不動産の含み損とは何か 金利上昇が資産価値に与える影響編

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不動産投資では、購入した物件からどれだけ賃料収入を得られるかが重要です。

しかし、もう一つ見逃せないのが不動産そのものの価値です。

購入後に不動産価格が上昇すれば含み益が生まれます。反対に、現在の価値が帳簿上の価格を下回れば含み損を抱えることになります。

特に注意したいのが金利上昇局面です。

金利が上昇するとREITの借入コストが増えるだけではありません。不動産投資家が求める利回りが上昇することで、不動産価格そのものに下落圧力がかかる場合があります。

今回は、不動産の含み損とは何か、鑑定評価額やキャップレートとどのような関係があるのか、そしてREITの財務にどのような影響を与えるのかを見ていきます。

不動産の含み損とは

含み損とは、保有資産の現在価値が帳簿上の価格を下回っている状態です。

例えばREITが100億円で取得した不動産について考えます。

その後、不動産市場が悪化し、現在売却すれば80億円程度になるとします。

単純化すると20億円の価値下落が生じています。

まだ売却していなければ、20億円の損失が確定したわけではありません。

このように保有したまま生じている評価上の損失を含み損と呼びます。

反対に現在価値が取得価格などを上回っている状態が含み益です。

含み損と実現損は違う

含み損が生じたからといって、直ちに同額の現金が失われるわけではありません。

物件を保有し続けている限り、賃料収入を得られる可能性があります。

将来、不動産価格が回復することもあります。

一方、含み損を抱えた物件を実際に売却すれば、その時点で損失が実現します。

例えば帳簿上100億円の物件を80億円で売却すれば、単純化すると20億円の売却損が発生します。

含み損は潜在的な損失であり、売却などによって実現する損失とは区別して考える必要があります。

REITでは鑑定評価額が重要になる

REITが保有する不動産の価値を見るときに重要なのが鑑定評価額です。

不動産は上場株式のように毎日市場価格が表示されるわけではありません。

同じビルが毎日売買されているわけでもありません。

そこで不動産鑑定士などが物件の収益力や周辺の取引事例などを分析し、価値を評価します。

REITの開示資料では、保有物件について帳簿価額と鑑定評価額を比較できる場合があります。

鑑定評価額が帳簿価額を上回っていれば含み益があると考える材料になります。

反対に鑑定評価額が帳簿価額を下回れば、含み損を抱えている可能性があります。

不動産価値は収益力から考えられる

収益不動産の価値を考える基本的な方法の一つが、物件から得られる収益を基準にする考え方です。

ここで重要になるのがNOIとキャップレートです。

NOIは、不動産から得られる賃料収入などから管理費などの運営費用を差し引いた収益です。

キャップレートは、投資家が不動産に求める収益率を示す指標です。

非常に単純化すると、不動産価値は、

NOIをキャップレートで割る

という考え方で捉えることができます。

この関係を理解すると、なぜ金利上昇が不動産価格に影響するのかが見えてきます。

キャップレート上昇で不動産価格は下がる

例えば年間4億円のNOIを生み出す不動産について考えます。

キャップレートが4%なら、単純化した不動産価値は100億円です。

ところが投資家が求めるキャップレートが5%へ上昇するとどうなるでしょうか。

同じ年間4億円のNOIでも、不動産価値は80億円になります。

賃料収入が変わっていなくても、投資家が求める利回りが上昇するだけで理論上の資産価値は低下します。

これが金利上昇局面で不動産価格に下落圧力がかかる重要な仕組みです。

なぜ金利が上がるとキャップレートも上がるのか

不動産投資は他の金融商品との比較で判断されます。

例えば国債利回りがほぼゼロだった時代には、4%程度の不動産利回りには大きな魅力がありました。

しかし国債利回りが大きく上昇すると、不動産投資の見方も変わります。

不動産には空室、災害、修繕、価格下落、流動性などさまざまなリスクがあります。

安全性の高い国債から一定の利回りを得られるのであれば、投資家は不動産に対してより高い利回りを求める可能性があります。

その結果、キャップレートに上昇圧力がかかります。

キャップレートが上昇すれば、不動産価格には下落圧力がかかるという関係です。

NOIが増えれば価格下落を吸収できる

ただし、金利が上昇したからといって、すべての不動産価格が同じように下落するとは限りません。

重要なのがNOIです。

例えば賃料を引き上げることができれば、NOIも増える可能性があります。

先ほどの物件で年間NOIが4億円から5億円へ増えたとします。

