インデックスファンドやETFの普及によって、パッシブ運用は世界の資産運用の中心になりました。
低コストで分散投資ができることから、多くの個人投資家が長期資産形成の手段として活用しています。
一方で、「パッシブ運用が増え過ぎると市場がゆがむのではないか」という議論も近年活発になっています。
本当にそのような問題は起きているのでしょうか。
今回は、パッシブ運用を巡る代表的な論点について考えてみます。
パッシブ運用とは
パッシブ運用とは、株価指数に連動する運用成果を目指す投資手法です。
S&P500やTOPIX、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)などをベンチマークとし、指数とほぼ同じ構成で投資を行います。
市場平均を上回ることではなく、市場全体の成長を効率よく取り込むことが目的です。
売買回数が少なく運用コストも低いため、長期投資との相性が良いとされています。
大型株集中の問題
パッシブ運用への批判として最も多いのが、大型株への資金集中です。
多くの株価指数は時価総額加重方式を採用しています。
そのため、時価総額が大きい企業ほど指数に占める割合が高くなり、インデックスファンドへ資金が流入すると、その企業へも自動的に多くの資金が投資されます。
近年では米国の巨大IT企業が指数全体に占める割合を大きく高めています。
その結果、「人気企業へさらに資金が集まり、株価が一段と上昇する」という循環が起きやすくなるのではないかという懸念があります。
価格発見機能への影響
株式市場には、本来「価格発見機能」があります。
投資家が企業業績や将来性を分析し、「この企業は割安だ」「割高ではないか」と判断して売買することで、株価は適正な水準へ近づいていきます。
しかし、パッシブ運用では企業分析を行わず、指数に沿って機械的に売買します。
そのため、「市場参加者の多くがパッシブ運用になると、企業価値を分析する投資家が減り、適正な株価が形成されにくくなるのではないか」という指摘があります。
この点は、近年の金融市場で最も議論されているテーマの一つです。
賛成派の主張
一方、パッシブ運用を支持する意見も数多くあります。
第一に、現在でも市場価格を決めているのはアクティブ投資家であり、パッシブ運用はその価格を利用しているだけという考え方です。
市場価格は、企業分析を行う投資家による売買によって決まり、その価格に合わせてインデックスファンドが売買するため、市場機能が失われるわけではないという見方です。
第二に、インデックス投資によって投資コストが大幅に低下し、多くの個人投資家が資産形成に参加できるようになったという社会的な意義も評価されています。
反対派の主張
反対派は、市場に流入する資金の大部分が指数連動型になれば、一部企業への資金集中がさらに進み、市場のゆがみが大きくなると考えています。
また、指数に採用されるだけで大量の資金が流入し、反対に指数から除外されると資金流出が起きることも指摘されています。
企業価値そのものよりも、「指数に採用されているかどうか」が株価へ影響する場面が増えれば、本来の市場機能が弱まる可能性があるという考え方です。
この問題については、学術研究でもさまざまな分析が続けられています。
現時点での評価
現在のところ、多くの研究者や市場関係者は、「パッシブ運用が市場を完全にゆがめている」とまでは考えていません。
確かに大型株への資金集中など一定の影響は認められますが、市場には依然として多くのアクティブ投資家が存在しています。
企業分析や価格発見機能も十分に働いており、市場全体の機能が失われているわけではないという見方が一般的です。
今後さらにパッシブ運用の比率が高まれば、新たな課題が生じる可能性はありますが、現時点では市場全体の健全性を損なうほどの状況には至っていないと考えられています。
結論
パッシブ運用は、低コストで長期資産形成を可能にした資産運用の大きな革新です。
一方で、大型株への資金集中や価格発見機能への影響など、市場構造に関する新たな論点も生み出しました。
現時点では賛成派、反対派の双方に一定の根拠があり、結論はまだ出ていません。
投資家としては、こうした議論があることを理解しながらも、短期的な話題に振り回されることなく、自らの投資目的や長期的な資産形成の方針に沿って判断することが重要です。
参考
日本経済新聞(2026年8月1日朝刊)「インデックス投信、運用革命 誕生50年、業界塗り替える」
ジョン・C・ボーグル『インデックス投資は勝者のゲーム』
バートン・G・マルキール『ウォール街のランダム・ウォーカー』
ハンナ・ウンターバーグ氏によるパッシブ運用と市場構造に関する研究(2026年ツー・シグマ賞受賞論文)