トークン化預金は、銀行預金をブロックチェーンなどのデジタル基盤上で動かせるようにする仕組みです。
そこで気になるのが、銀行が破綻した場合です。
普通の銀行預金には預金保険制度がありますが、預金がトークンになっても同じように保護されるのでしょうか。
この問題を考えるうえで重要なのは、トークンという技術的な形ではなく、そのお金が法律上どのようなものとして扱われるかです。
トークン化預金だから自動的に保護されるわけでも、ブロックチェーンを使っているから保護されないわけでもありません。
預金保険制度とは何か
預金保険制度は、銀行などの金融機関が破綻した場合に預金者を保護するための制度です。
銀行は預金者から預かったお金を、そのまま金庫に保管しているわけではありません。
企業や個人への融資などに利用しています。
そのため銀行の経営が悪化し、破綻する可能性はゼロではありません。
そこで金融機関が破綻した場合でも、一定の範囲で預金者を保護する仕組みが設けられています。
預金保険制度は、銀行預金に対する信用を支える重要な金融インフラの1つです。
日本の預金はどこまで保護されるのか
日本では、利息の付く普通預金や定期預金などについて、原則として1金融機関ごとに預金者1人当たり元本1000万円までと破綻日までの利息などが保護されます。
一方、決済用預金は一定の要件を満たせば全額保護されます。
つまり、銀行に預けているお金がすべて無条件に全額保護されるわけではありません。
預金の種類によって扱いが異なります。
トークン化預金について考える場合にも、元になっている預金がどのような性質を持つのかが重要になります。
トークン化しても預金であることが重要
トークン化預金は、銀行が保有する顧客の預金口座残高をデジタル上で移転できるようにする仕組みです。
基本的な考え方では、トークン化したからといって銀行預金という性質そのものを失うわけではありません。
例えば銀行に対する1万円の預金債権を、ブロックチェーン上で移転できるようにしたとします。
技術的な記録方法が変わっただけで、利用者が持っているものが銀行に対する預金債権であるなら、通常の預金制度との連続性があります。
この点が、暗号資産などと大きく異なります。
預金保険の対象になる可能性
トークン化預金が法律上も銀行預金として位置付けられていれば、各国の預金保険制度の対象になる可能性があります。
今回、Swiftが試験運用を進めているトークン化預金についても、各国の預金保険制度の対象になるケースが多いとされています。
これはトークン化預金の大きな特徴です。
ブロックチェーンを利用しながら、銀行預金が持つ既存の法的保護を維持できる可能性があるからです。
銀行にとっても、既存の預金制度を生かしながら決済技術だけを新しくできることには大きな意味があります。
世界中で同じ扱いとは限らない
ただし、ここで注意が必要です。
トークン化預金という名前が付いていれば、世界中で自動的に預金保険の対象になるわけではありません。
金融制度は国によって異なります。
トークン化された預金を法律上どのように位置付けるのかも、制度設計によって変わる可能性があります。
さらに、どの銀行が発行しているのか、どの国の制度が適用されるのか、どのような商品設計になっているのかによっても扱いが異なります。
国際送金で利用する場合には、この点が特に重要になります。
ステーブルコインとの違い
預金保険という視点から見ると、トークン化預金とステーブルコインの違いも分かりやすくなります。
トークン化預金は銀行預金が基礎になっています。
一方、ステーブルコインは法定通貨と価値が連動するように設計されたデジタル資産です。
発行主体が現金や国債などの裏付け資産を保有することで価値を維持する仕組みがあります。
しかし、それは銀行預金と同じ意味で預金保険によって保護されるということではありません。
利用者を守る仕組みは、それぞれの制度や商品によって異なります。
同じ1万円相当のデジタルマネーでも、万一の場合の保護まで同じとは限らないのです。
暗号資産とも違う
ビットコインなどの暗号資産も、通常の銀行預金とは性質が異なります。
市場価格が変動し、銀行に対する預金債権ではありません。
銀行預金のように、銀行が破綻した場合に預金保険で一定額が保護される仕組みとは別の世界です。
トークン化預金はブロックチェーンを使うことがあるため暗号資産と似て見えますが、利用している技術だけで判断してはいけません。
何をトークン化しているのかが重要です。
銀行預金をトークン化しているのか、別のデジタル資産を発行しているのかによって、利用者が持つ権利は大きく異なります。
利用者は何を確認すべきか
将来、個人や企業がトークン化預金を利用する機会が増えた場合には、いくつか確認すべき点があります。
まず、誰が発行しているのかです。
次に、そのトークンが法律上、本当に銀行預金として扱われるのかを確認する必要があります。
さらに預金保険制度の対象なのか、対象であればどの範囲まで保護されるのかも重要です。
特に海外の銀行が発行するトークン化預金を利用する場合には、日本の預金保険制度がそのまま適用されるとは限りません。
デジタルマネーでは、利便性だけでなく法的な位置付けを確認することが重要になります。
技術より信用の仕組みを見る
金融のデジタル化が進むと、ブロックチェーンやトークンという技術に目が向きがちです。
しかし、お金を安心して利用できるかどうかを決めるのは技術だけではありません。
誰が発行しているのか。
利用者は誰に対する権利を持っているのか。
発行主体が破綻した場合にどのような保護があるのか。
こうした信用の仕組みが重要です。
トークン化預金が銀行預金としての法的な性質と保護を維持できるのであれば、既存の銀行制度の安心感と新しいデジタル決済の利便性を組み合わせられる可能性があります。
結論
トークン化預金が預金保険の対象になるかどうかは、ブロックチェーンを使っているかではなく、法律上どのような預金として位置付けられているかによって決まります。
銀行預金そのものをトークン化し、制度上も預金として扱われるのであれば、預金保険制度の対象になるケースがあります。
一方、国や商品によって制度は異なるため、トークン化預金なら必ず保護されると考えるのは適切ではありません。
重要なのは、デジタルマネーの見た目ではなく、その裏側にある権利と信用の仕組みです。
誰が発行し、何に対する権利であり、万一の場合にどの制度で守られるのか。
トークン化預金が普及するほど、利用者にもこうした確認が求められるようになるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 トークン化預金、国際送金即時に