キャップレートが5%でも、単純化した不動産価値は100億円です。

つまりキャップレートが上昇しても、物件の収益力が高まれば資産価値を維持できる可能性があります。

金利上昇局面では、単純な物件価格だけでなく、賃料を引き上げられる物件なのかという点が重要になります。

物件によって影響は異なる

キャップレートの変化は、すべての不動産で同じではありません。

都心の優良オフィスや好立地の住宅など、投資需要の強い物件ではキャップレートの上昇が限定的になることがあります。

一方、人口減少地域の物件や競争力の低い商業施設、老朽化したオフィスなどでは、投資家がより高い利回りを求める可能性があります。

また、多額の修繕費が必要になる物件では将来のキャッシュフローも低下します。

その結果、金利上昇局面では優良物件とそうでない物件の価格差が広がる可能性があります。

含み損はLTVにも影響する

不動産価格の下落は、REITの財務にも影響します。

重要なのがLTVです。

LTVは保有資産に対してどの程度の有利子負債を抱えているかを見る指標です。

例えば100億円の不動産に対して50億円を借りているとします。

単純化するとLTVは50%です。

ところが不動産価値が80億円へ下落しても借入金が50億円のままであれば、資産価値に対する借入金の割合は高くなります。

つまり不動産価格が下落すると、実質的な財務余力が小さくなります。

借入金を増やして成長する余地も狭くなる可能性があります。

借り換えにも影響する可能性がある

不動産価値の低下は借り換えにも影響します。

金融機関は融資を行う際、REITの財務状況や保有不動産の価値を確認します。

資産価値が大幅に下落し、負債比率が高まれば、以前と同じ条件で融資を受けにくくなる可能性があります。

金利そのものが上昇しているところに、信用リスクに対する上乗せ金利まで高くなれば、資金調達コストはさらに増えます。

金利上昇

不動産価格下落

財務余力低下

借り換え条件悪化

という連鎖が起きる可能性があるのです。

含み損物件を売却する難しさ

財務改善のために物件を売却しようとしても、含み損があると難しい判断を迫られます。

売却すれば現金を確保して借入金を返済できます。

しかし同時に損失が実現します。

そのため、含み損を抱えていても売却を先送りしたくなる場合があります。

一方、競争力の低い物件を持ち続ければ、修繕費が増えたり、賃料収入が減少したりする可能性があります。

損失を確定してでも売却した方が将来的には有利というケースもあります。

アセットマネージャーには難しい判断が求められます。

私募REITでは流動性問題にもつながる

私募REITの場合、不動産の含み損は流動性問題とも関係します。

投資家から資金回収の要請が増え、保有不動産を売却する必要が生じた場合を考えてみます。

市場価格が下落していれば、含み損を実現してでも物件を売却しなければならない可能性があります。

さらに複数の私募REITが同時に物件を売却すれば、不動産市場の需給が悪化する可能性もあります。

平常時には評価上の数字に見える含み損が、資金流出局面では実際の損失へ変わることがあります。

再編では含み損と含み益の確認が重要になる

REIT同士の合併やファンド再編でも、保有物件の含み損益は重要です。

資産総額が同じ1000億円のREITでも、保有不動産に大きな含み益がある場合と、大きな含み損がある場合では実質的な資産価値が異なります。

そのため再編を見る際には、単純な帳簿上の資産総額だけで判断するのでは十分ではありません。

鑑定評価額や物件の収益力、将来必要となる修繕費などを見る必要があります。

金利上昇によって再編が進むほど、保有資産の質が重要になります。

結論

不動産の含み損とは、保有している不動産の現在価値が帳簿上の価格を下回っている状態です。

金利が上昇すると、投資家が不動産に求める利回りであるキャップレートにも上昇圧力がかかり、不動産価格が下落する可能性があります。

一方、賃料引き上げなどによってNOIを増やすことができれば、キャップレート上昇による価格下落を吸収できる場合もあります。

重要なのは、金利上昇の影響が支払利息だけにとどまらないことです。

不動産価格が下落すれば、含み損、LTVの上昇、借り換え条件の悪化、物件売却損などへ問題が連鎖する可能性があります。

REIT市場が金利のある世界へ移行するなかでは、分配金や表面的な利回りだけでなく、帳簿価額と鑑定評価額の差、キャップレート、NOIなどから保有不動産の実質的な価値を確認することが、これまで以上に重要になるでしょう。

参考

日本経済新聞 2026年8月7日 朝刊
私募REIT曲がり角 国内初の解散、調達コスト増 金利上昇が再編促す

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