ハラスメントの相談を受けた後、企業が次に行うべきことが調査です。
しかし、調査の目的は「加害者を探すこと」ではありません。事実を正確かつ公平に把握し、適切な対応につなげることが本来の目的です。
調査の進め方を誤れば、被害者だけでなく行為者の権利も侵害し、会社への信頼も失われます。だからこそ、客観性と公平性を意識した調査体制が欠かせません。
今回は、ハラスメント調査の実務について、「ヒアリング手法」「客観的証拠」「調査報告書」の3つのポイントから解説します。
ハラスメント調査の目的
調査では、誰かの主張をそのまま事実として扱うのではなく、複数の情報を照らし合わせながら事実を確認していきます。
被害者を守ることは重要ですが、それと同時に行為者にも説明の機会を与え、公平な手続を確保しなければなりません。
感情ではなく事実を積み重ねて判断する姿勢こそが、公正な調査の基本となります。
ヒアリングは一方向ではなく多角的に行う
調査では、最初に相談者から詳しく事情を聴き取ります。
その後、必要に応じて行為者本人からも事情を確認し、さらに第三者がいた場合には目撃者などからもヒアリングを実施します。
取引先が関係するカスタマーハラスメントでは、相手企業に事実確認への協力を求めることもあります。
一人だけの証言で結論を出さず、多角的な情報収集を行うことが、公平な事実認定につながります。
ヒアリングでは事実と評価を分ける
ヒアリングで重要なのは、「何が起きたか」と「どう感じたか」を区別して整理することです。
例えば、
・いつ起きたのか
・どこで起きたのか
・誰がいたのか
・どのような発言や行動があったのか
・その結果、どのような影響が生じたのか
というように、具体的な事実を時系列で確認していきます。
担当者が先入観を持って誘導したり、自分の判断を押し付けたりしてはいけません。中立的な姿勢を維持することが調査の信頼性を高めます。
客観的証拠を積み重ねる
証言だけでは事実認定が難しいケースも少なくありません。
そのため、企業は客観的な証拠をできる限り収集します。
例えば、
・防犯カメラ映像
・録音データ
・メール
・チャット履歴
・SNSのやり取り
・現場対応記録
などは重要な証拠になります。
カスタマーハラスメントでは、録音や録画を実施することを事前に周知しておくことで、抑止効果も期待できます。また、取得した情報は利用目的を明確にし、適切に管理する必要があります。
調査報告書は事実を整理するための資料
調査が終われば、内容を整理した調査報告書を作成します。
報告書には、
・調査日時
・調査対象者
・ヒアリング結果
・収集した証拠
・確認できた事実
・確認できなかった事項
などを整理して記載します。
ここで重要なのは、事実と推測を混同しないことです。
「証拠で確認できた事項」と「判断できなかった事項」を区別して記録することで、その後の懲戒処分や再発防止策の検討も適切に進めることができます。なお、記事では調査報告書の様式自体は掲載されていませんが、相談受付票やヒアリング記録シートなどを活用し、調査内容を整理する重要性が示されています。
判断は厚生労働省の指針と社内規程に基づく
ハラスメントに該当するかどうかは、担当者個人の感覚で決めるものではありません。
厚生労働省の指針を基準とし、自社のハラスメント防止規程に沿って、経営者などが総合的に判断します。
調査担当者は、あくまで事実を収集・整理する役割を担い、最終判断を行う立場とは分けることが、公平性を確保する上で重要です。
結論
ハラスメント調査では、「公平性」と「客観性」が何よりも重要です。
相談者、行為者、第三者から幅広くヒアリングを行い、客観的証拠を積み重ねながら、事実を丁寧に整理していくことが求められます。
また、担当者は判断者ではなく、事実を整理する役割であることを意識し、最終的な認定は厚生労働省の指針や社内規程に基づいて行う必要があります。適切な調査は、被害者の救済だけでなく、企業全体への信頼を守る基盤にもなるのです。
参考
企業実務 2026年8月号
「対策義務化直前!中小企業によく効く ハラスメントへの処方箋」 飯村なつき 著