不動産価格が上がっているのになぜREITは低迷するのか 市場創設25年で問われるJ REITの仕組み編

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マンションやホテル、オフィスなどの不動産価格が上昇しています。

それなら、不動産を保有するREITの価格も上がりそうに思えます。

ところが、日本のREIT市場では逆の現象が起きています。

現物不動産の価格が高騰する一方、REITは保有する不動産の価値を下回る価格で取引される状態が続いています。

なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。

REITとは何か

REITとは、不動産投資信託のことです。

投資家から集めた資金などを使って、オフィス、住宅、商業施設、物流施設、ホテルといった不動産を取得します。

そこから得られる賃料収入や不動産の売却益などを、投資家に分配する仕組みです。

個人が大型のオフィスビルやホテルを直接購入するには多額の資金が必要です。

REITを利用すれば、投資口を購入することで少額から間接的に不動産へ投資できます。

日本では2001年に東京証券取引所にJ REIT市場が創設されました。

市場創設から25年を迎え、現在では58銘柄が上場しています。

不動産価格とREIT価格は同じではない

ここで重要なのが、現物不動産の価格が上昇すれば、必ずREITの投資口価格も上昇するわけではないということです。

REITの価格は取引所で決まります。

つまり、不動産そのものの価値だけでなく、投資家がREITをどの程度買いたいと思っているかによって価格が大きく変わります。

現在のJ REIT市場の時価総額は合計約16兆円です。

一方、保有する不動産の取得価格は合計約25兆円に達します。

単純比較はできませんが、REIT市場に対する投資家の評価が、保有する不動産の規模に比べて低くなっている状況が見えてきます。

NAV倍率とは何か

REITが割安かどうかを見る代表的な指標がNAV倍率です。

NAVは、REITが保有する不動産などの資産から負債を差し引いて算出する純資産価値です。

NAV倍率は、株式でいうPBRに近い指標と考えると分かりやすいでしょう。

NAV倍率が1倍を下回るということは、市場で評価されているREITの価値が、そのREITの純資産価値を下回っていることを意味します。

現在のJ REIT市場ではNAV倍率1倍割れが常態化しています。

記事によると9日時点では、58銘柄すべてが1倍を下回っています。

不動産価格が上昇しているにもかかわらず、それを保有しているREITが市場から十分に評価されていないのです。

なぜ割安なら買収されないのか

普通の上場会社であれば、保有資産に比べて株価が極端に安くなると、その割安さに注目した投資家が株式を取得することがあります。

場合によってはTOBなどによる買収や非公開化につながります。

これによって極端に割安な企業が市場から退出することが、市場の新陳代謝につながります。

ところが、日本のREITではこの仕組みが十分に働いていません。

背景にあるのが、日本独特のREITの構造です。

日本のREITは不動産を持つ箱

日本のREITを理解するうえで重要なのが、投資法人そのものは不動産を保有する箱に近い存在だという点です。

投資信託法によって従業員を雇用することが禁止されています。

そのため、不動産の取得や売却、賃料交渉、物件管理などの実際の業務は外部の資産運用会社などに委託します。

そして資産運用会社には、不動産会社、金融機関、鉄道会社などのスポンサーが出資していることが一般的です。

つまり、日本のREITは投資法人だけを見ても完結しません。

投資法人、資産運用会社、スポンサーという関係まで見る必要があります。

この仕組みは市場を安定させる役割を果たしてきた一方、スポンサーの垣根を越えた再編を難しくする要因にもなっています。

日本のREITは安定分配を重視して成長した

日本でJ REIT市場が誕生した2001年ごろは、バブル崩壊後の不動産市場が低迷していました。

不動産を証券化し、幅広い投資家から資金を呼び込むことには大きな意味がありました。

REITの投資家には、安定した分配金を求める地方銀行などの金融機関や個人投資家が増えていきました。

その結果、日本のREIT市場では投資口価格を大きく上昇させることよりも、安定した分配金を出し続けることが重視されてきました。

市場創設当時には合理的だった仕組みが、25年後の現在では成長を妨げる側面を持ち始めているのです。

