できる可能性があります。
予算管理では、単に予算と実績の差を見るだけでなく、「この数字は誰が動かせるのか」を考えることが重要です。
この考え方と深く関係するのが責任会計です。
なお、参考記事では責任会計という用語そのものについて詳しく説明しているわけではありません。ここでは、記事で示されている管理できる要因と管理できない要因という考え方をもとに、責任会計との関係を整理します。
責任会計とは何か
責任会計とは、会社の業績を部門や責任者ごとに把握し、それぞれが管理できる範囲を明確にして業績管理に利用する考え方です。
会社全体の売上や利益は、さまざまな部門の活動によって生まれます。
営業部門は顧客への販売を担当します。
製造部門は製品を作ります。
購買部門は原材料などを仕入れます。
それぞれ担当する業務が違うため、自分たちが影響を与えられる数字も違います。
そこで、会社全体の数字を一括して見るだけではなく、誰がどの数字に対して影響を与えられるのかを考えます。
重要なのは、単純に責任者を決めて責めることではありません。
責任と権限の範囲を対応させながら、改善できる数字を明確にすることです。
責任センターという考え方
責任会計では、組織を責任の単位に分けて考えることがあります。
こうした単位は一般に責任センターと呼ばれます。
ただし、参考記事では責任センターという分類自体は扱われていません。
一般的な責任会計では、費用について責任を持つ部門、売上について責任を持つ部門、利益について責任を持つ部門など、担当する業務や与えられた権限に応じて管理対象を考えます。
たとえば営業所長が販売活動を管理しているのであれば、販売数量や営業活動について一定の責任を持つことが考えられます。
一方、その営業所長に商品の製造原価を決定する権限がなければ、製造原価のすべてについて同じように責任を求めるのは適切ではありません。
誰がどの数字を動かせるのか。
その範囲を考えることが責任会計では重要になります。
管理できる数字と管理できない数字
参考記事では、予実管理におけるアクションについて、自分たちの手で動かせる要因に絞ることが重要だと説明されています。
たとえば、売上が予算を40万円下回ったとします。
原因を調べると、主力製品の販売数量が減少していました。
さらに原因を掘り下げると、主要得意先への訪問回数が繁忙を理由に半分になっていました。
顧客への訪問回数であれば、営業部門の行動によって変えられる可能性があります。
訪問予定を組み直す。
重要顧客への訪問を優先する。
訪問回数を元に戻す。
こうした改善策を実行できます。
つまり、営業部門にとって比較的管理可能な要因です。
責任会計でも、このように責任者が実際に影響を与えられる数字なのかを見ることが重要になります。
管理できない外部要因もある
一方、会社や担当者では直接変えることのできない要因もあります。
参考記事では、原料の高騰や天候不順などが例として挙げられています。
営業担当者がどれだけ努力しても天候そのものを変えることはできません。
購買担当者が努力しても、世界的な原材料価格の上昇そのものを止めることはできません。
こうした要因によって予算と実績に差が生じた場合、それをすべて担当者の努力不足として扱ってしまうと、差異の本当の原因が見えなくなります。
予算未達という結果だけを見て責任を判断するのではなく、その差異がどのような原因によって発生したのかを確認する必要があります。
管理できないことと対応できないことは違う
ただし、外部要因だから何の責任もないという単純な話でもありません。
原材料の市場価格そのものは変えられなくても、その変化にどう対応するかについては会社側で考えられる場合があります。
仕入先を変更する。
仕入条件を交渉する。
使用する材料を見直す。
販売価格を改定する。
こうした対応の中には、会社が実行できるものがあります。
天候そのものは変えられなくても、天候に合わせて在庫や販売方法を調整できる場合があります。
つまり、
原因そのものを管理できるのか
その原因への対応を管理できるのか
を分けて考えることが重要です。
参考記事でも、管理できない要因について対応の余地は残されているとしています。
権限がなければ責任も考え直す必要がある
責任会計を考えるうえでは、責任だけでなく権限も重要になります。
たとえば営業部長に「利益を増やしてください」と要求したとします。
しかし、営業部長には販売価格を決める権限がないとします。
値引きの承認権限もありません。
商品の品ぞろえを決める権限もありません。
人員配置も変更できません。
この状態で利益のすべてについて責任だけを負わせても、改善できる範囲には限界があります。
責任を持たせるのであれば、その数字を動かすために必要な権限も考える必要があります。
予算管理では、単に「担当者だから責任がある」と考えるのではなく、その人が実際に何を決められるのかを見ることが重要です。
予算未達を単純な責任追及にしない理由
予算管理が責任追及の道具になると、現場では数字が悪化した理由を説明することに意識が向きやすくなります。
「市場環境が悪かった」
「天候が悪かった」
「他部署の対応が遅かった」
自分の責任ではないことを説明する会議になってしまう可能性があります。
参考記事では、予実会議を反省会で終わらせるのではなく、次の行動を決める作戦会議に変えることが重要だとしています。
責任会計についても同じように考えることができます。
誰が悪かったのかを決めることだけが目的ではありません。
誰が何を変えられるのかを明確にして、改善につなげることが重要です。
誰が動かせる数字なのかを考える
予実会議では、差異が見つかったら「誰の責任か」と聞く前に、「誰がこの原因を動かせるのか」と考える方法があります。
参考記事の例であれば、主要得意先への訪問回数が減っていました。
そこで、上位10社への訪問を月2回に戻すという具体的な行動を決めています。
そして、その担当者を営業部長としています。
ここでは、
何をするのか
誰がするのか
いつまでにするのか
が明確になっています。
単に営業部門全体へ「もっと頑張ってください」と要求する場合とは大きく違います。
責任者を明確にする目的は、責任追及ではなく、アクションを確実に実行することにあります。
翌月にアクションを確認する
責任者を決めたら、実行されたかどうかを確認する必要があります。
参考記事では、翌月の予実会議について、数字を見る前に先月決めたアクションを検証することから始めると説明されています。
上位10社への訪問を月2回に戻したのか。
実際に実行したのであれば、販売数量はどう変化したのか。
効果があれば続けます。
効果がなければ別の対策を考えます。
ここで責任者を決めているからこそ、誰がアクションを実行するのかが曖昧になりません。
予算管理と責任会計を結びつける意味は、数字の責任者を決めて叱ることではなく、改善行動の担当者を明確にするところにあります。
結論
責任会計とは、会社の業績について、誰がどの数字に影響を与えられるのかを考えながら管理する考え方です。
予算管理では、予算と実績を比較すると差異が発生します。
しかし、その差異のすべてを担当者の責任として扱うことは適切ではありません。
顧客への訪問回数など、自分たちの行動によって変えられる要因があります。
一方、原材料価格の高騰や天候不順など、担当者では直接変えられない要因もあります。
重要なのは、予算未達を見つけた瞬間に誰かを責めることではありません。
原因を掘り下げ、その中から自分たちが動かせるものを見つけることです。
そして、何を、誰が、いつまでに行うのかを決め、翌月に結果を確認します。
責任とは、悪い数字の責任を誰かに押しつけるためのものではありません。
改善できる数字と、その数字を動かせる人を結びつける。
それが予算管理と責任会計を組み合わせて考える大きな意味なのです。
参考
企業実務 2026年9月号 猫と学ぶ経理力の磨き方 第9話 頑張りますで終わらせたら予実管理ちゃうで