米国REITとの違い

米国のREIT市場ではM&Aが比較的活発です。

割安になったREITが買収されたり、非公開化されたりすることがあります。

さらに投資対象も変化してきました。

従来型のオフィスや商業施設だけではありません。

データセンター、通信基地局、高齢者施設などのヘルスケア関連不動産といった、新しい成長分野へ投資対象を広げています。

REITを単に既存の不動産を保有して賃料を受け取る仕組みではなく、時代に合わせて投資対象を変化させる事業体として発展させてきたわけです。

日本ではオフィスなど従来型不動産の存在感が依然として大きく、制度上の制約もあって新しい成長資産を取り込みにくいという問題があります。

金利3パーセント時代がREITを変える

さらにJ REITを取り巻く環境を大きく変えているのが金利上昇です。

長期金利は30年ぶりに3パーセントを上回る水準まで上昇しました。

金利が極めて低かった時代には、REITの比較的高い分配金利回りには大きな魅力がありました。

ところが、安全性の高い債券などからも一定の利回りを得られるようになると状況が変わります。

投資家はREITに投資する際、単に分配金利回りが高いかどうかだけではなく、金利リスクや価格上昇の可能性まで考えるようになります。

日本株や海外株などとの競争も激しくなります。

REITも安定分配だけでは投資資金を呼び込みにくい時代になったのです。

REIT自身も改革を進めている

REIT側も何もしていないわけではありません。

保有物件を改修して賃料を引き上げたり、収益性の低い不動産を売却したりする取り組みを進めています。

不動産証券化協会によると、2025年のREITによる物件譲渡額は8246億円となり、2024年から約2割増えて過去最高となりました。

売却によって得た資金を投資家への還元などに利用すれば、資本効率を改善できます。

ただし、個々のREITの努力だけでは解決できない問題もあります。

市場を支える制度そのものが25年前の環境を前提としているからです。

市場創設25年で制度改革が問われる

今後の論点になるのが、REITを単なる不動産保有の箱からどこまで変えられるかです。

例えば、REITによる物件開発を認めやすくすることが考えられます。

成長が期待できる不動産を自ら開発できれば、既存物件から賃料を得るだけではない成長戦略を描けます。

また、備品レンタルなど賃料以外の収入を得やすくして収益源を多角化することも考えられます。

さらに、スポンサーの枠を越えたM&Aや再編が進みやすい市場をつくることも重要な論点です。

日本では一定の要件を満たして利益の90パーセント超を分配するなどすれば、投資法人段階で実質的に法人税負担を回避できる仕組みがあります。

この税制が高い分配金を支える一方、利益を内部に残して成長投資に回すこととの両立を難しくする面もあります。

市場創設時には強みだった仕組みを、金利のある時代に合わせて再検討する必要が出てきています。

結論

現物不動産の価格が上昇しているのにJ REITが低迷しているのは、単純に不動産の価値が低いからではありません。

REITの価格は、不動産価値だけでなく、金利、成長期待、資本効率、制度、スポンサーとの関係などによって決まります。

日本のJ REIT市場は2001年の創設以来、安定した分配金を提供する市場として成長してきました。

しかし、長期金利が3パーセントを超える時代には、安定した利回りだけで投資家を引き付けることが難しくなります。

NAV倍率1倍割れが市場全体に広がっている状況は、単なる割安のサインではなく、投資家がJ REITの将来の成長力や制度そのものに厳しい評価を下しているとも考えられます。

不動産を保有して分配金を出すだけの市場から、資産を入れ替え、新しい分野へ投資し、必要ならM&Aによって再編する市場へ変われるのか。

市場創設25年は、J REITの役割そのものを考え直す節目になりそうです。

参考

日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 不動産高騰でもREIT低迷

日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 よろい脱ぎ、時代に合った変革を

日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 REIT(不動産投資信託)

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